運命を決めるとき
バードは泣きじゃくったあとあまりなぜ泣いたのか思い出せずにいた。気づくとアジトにいておかしらが優しく微笑んでいた。
「目が腫れていますよ」
濡れタオルをもらい、拭ってバードはすぐに教会に向かった。古ぼけた、でも立派なステンドグラスのあるその教会に佇む美しい女神の像をずっと雨に濡れながらバードは眺めていた。日曜日のお勤めのあるその日にはたくさんの信者がいて、葬式もあったらしく黒いドレスを羽織る夫人たちを眺めながら、バードは入れずに、うろうろしているところを牧師に見つかり、どうしたのですかおはいりなさいと言われようやく入ることになった。
並んでいる椅子に座り、考え込んでいた。
「女神の像は何も答えてくれない……ただ優しく微笑んでいるだけで何もしてくれやしない……」
「もうお勤めは終わったのですよ、何か悩みでも?」
牧師がそう問いかけると、バードはいいんですと言って教会の仕事が終わるまでそこにずっといて、何もしてくれなかった神様に問いかけていた。
今日も雨が降っていた、ファティナの前で泣いたあの時のように。
アジトにとぼとぼと帰り、お姉ちゃんお帰りなさいとエミリが嬉しそうに待っている。エミリの頭を撫でてバードは言うのだった。
「エミリ、何をしている時一番幸せ?」
「私はね、本を読んでいる時が一番幸せだよ!あとお腹いっぱいのとき!」
「そっか……そうなんだ」
悲しくエミリを見つめ、頭を撫で続けているバードだった。この子は死んだ妹じゃない……そう誰にも聞こえないようにつぶやく。何?と聞き返したエミリに何でもないよと返事をした。そう、この子は死んだ妹ではないのだ。あの時悲しくて泣いた涙はもう枯れはてて、もう目から水は出なかった。
「おかしら話があるんです」
「なんだいバード」
その日バードは話を切り出した、そこにフェルマもいた。話しながら興奮するバードを横目にフェルマは驚いていた。
翌日リュックが話しかける
「お前!エミリのこと諦めるって話本当かよ!」
「うん、もう決めたんだ」
「よく決心したなあ俺は感動したぞ」
そう言ってリュックは褒めてくれた。フェルマは感心したようでよく決心したわねと寂しげにした。
「寂しくない?」
「寂しくないさ、俺の勝手で子供の未来を台無しにするわけにはいかねえよ……
教会で考え事をしている時にそうおもったんだ、寂しくない、幸せだからだ」
そこまで言ってバードは微笑んだ。
「強いのねバード、私そうして誰かが成長するのを見ると……このままでいいのかしらって思うわ……」
成長しているのかどうかはわからない、フェルマが感心するような動機でも何でもなかったかもしれない、あの子に死んだ妹の姿を観ていたからだった。そんな自分に気づいたのである。きっかけはファティナとの出会い……何かが変われる気がした、今なら。神様が本当に存在するかどうかは今の自分にはわからなかった。女神の像は相変わらず罪深いバードたちもあの育ちのよさそうな修道女にも公平に手を広げ、光のかげで微笑んでいた。
「あんたの存在を信じるわけじゃない……」
教会に居てバードはそうつぶやいた。会いに行こう、あの修道女のところへ。
何を求めて、行動するのかはよくわからなかったでもそこに光が射したように見えた。暗闇にいたら光を目指してやみくもでも走っていかねばならないのだった。
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