第11話 美少女とふたりで
①「デートです」
「いやぁそれにしても、昨日はマジで興奮したなぁ!」
「ホントホント。ちょっと見直したわよ、楠葉」
「……」
「……」
……まあ、こうなるだろうとは思ってたけども。
修学旅行最終日。
今日はついに向こうに帰る日だ。午後のフライトまでの間は、最後の自由時間だった。
俺たち……まあ、俺と理華と、それから恭弥と雛田の四人は、一緒にショッピングモールに来ていた。
もちろん、目的は買い物だ。
おもに、昨日買えなかったお土産のために。
だが……。
「『モブの凱旋』って呼ばれてるみたいだぞ。めちゃくちゃ噂になってる」
「あはは! よかったわね楠葉、モブよ」
「うるせぇな……」
しかも、べつに凱旋じゃねぇっての……。
そう、昨夜の一件で、俺と理華の交際関係は完全に、学年全体の知るところとなった。
しかもきっかけのインパクトがデカかったせいか、おもしろおかしく脚色されて、好き勝手に広まってしまっている。
覚悟はしていたとはいえ、あまりにも不本意だ。
どうせなら、モブってところも脚色しろよ。
しぶとく生き残りやがって。
「あ、マカダミアナッツー! これは必須よねー」
「俺も買っとこーっと」
定番のチョコレート菓子の箱を、恭弥たちがいくつか抱える。
無難なので、俺と理華もひとつずつ回収しておいた。
「持っとくよ」
「はい、ありがとうございます」
短いやりとりをして、理華の手から箱を受け取る。
会計して袋を貰ったら、そのとき分ければいいだろう。
“おおっ”
……くそっ。
「めっちゃいるなあ、人」
「野次馬どもめ……」
俺は恨みを込めた目で、ざっと周囲を見回してみた。
それに合わせて、俺たちに集中していた数十の視線が、わざとらしく一斉にそらされる。
「カップルっぽいことしてるぞ」やら、「やっぱり付き合ってるんだ」やら。仕舞いには、「で、あの男の方誰?」なんて声までが、ひそひそと聞こえきた。
今日は朝から、ずっとこんな感じだ。
もちろん鬱陶しいが、もはや気にしても仕方なかった。
「みんな興味津々ねー。さすが理華。楠葉はともかく」
「この店だけやたら人多いもんな」
「お店の迷惑になっていそうです」
「まあ、繁盛してるしいいんじゃない?」
「俺たちは客寄せパンダじゃないぞ……」
「おーよしよし、パンダのレンレン」
「おい」
とはいえ、ここまで目立つか……。
こりゃ、夏休み中に風化するのを祈るしかないな。
「でも、まさか念願のダブルデートが、こんな公開デートになるなんてなぁ」
「私はいいけどねー。なんか、有名になった気分だし」
「いや、勝手にデートにするなよ」
「いいじゃないですか、デートです」
「なっ……理華まで」
そして、あんまりデカい声で言うなよ……周りに聞こえるだろ。
案の定、連中は性懲りもなく「デートだったんだ!」とか、「橘さんかわいいなぁ」とか、またざわざわ騒ぎだす。
「レベル高いなぁ、三人は」なんていう声もあリ、普通にムカついた。その通りだけど。
それから、俺たちはそれぞれ必要な買い物を済ませ、ショッピングモールを出た。
後ろから、野次馬たちもぞろぞろとついてくる。大名行列か。
「よし、んじゃ行くか!」
「行きましょ行きましょー!」
バカップルふたりは一緒に手を挙げて、なにやら張り切っていた。
たしかにまだ時間はあるが、果たしてどこに行くつもりやら。
「決まってんじゃん!」
「恋人岬!」
「……あぁ」
あったな、そういえば……。
「昨日行けなかったもんねー」
「しかも、今日は廉と橘さんも、大手を振って行けるしな!」
誰が大手なんか振るか。
「……どうしましょう、廉さん」
「えっ……うーん」
理華は俺の顔色を伺うように、それから不安げにモジモジしていた。
もしかして、理華のやつ……。
「……行きたいのか?」
「……はい。廉さんがよければ、ですが……」
言いながら、理華は上目遣いでこちらを見た。
自覚があるのかないのかは知らないが、これは……。
「……行くか」
「ほ、ホントですかっ」
「あ、ああ」
俺が頷くと、理華はパッと目を輝かせた。
むしろ、これで断れる人間がいるのか……?
そして、ああいう顔はよそではしないでくれよ、マジで……。
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