ねえ、あなたは泣いてくれる?

たぬきぐま

ねえ、あなたは泣いてくれる?

 私を呼んでいた声は冬の風に代わってしまった。

 振り返ってもそこにあなたの影はない。


 私達は家が隣同士ということもあり、幼い頃から一緒にいた。学校も幼稚園から高校の今に至るまで同じなので友人からからかわれることもよくあった。それでも変わらずあなたは私のそばにいてくれた。ずっとこのままなのだと、根拠もなくそう信じていた。


 昨日の夕方電話がかかってきた時はなにかの間違いだとしか思えなかった。あなたが死ぬなんて、いなくなるなんてあるわけがない。でもそんな現実もあなたの冷たくなった体に触れて嫌でも理解せざるを得なかった。昨日までそこにあった声も体温ももう感じられない。


 もう話すことがなくなるくらいにあなたと話しておけばよかった。笑い疲れるくらいにあなたと笑っていればよかった。喧嘩だってもっとしたかった。いなくなって初めて、私はあなたのことがどれだけ好きだったか、愛していたかを知った。手も繋いでない、キスもしてない。なんで私はこんな簡単な気持ちもわからなかったのか。できることなら昨日に戻ってあなたに会いたい。会えないからこそ自覚したこの感情をあなたにぶつけたい。友達かも恋人かもわからない曖昧な関係のまま終わってしまったこの関係を、それを良しとしていた自分に対する失望感の波が私を襲う。あなたは死ぬ時何を考えていたの?最後に思い浮かべたのは誰?それが私だったら、とても嬉しい。この涙を流し尽くして枯れた心も幾らか潤う。ねえ、教えてよ。いつもの声で、いつもの調子で答えてよ。幽霊にでもなって私に会いに来てよ。


 あなたに会えないこの世界になにかの意味があるなら誰か私に教えてほしい。あなたが私の記憶の一部でしかなくなることが怖い。あなたの声と体温を忘れていくことが怖い。それなら全部持ったまま終わらせよう。ねえ、もしあなたがそこにいるなら私を止めてよ。怒って止めてよ。怖いよ、止めてよ。ここにいないなら私が会いに行くから。お父さん、お母さん、しばらくの間留守にするよ。ごめんね。


 飛んだあとにもあなたの声は聴こえない。死後の世界はないのかな。私はあなたに会えるのかな。でも根拠はないけどまた会えると思うんだ。あなたに会えたら怒って、泣いて、久しぶりって言おうと思うんだ、素敵でしょ?そしたらあなたにも泣いて欲し




Fin.

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