旅立ちのとき

バードが行ってしまうと知ってエミリは泣きじゃくった。一度決めたこととはいえ決心が揺らぐ。しかしバードはもう迷わなかった。


「立派な大人のところでもう学校にも通うんだよ」


「お姉ちゃん!わああ!」


エミリの悲鳴のような鳴き声がいつまでもアジトに響く。リュックはもらい泣きしていた。フェルマはかわいそうとそれだけ言って耳を塞いだ。


「エミリは孤児院に?」


「その予定ですあまり自由にはならなくなりますが多分学校にも通えるでしょう」


おかしらが泣き叫ぶエミリを抱きかかえるとよりいっそう泣き叫んだ。エミリとの永遠の別れのとき、しかし生きていればまた会えるのだ。もう二度と会えなくなった家族とは違うのだ。


「さようならエミリ」


バードは自分でも重大な決心をしたとあとから思っていた。たぶん流されるようにそれまで生きてきたのだ。盗賊稼業もたまたまおかしらに拾われたのでやっていたのだ。エミリも自分についてきたのだ。答えを見つけるためにもう自分は変わるのだ。いつの日か修道女が言うような神様を信じてもいい。バードは泣き叫ぶエミリを置いてフェルマに洗いざらいを話した。


「答えを探すためにあの女の子と一緒に行くというの」


「その先に何があるのかはよくわからない、答えが存在するのかどうかもわからない、でも行くしかないんだ今俺はそうするしかないと思ったんだ」


重大な決心をしたあとの人生の行方を追い求める少女の姿はフェルマに強烈な印象を与えた。そしてフェルマはしばらくじっと机を眺めていて、バードに視線をあわせた。


「私も答えを探したい」


「死ぬことになるかもしれないのに?」


「答えがあるのなら私も行きたい!こんなバラックでずっと…お茶を飲んで過ごすなんて…」


フェルマはそう強く言って私も行くと一言言った。


「でもあんた、おかしらの恋人なんだろ愛してるって言ったの嘘なのか」


「半分くらいは本当、でも半分くらいは嘘私もバードと同じ迷い続けてここにいただけなの」


「そんな風には見えなかった」


「私も連れて行ってバードここから連れ出して?あなたの神様を探す旅に連れて行って」


「フェルマ……」


盗賊のアジトで二人の少女がなにかを求め、旅だとうとしていた。しかし何か求め得るためにはそれなりのリスクが必要だった。盗賊稼業を抜け出すということは簡単ではないのだ。おそらく命を狙われることになるだろう。それでも行くのだ。半ば夜逃げのように二人はこのアジトをひきはらわねばならなかった。城に居たファティナが同行するのが二人になったと知って驚いていた。今日が旅立ちのとき。放火され家と家族を失ったバードが決心した自分で選び取った人生の始まりのときだった。

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