こちらライバル企業対策屋

新巻へもん

パ、パ、パ、パンデミック!

「メイデイ、メイデイ。こちら前線。ほぼ壊滅状態です。奴らがどんどん侵入しています。侵入してるだけでなく、増殖を……」

「どうした?! 応答せよ!」

「ここも奴らが! 続々と奴らが産まれています」

「R地区。増援要請します」

「F地区。住民の応答なし」


 ~~~


「てな感じの戦いが行われてんだろな。ウィルスって怖えーよ」

「何言ってるんすか、兄貴」

 サブがスマホから顔をあげた。このヤロー、今まで話を聞き流してやがったな。


「だからな。ウィルスって、体内に入ると細胞の中に潜り込んで、複製をせっせと作るんだ」

「そうすか。それで、できた複製はどうなるんですか?」

「一定量が溜まると細胞が破れてドバっと体内にあふれ出す。それぞれがまた新たな感染先を探してどんどん増殖するんだ」

「それじゃ、体がウィルスだらけになっちゃうじゃないすか」


「まあ、体の中にもマクロファージって言って、ウィルスを食っちまう役割の奴がいるんだがな」

「じゃあ、安心っすね」

「そうでもねえんだ。だったら、医者いらねえだろ? それに、ウィルスには抗生物質が効かねえ」


「抗生物質ってバイ菌を殺すんじゃ?」

「ウィルスはバイ菌じゃねえんだ。そもそも生き物と言っていいのかも分からねえ。設計図にいくつかのパーツがついてるだけの機械みたいなもんとも言える」

「へえ。兄貴ってやっぱ学があるんすねえ。ツキはないすけど」

「うるせえ」


 タイミングよく、モニターに新着メッセージが表示される。俺がチェックをすると配送会社からの依頼だった。龍のマークの別会社の営業所数カ所をターゲットに指定している。お歳暮の配送シーズンを狙ったなかなかに性質の悪いものだった。


「おい、サブ。仕事だ。人数集めろ」

「へい」

 俺が場所を数カ所伝えると、サブはキーボードをカチャカチャと動かす。

「終わりました」

「よっしゃ。これで、正月の餅が買えるな」


 オレオレ詐欺から足を洗った俺達が始めた新しい仕事、言うなれば特殊な人材派遣業はなかなかに順調だった。嫌がらせをしたい相手の場所に、インターネットで募ったインフルエンザの患者を送り込んで、社員を感染させて営業妨害するというもの。患者に払う日当を除けば、ほとんど丸々俺達のもうけになる。


 インフルエンザは対抗薬が発達しているので、感染力は強いし少々辛いが、死に至る病ではなくなっている。それでも会社からすれば5日間ほど社員に休まれるのは繁忙期にはなかなかの痛手だ。しかも、無理に出勤させれば他の社員にうつって社内は阿鼻叫喚の渦に巻き込まれる。


 依頼を実行し、3日後に残金が振り込まれてホクホクしているところに、インターフォンが鳴った。お届け物ですとの声が聞こえる。サブは肉まんを買いに出たばっかりだったので、俺はハンコを持って玄関に向かった。また、サブが通販でしょーもないものを買ったらしい。


 俺が顔を出した瞬間にハクションという音と共に顔に風を感じる。少し赤い顔をしたゴリラみたいな兄ちゃんが差し出した段ボール箱の上の伝票にハンコをつくと、兄ちゃんは伝票を掴んで、毎度~と踵を返した。その制服の背中には、ギョロリとした目玉の緑の竜のでかいワッペンが……。


 パ、パ、パ、パンデミック!

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