幕間 醜いセカイと同級生のコト Ⅶ・Ⅰ
1ねん1くみ くが まゆみ
わたしのおとうさんは、いつもしごとでいそがしそうにしています。だから、あまりおうちにいなくてさみしいです。でも、おかあさんはいいました。おとうさんががんばってはたらいているから、がっこうにもいけるし、おいしいごはんもたべることができるんだって。それをきいたわたしはよくいみがわかりませんでした。
このあいだ、おとうさんがあさになってからかえってきました。わたしはもうねてたけどすぐにおきてあいにいきました。ひさしぶりにあったおとうさんはたのしそうにしていました。おみやげもくれました。そのおみやげからはすごくいいにおいがしたので、わたしはもってかえろうとしたけど、おかあさんにとめられてしまいました。もしかしたらなにかだいじなものだったのかなとおもいました。
わたしのおとうさんはすごくにんきものみたいです。おやすみのひも、だれかといっしょにでかけていくことがおおいです。わたしはいっしょにあそんでほしいのですこしさみしいですが、おかあさんはあれもおしごとなんだっていいました。
そんなおかあさんはあまりおとうさんをおこったりはしないんだけど、いっかいだけすごくおこったことがありました。かいしゃのどうりょうというおんなのひとをつれてきたときでした。あんなにおこったおかあさんをみたのははじめてだったのですごくこわかったです。それからおとうさんはそのひとをつれてくることはなくなりました。でも、やっぱりにんきものなのか、ときどきうちにはおおくのひとがあそびにきます。そんなおとうさんはすごいなとおもいました。
◇
「それじゃまた明日……あ、」
帰りの挨拶も終わって、さあ帰ろうと思っていたとこだった。
「
担任の
「はい」
でも、悪い事でもなさそうだから、まあいいかな。川口先生は白い歯を見せて二カッと笑って、
「うし。それじゃちょっとついてきてくれ。あ、皆はさっさと帰るように。寄り道するんじゃないぞー」
そんな言葉を投げて、教室を後にする。私も遅れないようにその後をついていく。
途中私は気になって、
「あの、頼みたいことってなんですか?」
前を歩く川口先生は振り向かずに、
「んー……着いたら話すよ。取り敢えずついてきて」
曖昧にはぐらかす。どうしたんだろう。もしかしてとんでもないことを手伝わされてしまうんじゃないか。それだったら嫌だな。そんな気持ちがぐるぐると渦巻いていく。
やがて職員室までくると、川口先生はその扉を開けて、顔だけ差し入れて、
「福島さん!あっちでいいんですよね?」
部屋の中から、
「うん。先行っててもらえる?私も後から行くから」
「分かりました」
川口先生はそれだけ言って扉を閉めて、私の方を確認すると、
「着いてきて」
それだけ告げて再び歩み始める。その足は少しして、一つの部屋の前で止まる。私は思わず見上げる。そこに書いてある漢字を読むことは出来なかったけど、上にふりがなが降ってあったからそれを読み上げる、
「だんわしつ……」
「そ。使ったことない?」
私は首を横に振る。使ったことがあるかどうかという以前に、まずこんな部屋があるのも初めて知った。そもそも、職員室の周辺は用事がなければあまり歩かないところだ。
川口先生は再び歯が見える位ニカッと笑い、
「そっか。まあ、俺もそんな使ったこと無いんだけどな。ここ。結構良いソファーとかあるんだよなぁ……職員室に分けてほしいくらいだよ」
冗談を言って笑い、
「んじゃ、入りますか」
扉を開けて先行する。私はおずおずとその後をついて部屋に、
「わっ……」
入ってみるとなかなかの異世界だった。学校の椅子は大体が木で出来た、冬には直接座ると寒いようなやつか、パソコン室とかにあるくるくる回る椅子くらいだと思ってた。まさかソファーがあるなんて。
川口先生は後ろ手に部屋の電気と空調を操作しながら、
「座って座って」
「いいの?」
「もちろん。どーんといっちゃって」
先生がそういうなら。そんな言い訳みたいなことを考えながら対になってるソファーのの片っぽに、思いっきりダイブするように座る。
「ふかふか~」
「ははっ。そうだろ。そのソファー、校長室にもあるらしいぞ」
「ホントに?私、校長先生になろうかな」
「はっはっはっ、いいんじゃないか。応援してるぞ」
そんな言葉でいい気になった私は、深々とソファーに座って腕を組んで、
「えー……今日は君たちが静かになるまでに十分以上かかりました」
「それ、教頭先生でしょ」
「そうだっけ」
「そうだよ。はい、どうぞ」
そう言って川口先生は私の前も含めて三人分のお茶をテーブルに置く。私は口をとがらせて、
「お茶ぁ?」
「なんだ、お茶は嫌いか?」
「うーん……きらいじゃないけど、うちでいつものんでるから」
「家で?それは例えば、」
コンコン。
小さいけれどはっきりと、ノックの音が響く。それで初めて気が付く。この部屋の中はすごく静かだ。なんていうか、不気味なくらい。
「どうぞ!空いてますよ」
そんな声を聞いたのか、扉が開き、
「すみません遅くなって……」
大人の人が入ってくる。女の人だ。見覚えは……あんまりない。
「いえいえ。大丈夫ですよ、」
川口先生は自分の隣を指し示し、
「あ、ここどうぞ」
女の人は軽く会釈をし、
「すみません。それじゃ、失礼して」
そこに座る。気が付くと私と二人の大人の人が対面するような感じになっていた。なんか嫌な感じ。
女の人は紙切れを私に差し出して、
「申し遅れました……私、福島
「はぁ……」
私は差し出された紙を取り敢えず受け取って眺める。漢字ばっかりで読めないけど、多分お父さんが良く貰ってくる「めいし」ってやつなのかな。ひとつだけカタカナで読みやすい所には「スクールカウンセラー」って書いてある。
川口先生は一つ咳払いをして、
「さっき、さ。久我に頼みたいことがあるっていっただろ。あれ、実は嘘なんだ」
「え」
先生はソファーとソファーの間にあったテーブルに打ち付けそうな勢いで頭を下げて、
「ごめん!だけど、聞きたいことがあるとかいう言い方をすると角が立っちゃいそうだから、嘘、ついた。一応プリントを作ったからそれを配っては貰うけど、別に久我じゃなくても良いものなんだ。それはホントにゴメン」
戸惑った。
先生が謝っているところなんて見たことが無かった。
しかも、自分にとなればなおさらだ。
私はしどろもどろになって、
「あ、いや、別に、いい、んですけど。え、でも、なんで、そんな」
福島はぽつりぽつりと、
「実はね、そのことなの。私が相談を受けたのは」
「そうだん?」
「ええ。川口の方から困っているって言われてね。それで今日は実際にお話しを聞いてみましょうってことになったの」
川口が顔を上げ、
「単刀直入に聞く。久我のお父さんとお母さんって普段どんな感じに接してる?」
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