エピローグ 美少女を抱きしめる

① 「恋人なんだから」


「いやぁ、よかったよかった。めでたいなぁ……いでっ! なにすんだよ廉!」


「うるせぇ。もう一発殴らせろ」


 あれから二日後、学校での昼休み。

 俺は恭弥と、それから須佐美の三人で中庭に集まっていた。


 話題はもちろん、今回のことについてである。


「いいだろー? うまくいったんだからさぁ!」


「いいよべつに。でもなんかムカつく」


「うわぁ! 暴力反対!」


 逃げ回る恭弥を追いかけるが、そこは超インドア派の俺。

 すぐに体力切れを起こし、あっさり諦めざるを得なかった。


 こういうときだけは、自分のライフスタイルを後悔しそうになるな……。


「でも、本当に安心したわ。正直、期待してなかったから」


「うん、実は俺も」


「おい……」


 薄い笑みを浮かべた須佐美と、真顔な恭弥。

 二人とも、半分は感謝しているものの、半分は若干恨んでいる。


「両想いなのはわかりきってるのに、どうしてこんなにそわそわしないといけないのかしらね」


「わ、わかりきってた、ってことはないだろ? えっ……ないよな……?」


「いや、一目瞭然だったぞ? 廉がよっぽどしくじらない限り、うまくいくと思ってたし」


「嘘だろ……。でもそれじゃあ、なんで期待してなかったんだよ?」


「よっぽどしくじるかもしれないからだよ」


「うぐっ……」


「あと、なにもしない、って可能性も充分あったわね」


「うぐぐっ……」


 返す言葉がなかった。

 さすがにこの二人は、相手のことがよくわかっているらしい。


「だからまあ、そんなことも含めて、もういいじゃん。これからは橘さんと、末長く仲良くしろよぉ~」


「やめろ、くっついてくんな、暑苦しい」


 そもそもなんでこいつは、当事者の俺よりも盛り上がってるんだよ……。

 須佐美も、報告した時はやたらと嬉しそうだったし。


 まあ、それだけ気にかけてくれてたってことかもしれない。

 ありがたいこと、なんだろうな、これは。


「楠葉くん」


「な、なんだよ……」


「友達付き合いと男女交際は、全くの別物よ。あなたのダメなところが露呈してフラれるのは構わないけれど、理華を傷つけたりしたら、その時は私がいるってこと、忘れないでね?」


「は……はい」


「くれぐれも、よろしくね」


 今までにないくらいの異様な迫力をまとって、須佐美が締めくくった。


 こいつは、本当に敵に回しちゃいけない気がする。いや、マジで。


「そうだぞー廉。って言っても、廉にはまだまだ難しいだろうから、もしもの時は俺を頼れよな?」


「……わかったよ。頼りにしてる、ホントに」


「うんうん、素直でよろしい」


 恭弥は満足げだった。

 まあ二人の言うことは、きっと正しいんだろうし。


 ただそうなってくると、友達すらまともにいなかった俺が、恋人関係なんてちゃんと続けられるんだろうか。甚だ疑問だ……。


「でもなー、廉。もちろん恋人になったからには、良いことの方がずっと多いんだぞ?」


「……良いこと?」


「決まってるだろ? あの可愛い橘さんと、あんなことやこんなこと……」


 恭弥の言葉で、俺の頭の中にあらぬ光景が次々浮かんできた。

 必死に首を振って、その妄想を振り払う。


「だぁー! やめろやめろ! 雑念は敵だ! 煩悩は悪だ!」


「あら。恋人なんだから、そういうこともちゃんと考えないとダメよ?」


「そうそう。俺と冴月なんてそれはもう」


「聞きたくねぇよそんな話は!」


 まったく……やっぱりリア充どもは、何倍も俺の先を行ってるってことか……。


「廉」


「……なんだよ」


「ホントに、よかったな」


「……ああ。ありがとう」


 ふざけてたかと思えば、こうして急に真面目な顔をする。


 まだまだ恭弥には、かないそうにないな、こりゃ……。


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