③「約束するよ」


「これでよかったんだろうか……」


 買い物を終えて、俺と雛田は小さいアクセサリーショップを出た。

 入ったときと比べて、辺りはかなり暗くなっている。


 悩みすぎたな、こりゃ……。


「大丈夫よ。なに? 私のセンスが信用できないわけ?」


「い、いや……そういうわけでは」


「ふんっ。そもそも、ものはなんでもいいのよ。プレゼントするってことが大事なんだから。気休めじゃなく、ホントにね」


「……おう」


 とはいえ、不安なものは不安だ。

 なにせ、こういうのは初めてだからな……。


 だが、心配しても仕方がないというのも事実。

 ここは雛田の言葉を信じて、強気でいこう……。


 来た道を戻りながら、俺は雛田の話をもう一度思い返していた。


 一年前から強すぎた理華。

 そして、そのせいで危なっかしかった理華。


 そのとき、俺はあいつのそばにいなかった。

 でも……。


「雛田」


「なによ」


「……ありがとな。あいつの、友達になってくれて」


 そんなことを言う資格は、俺にはないのかもしれない。


 けれど、言っておきたかった。

 あいつを守って、今も一緒にいてくれている雛田に。ちゃんと、お礼を。


「お前でよかった。須佐美もだけど、理華を見つけてくれたのが、お前たちでホントに……よかったよ」


「……なによ、それ」


 偉そうなことを言うなと、怒られると思ってたのに。


 雛田はなぜか、俺の方を見なかった。

 顔を背けて、ただ黙っている。

 それからすぅっと息を吸う音がして、ガバッと勢いよく、こっちを向いた。


「言っとくけど」


「……おう」


「あの子を守る役目、あんたに譲ったわけじゃないから。私はこれからも、あの子を助ける。理華を傷つけるなら、あんたにだって容赦しない。忘れるんじゃないわよ、絶対」


「……ああ、わかった」


 俺の返事が気に食わなかったのか、雛田は「ふんっ」と吐き捨てるように鼻を鳴らして、また前を向いた。


 不機嫌そうに目を細め、大股で歩く。

 だがその歩幅もゆっくりと小さくなって、ついにはその場で立ち止まってしまった。


「……楠葉」


「ん」


「……だから、あんた、ホントに」


 雛田の目尻に、光るものが見えた。

 だが雛田は、それを拭おうともせず、俺をまっすぐ見ている。


「……理華のこと、大切にしてね。ずっと付き合え、なんて言わないけど、喧嘩したり、意見が合わなくて、もうダメだなって思っても……」


「おう」


「……傷つけるのだけは、やめてあげて。あの子は、ホントにいい子だから」


「……ああ。知ってるよ」


「普通に生きてるだけでも、きっといっぱい傷ついて、苦しんで生きていくから……。だから、できるだけ減らしてあげたいのよ、つらいことは」


 言葉が揺れる。

 雫が落ちる。


 それでも顔をそらさず、俺を見据えて、絞り出すように。


「……お願いね、楠葉」


 わかってる。


 雛田の気持ちを理解できるなんて、簡単には言えない。

 でも俺にだって、べつの気持ちがある。


 その強さが雛田に負けているとは思わない。

 そして、俺の望みと雛田のそれが、重なってないとも思わない。


 俺は頷く。

 できるだけ、覚悟が伝わるように。

 雛田を安心させられるように。


「約束するよ」

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