第2話 そして彼は異世界へ……

「あれ……?」


眠りから覚めるように俺は意識を取り戻し、目を開けると、目の前には真っ白な天井が広がっていた。


「おや、お目覚めかい?」

「おうっ!?」


すると、いきなり真横から女のような男のような声を発する人物に声をかけられた。

顔を覆うような白いフードを付けたローブを身にまとった人物がそこには居た。


「だ、誰だ?いや、てかここはどこなんだ?俺はどうなった?」

「まぁまぁ落ち着いて、ほらこれでも飲みなよ!」


そう言ってその白フードは俺にマグカップを差し出した。


「体を起こせるかい?」

「ああ、……どうも」


俺は体を起こしてマグカップを受け取り、その中身を飲む。

色は麦茶に似た色なのに味が炭酸の抜けたコーラのような味がする。


「……なんですかこれ」

「んー、君の世界ではココア?って言うらしいね」

「俺の知ってるココアと全然違うんだけど」

「ははは!ま、それは置いといて」


白フードがそう言って俺のいるベッドの周りをウロウロと歩き出す。

それに釣られて俺の視線は周りの風景を映し出す。

今俺が居る場所はやはり病室に似ているが、何故か広さが一人分の部屋ではない。

教室2つ分の真っ白な部屋にポツンと今俺がいるベッドと、その横にテーブルと椅子が2つとそれしか置いてなかった。


「うんうん、色々気になるよね!」

「え、あ、あぁ」


そんな俺の様子を見て頷く白フードが少しだけ見える口元を綻ばせてこちらを見る。


「説明させてもらうと、君はオショーガツ?とかいう日の夜にわざわざコンビニとかいう店に行ってニクマンとかいう物を買いに行ったんだよね」

「……」


その言葉に、俺は少しずつ曇りが取れるように記憶が戻り始める。

言われるまで何も頭に浮かばなかったのに言われたらスっと思い出せる。


「そしたらそこで不良達にビビってイヤホンとかいうものをつけたまま道を渡ろうとした所に鉄の車に轢かれてしまったんだ」

「色々と突っ込みたいけど……やっぱりそうなのか」

「うんうん!僕は事実しか言ってないよ」


悪意のないその言葉に少しイラッとしながらも俺は再び炭酸抜けコーラを口にする。

不味い。


「そこで君の魂が体から抜けて今別の世界へと旅立とうとしてるんだ」

「死んでるよなぁやっぱ」


その白いフードの言葉にそう言葉が自然と口から零れた。


「そりゃそうだよな……車に轢かれて無事で済まないだろうし……」

「ま、そう言いつつも君の体は眠ってる状態なんだけどね」

「は?」


白フードの言葉に目を瞬かせ、俺は首を傾げる。


「言葉通り、君の体は無事一命を取り留めたんだけど魂だけこっちに来て貰ってるんだ」

「……いやいやいや、なんで?」

「そう、そこだよ!僕が言いたい事は」


バッと両手を広げて白フードが大きな声で話し出す。


「君にこれから僕の世界、君にとっては異世界で別人として生きてもらうよ」

「何言ってんだお前」

「僕の世界では数百年に一度魔王とか言う強い魔物が産まれるんだよね。で、人間側にもそれに対抗する為の人物を誕生させるんだけど、如何せんこの世界の人間は弱くてねー」

「おい」


俺が話を遮ぎろうとしても、白フードは聞く耳を持たずに構わず話を続ける。


「だから、君達の世界からこっちの魔王に似たラスボスが出るゲームの知識がある人物を呼んで来て倒して貰うんだ」

「……」

「もちろん倒したら元の世界に戻れるからさ、やってくれるかな?」

「ふざけんな、そんな勝手に……」


そう言われた瞬間に俺は手に持ったマグカップを白フードに向かって投げつける。

だが、そのマグカップは白フードにぶつかる直前に何も無かった様に消えた。


「おっと、こわいこわい」

「今の……なんだよ」

「ああこれ?魔法っていうのかなぁ」

「魔法……」

「君がどんなに抵抗しようとも無駄だからね」

「どういうことだよ」

「今君が投げつけたマグカップに入ってたもの、あれを飲んだら僕の世界に行く為の契約みたいなもものだからね」

「なんだそのワンクリック詐欺みたいなやつは……!」


俺は頭を抱えてうずくまる。

ただの液体を飲んだだけで契約だとか普通は有り得ないが、まず魔法だとか今こいつが語ってる事がまず有り得ない事ばかりだしマグカップ消えたし、もしかしたら本当に魔法の契約みたいな物の1部なのかもしれない。


