⑤ 「ず、図星ですか!」


「千歳と何を話していたんですか、いったい」


 帰り道、二人で並んで歩きながら、橘はそんなことを聞いてきた。


「またそれか。なんでもないよ、本当に」


「むうっ……。もういいです! 知りません!」


 橘は拗ねたように顔を背けると、少しだけ歩調を早めた。

 追いかけるように、俺も歩く速度を上げる。


 やれやれ、なんでそんなこと、いつまでも気にしてるんだか。


「なに怒ってるんだよ」


「怒っていません。ただ、ずいぶん楽しそうだなって、思っただけです」


「楽しくないって……。あいつと話すとなにかと見透かされてるみたいで、気が抜けないんだぞ?」


「……でも、仲は良いんでしょう?」


「ま、まあ、それは……」


 橘が横目で俺を見る。

 まるで睨むような視線だった。


 なにやら妙に、今日の橘は機嫌が悪い。

 俺と須佐美が二人でいたことが、どうにも気に食わないらしい。


 これはまさか、あれか?

 雛田が俺と橘が友達になって怒ったみたいに、大切な友達と俺が仲良くなるのが嫌だって、そういうことか?


 もしそうだとしたら……うーん、いや、どうすればいいんだ?

 でも、橘に限ってそんなこと、ないと思うんだけどな……。


「……千歳は美人ですもんね。思いやりもあって、大人で。ひ、惹かれるのも……わかりますよ」


「はぁ? なに言ってんだよお前は……」


「だ、だって……」


 またしても妙なことを言う橘。

 今日のこいつはどうやら、本格的におかしいらしい。


「こ、今回の集まりだって、千歳と楠葉さんを近づけるためのものなんじゃないですか?」


「うぐっ……!」


 な、なんてこった……。

 当たらずとも遠からず。

 下手に否定できねぇ……。


「ず、図星ですか!」


「わぁー違う違う。勘違いだ、マジで」


「おかしいと思ったんです! いつもひとりの楠葉さんが、こんな集まりに自分から参加するなんて!」


「うっ……」


 返す言葉もない……。

 さすが橘、勘のいいやつめ……。


「い、いいだろべつに! 心境の変化だよ!」


「ど、どうだか!」


「……少なくとも、お前が思ってるようなことはないって」


「……べつに、隠さなくてもいいじゃないですか」


「ホントに違う。たまにはいいかなって、思っただけだよ」


「……」


 橘は納得していない様子だった。


 くそぅ……なんでこんな展開になってるんだか……。


「でも橘の言う通り、俺だって乗り気なわけじゃない。お前が来なけりゃ、俺だって断ってたよ」


「えっ……」


 驚いたような顔で、きょとんとこちらを見る橘。


 なんとか誤解を解きつつ、ちゃんと橘には来てもらわないといけない。

 もうヤケクソだ。


「……来て欲しいんだよ、橘に。お前がいないと……なんだ、まあ、たぶん、つまんないし」


「……」


 どちらからともなく、自然と歩くスピードが遅くなった。

 橘はしばらく黙ったまま、下を向いて口をへの字に曲げている。


「……わかりました」


「えっ?」


「……楠葉さんの言うこと、信じることにします。集まりだって、ちゃんと行きますよ」


「お、おぉ……そ、そうか」


 顔を上げた橘は、なぜか口を尖らせて、けれど少しだけ嬉しそうだった。

 忙しいやつだ。


 しかし、なんとか変な誤解は解けたらしい。

 正直理由ははっきりしないが、ひとまずよしとしよう。


「じ、じゃあ、よろしくな」


「……はい」


 それからはいつも通りの歩幅で、俺たちはひたすらに歩いた。


 なんだか、当日のことが思いやられる気分だな……。


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