幕間 199X年3月24日 閲覧注意
《本番まで数日の悲劇》《舞台俳優 澤村
《舞台装置に挟まれ 管理に問題は?》《伝統芸能の架け橋 無念》
小屋入りした次の朝。
舞台床下(地下)で澤村仁が死亡しているのをスタッフが発見。
当初は舞台から奈落に落ちてしまったのかと思ったが、異様な澤村さんの姿を見て叫んだという。澤村さんの体は二つに分かれた状態だった。
医師の死亡診断書によると、澤村は肋骨の下から切断され、それ以外には上半身、下半身ともに異常が無かった。両手の爪と指先の一部に裂傷が見られたが、舞台装置へ巻き込まれる最中、抵抗を試みたとされる。
発見前日。澤村さんは初日にしては珍しく練習を切り上げ、その後の小屋入り懇談(打ち上げ)も断っていた。
主役の場当たりは終わっていたので、全体的な音響や小道具のチェックと、主役のないシーンの見せ場を重点的に練習していた。小屋入り初日の仕上げも終わりに近付いた時、地下から大きな悲鳴が聞こえる。音響を流していた状態でも聞こえた声を、手の空いたスタッフの悪ふざけと思い「上(舞台)でまだ(稽古を)やってんだぞ!」と俳優の一人が強く怒鳴った。
この際、舞台装置は動かしていなかったという証言が揃っている。
《いくつも残る謎》
死亡推定時刻はおよそ初日の17時。
30分以内の誤差はあるものの、ちょうど舞台稽古が終わる前後で、証言と合わせると叫び声は澤村本人とみて間違いないものと思われる。舞台地下に人員はなく、灯りは消していたため、片付けや確認しに行ったスタッフもあまり内部を詳しく見ることは無かったとされる。
《おびただしい血》
即死の状態で周辺には血が飛び散っていた。
事故直後スタッフが舞台の点検をしに行ったが、その時は気付かなかったという。真っ暗で視界が悪かったとしても、鮮血の臭いはまず鼻につくはずである。
《いつ誰が舞台装置を動かしたか》
舞台装置の作動音に誰も気付かなかったので、練習が終わり人員がはけた直後、澤村が地下で舞台装置を作動させ巻き込まれたとみる。
叫び声が事故と関係があるかは未だ不明。
またスイッチを付ける者と、その場に澤村本人がいないと事故は成り立たない。
地下の出入りはなく、巻き込まれやすい衣装を着ていたわけでもないのでこの点は疑問が残る。
《断面の一致》
遺体の切断面はぴたりと一致するほどはっきりしていて、動力部のチェーンが巻き付いたことが直接的な死因ではなく、事故の際ワイヤーなどが偶然引き込まれ、強く締め付けるような形になったとされるが、検証の結果、繊維の束やワイヤー等は発見されていない。
《自殺? あるいは奇行?》
舞台装置を起動させ、動力源のチェーンに飛び込めば単独でも可能である。
しかし遺書はなく、誰かに自殺を仄めかすような言葉もない。
また澤村本人が役者達を驚かせようと、地下で準備していたとも考えられる。澤村は周りを楽しませるという名目でしばしば奇行が目立ち、役者達の間では評判が大きく分かれるところだった。
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