新しい世界へ
バードは城へと帰還していた。帰還するとは変だ、そもそも居候していた身だ。などと思っていた。ボロボロの手入れの行き届いていない庭の門をくぐり抜けて、多分まだいるはずのあの修道女の姿を探した。きっと確信めいた何かを感じていたためである。予想通りまだあの小柄な修道女はいた。城の礼拝堂を掃除していた。埃臭く、腐敗した死体がまだ転がっていてそれでも豪華な天井のステンドグラスはここがかつては天国に近い場所だったのだと言わんばかりにきらきらと光り輝いていた。小鳥のさえずりを聞く聖アッシジ。たしかエミリはそんなことを言っていた。教会にはグランドピアノが置いてあり、そこに置いてあった古い楽譜に書いてあったのだという。あとは破れて読めなかった。修道女は手を止めバードに気づいた。
「あなたは……
「ようあんたファティナって言うんだっけ」
「戻ってきたのですねきっと戻ってくると思っていました」
そう言って雑巾をテーブルに置き、二人で椅子に座った。
「なんで俺が戻ってくるって思ったんだよ」
「きっと、悲しそうに見えたからですわ…信じるものが揺らいでいる、人はきっと信じ何かが崩れてしまったら生きてけないですから…」
そこまで言ってファティナはステンドグラスを見上げた。
「立派なステンドグラス…よい仕事をして…」
「俺は多分間違えてない、エミリと別れることを決めたのだって、あんたを信じようとしていることだって」
バードはそこまで言ってハンカチで目を覆った。
「神様を信じる気になったのですか?」
「神様は信じない、でも俺は奇跡は信じる気になった。奇跡を信じるってのは多分神様もしんじるってことなのかもしれない…よくわからない、自分でも。今が不安だということでもない……」
バードはファティナのほうを向いていった。
「あんたが答えを知っている気がする、そんな気がするんだ」
「私が何の答えを?」
「それは俺にも分からない、何の答えを求めているのかもわからない。でも多分その奇跡とやらの中に答えがあるんだ」
「迷っているのですね本当は…」
「あんたについていきたいんだ…答えを探しに。神様とやらに俺を地獄へ叩き落した理由をたずねに」
「私と一緒に来るというのですか?」
「俺は腕っぷしがいいよ、邪魔にはしない」
修道女は少し驚いた様子で俯き加減で手をもじもじさせた。
「私は今巡礼中で色んな寺院をまわっているのですあなたが迷っていてその答えがそこにあるというのなら私は止めません自由にするとよいでしょう」
「やった」
「でも盗賊稼業を抜け出すというのは一筋縄ではいかないのではないのですか?」
「俺は多分殺される、だから逃げ出す」
「だからエミリを大人に預けてきたんだ、自分の勝手も反省するついでに」
「あなたは思い切りのよい人ですねそこに答えがなくてもよいのですか」
「答えは必ず見つかる」
その思い切りのよい様子を感心したように修道女は眺めていた。彼女ならきっと答えを見つけるだろう。埃っぽく血なまぐさいその空間に二人の答えを探し旅する少女がいた。旅する先に答えなどないかもしれない、もしかしたら後悔するかもしれない。でもそれでもいいのだと思い行動し始めたらそれは力になる。彼女はきっとこの先力になるに違いないと修道女は、薄汚れたその礼拝堂で神を信じないと言ったこの年端もいかない少女に昔童話でみた戦の女神のような神々しさと逞しさをみていた。命を狙われるという危険をおかしてまで。何の答えを探しに出かけるというのだろう。でも答えがあると一度信じてしまったのならその信じる先へと進んでいくのだった。
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