「そうそう!」

「人の心やっぱり読んでるんだなお前」

「そうだよ、いいかい?君には拒否権は無い」

「……」

「君はこれから僕の世界に来てもらう。でも、ただの人間じゃ魔王に勝ち目が無いから僕から祝福を授けよう!」

「うぉ……?」


白フードが俺に向かって手を振るうと俺の体がぼんやりとした緑の光に包まれる。

その光景に驚き声が出ないでいると白フードが楽しそうに笑い、手をパン!と叩くと体から緑の光が段々と弱まって消えて行った。


「地味な君のステータスに主人公補正を掛けて、更には回復魔法に身体能力強化のスキルを授けたよ!あとはどの魔法の属性も使える様に全属性に適正を持つように変えたよ!」

「スキルとか、魔法とか……ステータスとか本当にゲームみたいなんだな」

「うんうん、ゲームみたいであって本当に現実だから死なないでね」

「死んだら生き返らないのか?」


すると、俺のその言葉に白フードは大きくため息をついて首を横に振った。


「勘違いされては困るんだけど、ゲームみたいであってあくまで現実だからね。もちろん死んだらそこまでなんだ」

「そんな……」

「まぁとりあえずそろそろ旅立とうか!」

「な、体が……勝手に動く!?」


白フードがそう言うと、俺の意思とは無関係に体が動き出し、ベッドから出て立ち上がり部屋に唯一ある扉へと向かい出す。

白フードは扉の前に立ち、俺が来るなり扉を開けた。

扉の先には草原と青空が広がっていて、そこから風が中に吹いてくる。


「……なんでそんなにお前は勝手なんだ?」

「こうでもしないとみんな言う事聞いてくれないんだよね、ほら行った行った」

「押すなって!」


白フードが俺の後ろに立ち、後ろからグイグイと扉の外へと押し出していく。


「あと、そうそう君は最初のうちは僕の世界の一般人と何ら変わりないくらい弱いから頑張ってね!」

「は?いや、さっきスキルがとかステータスがどうのとか言ってたじゃんか!」

「そんないきなり強くはなれないよ、当たり前でしよ?それにいきなり力を持った人間はロクな事しないからね」


そして押されるまま俺は扉の外へと押し出されて行く。

白フードがとても楽しそうな声で色々説明してくが俺は全然頭に入らず、そのまま外へと押し出されてしまった。


「んじゃ、頑張ってね! 」

「おい!待てって!!」


慌てて振り返って戻ろうとするが振り返ったところで体が動かなくなり、白フードが扉をゆっくりと閉める所を見ることしか出来なかった。


「最後に、死んだら元の世界の体に戻るだけだからそこは安心してね」

「な!?おい!!」


その言葉に驚き声を上げるが、すぐに白フードが扉を閉めてしまった。

扉があったそこには扉が閉まると同時に扉が透明になり消えてしまう。


「どこ○もドアかよ……ん?」


呆然と扉のあった場所を見つめ続け立ち尽くしていると、遠くで何かが吠える様な声が聞こえ、その方へと顔を向けると、こちらへ真っ白な何かが凄まじいスピードで迫って来ている事に気づき、体を動かす、が。


「はや……っうあああ!」


その凄まじい速さで突っ込んで来た真っ白な何かに弾き飛ばされて地面を転がる。


「いてぇ!……な、なんなんだよ!」


体の痛みに顔をゆがめながらも体を起こしてその突っ込んで来た何かを見る、と。

そこには人よりも大きな真っ白な狼がこちらを見据えて居た。


『お前、私の縄張りに勝手に入ってなんのつもりだ?さっきのはなんなんだ?』


「ひぃっ!?えっ、喋ってる……?」


『答えろ!!』


「うぅっ!?」


狼が喋る度に体がビクッと震えて声が漏れる。

ついでに色々と漏れそうだが、目の前の狼の眼力でまともに呼吸をする事が出来なくなる。


「お、俺は……何もしてないし無理矢理ここに連れて来られたんだよ」

『……では先程のとてつもない力は一体なんだったんだ?』

「え、え?」


狼のその言葉に俺は何がなんだか分からなく、狼狽える事しか出来ずに居ると狼は首を横に振った。


『もう良い、なんにせよ許可なくここに立ち入って、なおかつあんな強大な神聖な力と関係があるならば生かしてはおけぬ』

「はぁ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!」

『問答無用、それではな弱き者よ』

「待っ……ぎゃぁぁああ!!」


狼がそう言って遠吠えをあげた瞬間、身体中に熱さを感じた。

全てが燃えるそんな感覚。

思わず目を覆い隠しもんどり打って倒れるが呼吸もまともに出来ずに喉が焼ける感覚と共に空気を吸い込み肺に熱が行く。


「あぁぁぁあぁ!!!」

『耐える、か。耐えなければ一瞬で塵となれたものを』

「あぁぁぁ……」


声を出すのすら辛くなり全ての感覚が麻痺していく。

何が主人公補正だ。

むしろそこら辺のモブと何ら変わらないじゃないか。

激痛の中で俺はひたすら色々な事を考えたが、最終的には何を考えてるのか分からなくなり、そして意識を失った。



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転生したらいきなり事故って戻りました。 ささき @saki_sasaki_

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