②『ちょっと、会いたいんだけど』


 修学旅行三日目、朝の自由時間。


「……はぁ」


 部屋のベッドに座り込んでいた私は、自然に漏れていたため息のせいで、ますます気分が沈むのを感じました。


「あら。まだ落ち込んでるの?」


 言いながら、部屋に遊びに来ていた千歳が、私の隣に腰掛けました。


「気持ちはわかるけど、もったいないわよ? せっかくの修学旅行なんだし」


「いえ、自分でもわかってはいるんですが……」


 私が答えると、千歳は困ったように笑って、私の頭を撫でました。


 楽しみにしていたシーウォーカーに、参加できなかった。

 ただそれだけのことなのに。自分が悪いのに。

 次の日になってもショックを引きずっているなんて、私は本当に馬鹿です。


 千歳の言う通り、いつまでも凹んでいるのはもったいないです。

 早く忘れて、残りの予定をしっかり楽しんだ方が、ずっといいはずなのです。


 ……そう、思うのですが。


「……はぁ」


「あらあら……」


 私の意に反して、なかなか元気は出ませんでした。


 千歳や冴月に気を遣わせてしまうのだって、本当は嫌なのに……。


「……すみません、千歳。少し、ひとりにしてくれませんか」


「もちろん構わないけど、大丈夫?」


「はい。慰めてくれるのはすごく嬉しいのですが……また迷惑をかけてるんじゃないかと、心配になってしまって」


「そう。わかったわ。私は自分の部屋にいるから、困ったら呼んでね」


「ありがとうございます……」


 最後に私をハグしてから、千歳は部屋を出ていきました。


 これで、千歳も自分のために時間を使ってくれるといいのですが……。


「……はぁ」


 …………廉さん。


「はっ……!」


 無意識に彼のことを思い浮かべてしまっている自分に気がついて、私はぶんぶんと首を振りました。


 こんな状態で会ったら、廉さんにまで嫌な思いをさせてしまいます。

 それはダメです。絶対にダメ。


 ……でも。


“ブブッ”


「あっ……」


 不意に、テーブルに置いていたスマホが震えました。

 普段はそんなことはないのに、気がつけば私は、すぐにスマホに駆け寄って、画面を確認してしまっていました。


『今、時間あるか?』


 廉さんからのメッセージでした。


『ちょっと、会いたいんだけど』


「……っ」


 ……。


『会えますよ』


 さっき、あんなことを思ったばかりなのに。


 真っ先にそう返信してしまったことも、それで少し元気になっている自分も、どちらも嫌で。


『なら、こっち来れるか?』


『はい』


 すぐ廉さんの部屋に向かってしまう自分は、もっと嫌でした。

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