④ 「……肝に銘じるよ」


「つまり、私はのけ者ってことね?」


 放課後、2年5組の教室を訪ねると、須佐美が待っていた。


 メッセージのやり取りで大まかな事情は伝えてあったものの、やはり協力を仰ぐ身。

 直接話しておいた方がいいだろうということで、こうして来てみたはいいが……。


「都合よく使っておいて、混ぜてくれないんだ?」


「うっ……わ、悪いと思ってるよ、ホントに……」


「ふぅん」


 須佐美は意地の悪い笑みと口調で、俺の罪悪感を煽りに煽ってきた。

 負い目があるぶん、余計に精神にくる……。


「ふふっ、冗談よ。私は直前で都合が悪くなればいいんでしょ? 任せておいて」


「お、おう……よろしく頼む」


「でもべつに、私がいない予定でも理華は来るって言ったと思うわよ」


「そ、そうか……? そんなことないと思うけど……」


「理華のことは、私の方がよくわかってるもの」


「な、なるほど……」


 正直、それを言われると返す言葉がない。


「ところで、当日の予定はどうなってるの? 冴月と夏目くんは、一応ダブルデートって言ってるのよね?」


「あ、ああ。もちろん橘には、そんな風には伝えてないが」


「……ふぅん」


 須佐美は顎に手を当てて、少し胸を張って考え込んだ。

 相変わらずスタイルがよく、こういう仕草が様になっている。


「どこに行くの?」


「普通に街中で遊ぶらしい。具体的なプランは聞いてないな」


「……なるほど、そういうことね」


 須佐美はなぜか、何かに気付いたかのような様子で肩を竦めていた。


 なんなんだ……いったい。


「まあ、楽しんでくればいいと思うわよ。理華をよろしくね」


「お、おう……」


「それから、自分の気持ちに正直に、ね。思慮深いのは楠葉くんのいいところだけど、時にはその場の勢いとか、テンションが大事だったりするものよ」


「……肝に銘じるよ」


 なんだって俺は、同い年の女子にこんなことを言われているのだろうか。

 やっぱり、おかしなやつだ、須佐美は。


「あ、千歳。……と、楠葉さん?」


 突然廊下側のドアから声がして、俺と須佐美は同時にそちらへ振り向いた。

 いつのまにか教室には、俺たち以外に誰もいなくなっていた。


「あら、理華。まだいたの?」


 さっきまでの話などなかったかのように、須佐美は普段通りの様子で橘を迎えた。


 この切り替え……恐ろしいやつめ。


「はい。少し図書室に用が」


 橘は言いながら、俺と須佐美をちらちらと交互に見た。

 橘には珍しく、どこか落ち着きのない様子だ。


「お、お二人は……ここでなにを?」


「ううん、なんでもないわ。ちょっと話してただけよ」


「そ、そうですか……。珍しいですね。なんのお話を」


「大したことじゃないわよ」


 なぜだか妙に楽しそうな須佐美と、表情の暗い橘。

 俺はといえば、後ろめたさもあってあまり橘の方を見れずにいた。


「そ、そんなに仲が良かったですか? お二人は……」


「あら、仲良しよ。ね? 楠葉くん」


「あ、ああ。まあ」


 なんとなく視線で、肯定しろ、と言われている気がして、適当に合わせておくことにした。

 まあ仲が良い、ということはなくても、決して悪くはないとは思うが。


「そ、そう……ですか」


 なんか橘のやつ、あからさまに元気がないな。

 もう風邪はすっかり治ったものかと思ってたんだが……。


「ところで理華。楽しみね、みんなで遊ぶなんて」


「え? あ、あぁ。そうですね。まだ時間と場所しか聞いていないのですが」


「今回は夏目くんがいろいろ考えてくれてるみたいよ? あぁ、楽しみねぇ」


 くそっ……須佐美のやつ、わざとらしい演技しやがって……。

 しかも本人は楽しそうだから、ますますたちが悪い。

 人の罪悪感で遊ぶんじゃねぇ。


「それじゃあ、私はもう行くわ。当日、楽しみにしてるわね」


 須佐美は実にあっさりそんなことを言うと、橘が引き止めるのも聞かずにさっさと教室を出て行ってしまった。

 あいつもあいつで、けっこうマイペースだよなぁ。


「……帰るか?」


「……はい」


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