孤独な宇宙飛行士 アストロノート
雨世界
1 ……宇宙は遠いな。
孤独な宇宙飛行士 アストロノート
登場人物
宇宙飛行士 心理 真理
本編
……宇宙は遠いな。
「心理。心理」
誰かが自分の名前を呼ぶ声を聞いて、心理は真っ暗な宇宙空間の中で目を覚ました。
「心理。起きた?」
「ああ。もう大丈夫。ちゃんと起きたよ」
宇宙服の中で心理はいった。
「よかった。通信が途切れたから、心配しちゃったよ」本当に嬉しそうな声で真理が言った。
「どうかしたの? なにか問題でも起きたの?」
真理が言う。
「いや、そうじゃないよ。ちょっとさ……」
「ちょっと?」
「……うん。宇宙のあまりの美しさに、少しぼんやりとして、見とれてしまっていただけだよ」心理はにっこりと笑って真理に言った。
「もう。確かに宇宙は美しいけど、もうずいぶんと見慣れた風景でしょ? 私たちの周りには、宇宙しかないんだからさ」
「ああ、そうだな」心理は言う。
「じゃあ、ごめん。通信切るね。こっちもまだやり残している作業があるから」真理は言う。
「わかった。心配かけてわるかったな。真理」
「ううん。あなたが無事で本当によかった。じゃあ、またあとで」
「うん。またあとで」
そう言って二人はお互いの通信を切った。
すると心理のいる世界は完全な静寂に包まれた。それはもう、自分の生まれた星である故郷を離れてから、ずっと、心理が経験している静けさだった。
「いって」
と言って心理は宇宙服の上からその頭を触るような仕草をする。(実際には特殊なガラスでできたヘルメットに遮られて頭を触ることはできないのだけど)
心理は最近、ひどい頭痛に悩まされていた。
さっき、真理にどうしたの? なにかあったの? と聞かれたときにはごまかしてしまったのだけど、実際に心理はあまりの頭痛の痛みにより、数分の間、その意識を失ってしまっていたようだった。
心理はそれから頭痛がおさまっていることを確かめてから、自分の作業に戻った。
その間、心理は宇宙の風景にときどき、目を奪われた。
宇宙が美しい、と真理に言った心理の言葉は嘘ではなかった。
美しい宇宙に憧れたからこそ、心理は、宇宙に行きたくて、宇宙飛行士になったのだから。
そして、宇宙は本当に美しかった。
それがわかっただけでも、心理は自分が宇宙飛行士になれて本当によかったと思った。
孤独な宇宙飛行士 アストロノート 雨世界 @amesekai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。孤独な宇宙飛行士 アストロノートの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます