第8話

…思っていたより遠いな。

白い坂を降っても降っても、一向に目指す場所は近づいてこない。追い討ちをかけるように、この暑さが僕の体力を奪ってゆく。

いったいどれほど歩いたのだろう。ふと、振り返ってみると、白い坂は天に登る一本道のように美しく見えた。かなり歩いてきていることがわかった。それなのに、全然近づいていない。こんなに遠いとは思わなかった。

周りの景色もほとんど変わらない。さまざまな形をした白い壁の家が点々と並び、所々に雑草。初めは見たことのない景色で、ワクワクしていた気持ちも、今となっては特異な景色がなくて、飽きてしまっていた。


そして、やはり、この道の辺りにも人の気配が全くない。道で人に出会うかもしれないと思い、かなり慎重に行動していたのだが、途中でやめてしまった。そのくらい静かで、閑散とした雰囲気だ。


微かに波音が聴こえる。あんなに遠くに海はあるのに…

それ程にこの場所が静かであることを僕は感じる。


それにしても…喉が渇いた。


この炎天下の中、何時間も歩き続けている。

どのくらい水を飲んでいないかも記憶がないのでわからないが、少なくとも、起きてからずっと何も口にしていない。あの部屋の水道で水を飲んでおけばよかった。今更後悔している。


あれ、そういえば…目が覚めてから、時計を見ていない。部屋にもなかったし、外にもなかった。

日付もわからない。この暑さだからきっと7月か8月なのだろうが。


自分のことが分からなくて混乱していたからか、こんな当たり前の情報の欠落に気が付かないなんて。改めてたくさんの疑問が頭に浮かぶ。


だけど、その疑問を深く考えたいのに考えられなかった。頭が思考することをやめてくれと叫んだ。


…水。流石に限界だ。

目の前が少しぐるぐると回り始めている。視界の端の方も暗くなっている。


このまま歩き続けるのはまずい。

本能でそう察した。


そして、僕は近くの家に入る決意をした。

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海を走る列車 志村 @mao-desu

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