第5話 壁ドン

 ある昼のことでした。

たーくんがいつものように部下にてきぱきと仕事の指示を出し、城の中が滞りなく動いているのを確認していると、廊下の向こうから突然、いろはちゃんがやってきました。

「・・・いろはさん、何か怒ってます?」

「怒っていません!!」

絶対、怒ってる。そう思いましたが、たーくんは口には出さずに目の前にやってきたいろはちゃんの顔を覗き込みました。

「いろは、どう「たーさん!」うわっ」

どうしたの?と尋ねようとしたたーくんの体はそのまま、いろはちゃんによって壁に押し付けられました。極々近距離にはいろはちゃんの真剣な眼差しがあります。

「い、いろは?」

「たーさん、ドキドキしますか?」

「はい?」

くりくりとママ似の大きな瞳が、ガラス玉のようにたーくんの困惑した顔を映しています。

「さっき、女御たちが話していました。こうして、壁にドンとされると異性はドキドキするそうです。どうですか、たーさん。ドキドキしますか?」

真面目な表情で尋ねてくるいろはちゃんに、たーくんは何と答えていいやら顔が近いやらで口元がムズムズと緩んでしまいます。

「あのね、いろはさん。とってもドキドキするけど、それは、たぶん・・・・」

「何ですか?違いましたか?」

「・・・・ううん、合ってる。すっごいドキドキしますよ。」

途端に嬉しそうに笑ういろはちゃんに、たーくんも釣られたように笑いました。



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たーくんといろはちゃん 霜月 風雅 @chalice

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