⑦ 「相変わらずの負のオーラね」


 長くて艶のある明るい髪、丸くてはっきりしたつり目、整った鼻筋、薄い唇、背が高く、スタイルも良い。

 橘とはタイプが違うが、かなりの美人だ。


 そして、こいつは。


「よっ、冴月さつき


「あぁ、いたいた。部活行くわよ」


「めんどくせぇー」


 そう、この美人こそ恭弥の彼女、雛田ひなた冴月だ。

 恭弥に負けず劣らずのリア充美少女。


 恭弥は「廉のおかげ」なんて言うが、俺はただ、ちょっと恭弥の話を聞いて、相談に乗っただけだ。

 俺がいなくたって、恭弥なら絶対に、雛田と付き合っていただろう。


 それくらい、雛田と恭弥はお似合いだった。

 性格の相性はもちろん、何より人生へのスタンスが似ている。


 目の前のことに、ちゃんと全力になれる。

 他人と関わることを恐れない。そしてそれは、きっと今までの成功体験からくる、確かな自信に裏付けされた姿勢に違いない。


「なんだ。楠葉もいたのね」


「いや、いないよ俺は」


「はあ? なにそれ。相変わらずの負のオーラね」


 呆れたような仕草。

 恭弥の友達ということもあって、さすがの俺でも雛田に存在は認知されている。

 まあ、全然友達ってわけじゃないが。


 だが、当たりはキツくとも、こうして俺にも普通に話しかけてくるところは、やっぱりこいつも良いやつなんだろう。

 それも当然だ。あの恭弥が好きになるやつが、良いやつじゃないはずがない。


 雛田は恭弥に向き直ると、なにやら楽しそうに話し始めた。

 関心は無くとも、これだけ声がデカけりゃ聞こえるってもんだ。


 今日の授業がどうとか、友達の誰々がどうとか。

 そんな話を恭弥もニコニコと聞いているあたり、やっぱりまだ関係は良好なようだ。


 話はこれから向かうらしい部活のことに移っていった。

 どうやら、このまま解散の流れになりそうだ。


 さて、俺はさっさと帰ってだらだらしよう。


 そんなことを思いながら、ふと教室の入り口に目を向ける。

 よく見ると、雛田を待っている様子の女子が二人、教室の外からこちらを覗いていた。


 雛田の友達だろうか。


 そう思ったのも束の間、そのうちの一人、背の低い方の女子と、目が合った。


 橘理華だった。


 反射的に目をそらしそうになる。

 が、橘が小さく会釈したのがわかって、できなかった。


 なんで、会釈なんか。


 疑問に思いながら、俺も一応、小さく手を挙げて返した。

 外にいたもう一人の女子が、なにやらニヤニヤしている気がする。


 おまけに、恭弥も橘と俺のやりとりには気づいていたようで、嬉しそうにアイコンタクトを送ってくる始末。


 どうにも、居心地が悪い。


 俺はとうとう視線を窓の方に向けて、恭弥と雛田が教室を出るまで、じっと黙っていた。


 何も起きない。


 たとえ友達の彼女が橘理華と仲が良かったとしても、そんなのは、俺にはまったくの無関係。

 ただ、珍しい偶然だなと、そう思うだけだ。


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