寸劇 叶わなかった幾つもの願い
延々と井戸の底へと落ちていく。
ぐるぐるぐるぐる私の精神が回り、
レコードに爪か針を立てるように、線を描き削っていく。
滑らかな精神の傷に別の何かが融けて埋まり一つになる。
胸が締め付けられているような、緩んでいくような……
私の魂……パズルのピースは残らず埋まり、
継ぎ目が溶けて消えていく。
あちこちが別の部品のはずなのに、違和感がない。
どこまでも滑らかな精神。
たしかにもう剥がれず、バラバラになることもなさそうだ。
暗い井戸の底に、
立っている人がいる。
こちらの存在に気が付いていて、
静かに視線を向けている。
それは私だった。
私が、こっちを見つめている。
鏡越しなんかとは明らかに違う現象にも関わらず、
気持ちの悪さはなく、動揺もない。
お互いの意志で、片手が合わさるように動いていって、
手のひらが触れたとき、すり抜けて消えた。
かちり。
……いや、正しく言うなら。
重なった部分は、動かせるようになった。
あの劇場。舞台の上で――そこだけが認識できる。
かちり。かちり。
手や足でこうなら、頭……というか心、精神。
魂みたいなものを重ねてしまったら、どんな風になるだろう?
呼吸をするのは誰になり、なにを考えていくのか?
かちり。かちり。かちり。
同じ大きさのシャボン玉がくっつき、一つになるように。
自動的で止められない。離れようにも離れられない。
ここ数日、身体を動かしていた誰かが頭に浮かんだ。
ああ、もう私は私じゃいられないんだな。
表に出る役はやって来ない。自分の身体なのに。
この手のひらや、涙の温度も変わってしまうんだろう。
手が冷たい人は心が温かく流れる涙も熱い――
心が別人になれば、感じ方も違うんだから。
再び舞台に立っても、それは別の日野陽菜だ。
……思うことはいくつかあるんだよ。
でも何か、あと少しだけ、考えていられるとしたら……
思ったままで、終われるのなら。
『わたしの名前は……いや、わたしの願いは――』
『……』
『聞いてもいい? あなたの願いは何?』
『……』
せめてこの心の中で、
大切なものが消えないように。
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