第11話 美少女と泣く

① 『仲間はずれにしたからには』


「おーい! 廉!」


「ん? あ、ああ」


 呼ばれて振り返った先には、すでに恭弥たち三人の姿があった。


「楠葉、遅い」


「時間どおりだろ」


「10分前行動が基本でしょ」


「じゃあ集合時間を10分早く設定しろよ」


「……あんたが友達いない理由がよくわかるわ」


「……ふんっ」


 俺と雛田のいさかいを、恭弥はなぜか満足そうに眺めていた。

 その隣をちらっと見ると、橘が控えめな様子で立っている。


「……よっ」


「お、おはようございます」


 派手でイマドキなファッションに身を包む恭弥と雛田とは違い、俺と橘の服装は地味なもんだった。


 俺の服については割愛するとして、橘はどこか品のある緑色のロングスカートと、白いカーディガンを着ていた。

 爽やかな印象で普段の橘とは少し違って見える。

 が、それでも橘は抜群に綺麗だった。

 というか、むしろ魅力が倍増している気さえする。


 最近はなぜか忘れてたけど、やっぱりこいつ、めちゃくちゃ美人だな……。


「……なんですか、じろじろ見て」


「い、いや……べつに」


 わざとらしく肘で俺の腕を突いてくる恭弥の足を蹴りながら、俺は一つ咳払いをした。


 ダメだダメだ。

 変に意識してちゃ、この先がもたない。


「それにしても、千歳、残念だったわね」


「それなー。須佐美さんにも会いたかったぜー」


「ですが、千歳が直前に予定をキャンセルするなんて、珍しいですね。初めてなのでは」


 不思議そうに首を傾げる橘に、俺たち三人の顔が固まる。


 もしかすると俺たちは、橘の鋭さを見くびっていたのかもしれない……。


「ま、まあ! 気を取り直して、行くわよ!」


「い、行くぜー!」


 意気揚々と手を突き上げて歩き出す雛田と恭弥。

 テンションでなんとか誤魔化したな。

 しかし、いったいどこに行くのやら。


 結局、俺はこの日の具体的な予定について、なにも聞かされていなかった。

 なにをするつもりなのか恭弥に尋ねてみても、「まあまあ、任せとけって!」と答えるだけ。

 内容は正直なんでもよかったので、あまり深く追求はしなかったけれど。


 今日の目的。

 それは、橘とより親密になることだ。

 ま、まあ平たく言えば、橘と……恋人になる。


 い、いや、もし恋人になれなくても、今より距離が縮まればそれで……。


 そ、そうだな。

 なにもそんなに焦ることはない。

 橘だって前に他のやつに告白されたばかりなんだし、タイミングもよくないだろう、うん。

 ここは橘のためにも、見送るべきだ。そうに違いない。


 俺がそんなことを考えていると、ポケットの中のスマホがかすかに震えた。

 見ると、新着メッセージの通知だ。

 しかも、須佐美から。


『私を仲間はずれにしたからには、くれぐれもしっかりね』


『失敗はともかく、何もできなかった、は許さないから』


『後でちゃんと理華に確認するから、誤魔化せないわよ』


 須佐美からの恐怖の連投……。

 さすがにこれじゃあ、何もしないわけにはいかない、か……。


 あぁ、くそっ。


 いつまで引っ張ったって一緒だ。


 やるならやる、やらないならやらない。

 中途半端が一番、悪だ。


 俺は、やるんだろうが。


『わかってる』


 須佐美にそれだけ返事して、スマホをポケットに突っ込む。

 これで後には引けないが、もうそのつもりもない。


「楠葉さん、何してるんですか。はぐれますよ」


「あ、ああ。悪い」


 こちらに振り返った橘に軽く手を上げ、早足で追いかける。


 変に意識してしまわないように。


 肩肘を張ってしまわないように。


 自分を忘れてしまわないように。


 今日の行動指針はこれだ。


「なんだか今日は、ぼーっとしていますね。体調でも悪いんですか?」


「なんともないよ。人混みにやられてるだけだ」


「……ならまあ、いいですが」


「おーい二人とも! こっちこっち」


 少し離れてしまっていた恭弥たちに呼ばれ、俺たちは一緒に駆け出した。


 ……行動指針は決まったけれど。


「橘さんと二人で抜け出すつもりじゃないだろうなー、廉」


「んなことするか」


「今日は完璧なプランを組んでるんだから、ちゃんとついてきなさいよ」


「あーはいはい。わかってるよ」


 何よりも、今日が楽しくなればいい。


 柄にもなく、俺はそんなことを思っていた。


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