第47話 カウントダウン

 ――何が医者だ! 何が宇宙一だ! 患者を救えない医者に存在価値なんてあるか!


 チュベロスは黙々と溶接作業を繰り返していた。

 全身を覆うフワフワモコモコの毛皮は作業着により覆われ、頭部は溶接用マスクをかぶっている。

 お宝探しゲームの大失敗から地球時間で二週間が経過した。

 赤と青、ついでに黒のお陰で何体もの怪獣が倒され続け、絶賛惨敗中だ。

 あれからチュベロスは企みに自画自賛の下卑た笑い声をあげることも、大敗に苛立つあまり体毛を掻きむしることもせず、ただ、ただバーナー片手に溶接作業を繰り返している。

 広き空間に響くのは金属板を溶接する音。

 自動工作機械を使えば作業時間を大幅に短縮できるも、特殊な金属板故に手作業が求められる。

 ふとアラートが響けば、チュベロスは作業を一時中断する。

 作業台に置かれたタブレットを手に取った。

「え~っと、どれどらどれ、島に仕掛けた虫型カメラは今日も順調に撮影中ね」

 溶接用マスクをあげたチュベロスは丸っこい手でタブレット端末を操作する。

 にんまりと口を三日月状に歪ませ、天沼島に放った怪獣の働きに期待した。

「じゃもうひと踏ん張りしますか!」

 溶接マスクをさげたチュベロスはのしのしと機械の山を歩くのであった。


 響く警報は海面を切り裂き進む山脈の接近を伝えていた。

 天沼島に迫るのは石油タンカーを超える怪獣――鮫肌持たず岩肌持つ巨大鮫。

 天沼島に一切上陸する気配なく、出現と同時に島周辺を旋回している。

 回りに回って鮫とコンビで有名な竜巻でも起こして天沼島を飲み込む気か。

 海面に顔を出した鮫が吼える。シャーではなくガオーとあたかもライオンのように吼える。

 あの悪趣味なチュベロスのことだ。体内にライオン型怪獣が仕込まれていても驚きはしない。

 吼えると同時、背鰭に聳える山脈が脈動、先端が赤熱化する。

 山頂を突き破るようにして夥しい数の噴石を打ち出した。

 土砂降り雨のように天沼島目がけて降り注ぐ石の群。

 津波に対して対策が施された天沼島であろうと山はない故、落石対策など施されていない。

 ただ降り注ぐの座視するだけかと思われたその時、海面を突き破るようにして円筒の飛翔体が出現する。

 飛翔体は先端を花弁のように開けば、中より無数の小型飛翔体を射出した。

 落下する石の群と小型飛翔体の群が宙で激突。

 ピラニア同士が喰らい合うように爆発と閃光が天沼島を揺らす。

 次いで海面から突き出すように現れたのが黒きロボット。

 一対の脚で金属の大地に滑るようにして着地、各部スラスタで姿勢を整えながら、第二の噴石群に巨大な両腕を掲げビームを放つ。

 放たれたビームは圧縮されたものではなく、拡散させ散弾としたものであった。

 一発一発の威力は低かろうとシャワーのように広がり、降り注ぐ噴石を逃さず撃ち落としていく。

 岩肌鮫が落石一つない島の現状に吼える。怒りに連動するように背鰭の山脈が再度赤熱化する。

 黒きロボットが頭部の銃口より放つぶつ切りのビームで海面より露出する岩肌を削り、噴石発射を牽制する。

 岩肌鮫はビームから逃れるため海中へと急速潜航する。

 水中において粒子ビームは抵抗を大きく受けて飛散するからだ。


 読み通りビームの自衛策として岩肌鮫が海中に潜航した。

 エネルゲイヤーΔを操作する蒼太は即座に朱翔とみそらに通信を送る。

「二人とも島の守りは任せろ!」

「敵鮫は水深二キロメートル、五〇ノット、つまりは時速九三キロの速さで泳いでいます」

「魚雷並みの速さよ、後、水圧にも気を付けなさいよ」

 今回は水中戦となる。

 水の圧力にて一〇メートル深さが増すごとに一キログラムの圧力がかかる。

 それが一〇〇、一〇〇〇となれば圧壊する危険もあった。

 ARグラス越しに双子の頼もしい返答が入る。

『『オ~ライ!』』


 朱翔とみそらは掲げた端末を腹部に添える。

「デュナイセット!」

「デュエンター!」

 赤と青の粒子が肉体を包み込み、互いに顔を見合わせては力強く頷いた。

「アームドアップ・デュナイド!」

「デュナスブレイク・デュエンド!」

 

 海面にて赤と青の光が集い、人の形を描く。

 現し赤と青の巨人はそのまま海中へ巨体を飛び込ませていた。

「行くよ、みそら!」

「おうよ、兄貴こそ溺れるなよ!」

 飛び込むなり巨体は水の抵抗を受ける。

 背面と足裏より圧縮光子エネルギーを推進力として放つ。

 岩肌鮫はさらなる深みに潜っている。

 日の光届かぬ深き海中であろうとアーマーに蓄積された光子エネルギーにて水圧の影響を軽減し活動する事ができた。

「海は鮫の独断場だ! 噛み砕かれないようにしろよ!」

「竜巻がないだけマシさ!」

 先に岩肌鮫に急迫したのはデュエンド。

 突き出した手先より小型光弾を速射する。

 海中であろうと水抵抗を一切受けず地上と遜色ない速度で岩肌鮫の岩を剥がしにかかる。

 岩肌鮫が動く。平地のように平たく広い尾鰭で強く海水を蹴り、一気に加速。デュナイドとデュエンドを追い抜けば、ソニックブームよろしくの水流を叩きつけ体勢を乱す。その間、背後に回り込み、開いた大口に並ぶ岩の牙を弾丸として放ってきた。

「そんなもん避ければ――」

「みそら、避けるな!」

 デュナイドの言葉にて背後に気づいたデュエンドは咄嗟に光子エネルギーを板状にバリアとして展開する。自分だけでなく背後にある巨大ケーブルを覆う規模のバリアで岩の弾丸を防ぐ。

「あぶねえ、なあ!」

 後少し気づくのが遅ければ、岩の弾丸は海底送電ケーブルを破断していた。敵の目的が天沼島の破壊である以上、海底送電ケーブルを狙うのは必然となる。今回の怪獣が水中戦に長けた鮫型なのもあの鋭利な牙でケーブルを喰い千切るためか。

「僕が攻める。君は守りに専念して!」

「おいおい、勝手に決め――ああ、もう分かったよ!」

 デュエンドは反論するも既にデュナイドは岩肌鮫を追っていた。

 あの岩肌を砕きたい渇望がデュエンドに駆けるもデュナイドに任されたことで抑止となる。

 岩肌鮫は魚雷を越える速度で海中を縦横無尽に泳ぎ回りデュナイドに捕らえさせない。光線を放ってきたデュナイドへの応射に全身を震わせ、背鰭の山脈より噴石を放つも避けられ海底に消える。

 だが岩肌鮫の本命は肌を振るわせ剥離させた岩片であった。

「くっ!」

 海中に飛散する岩片の群に突っ込んだデュナイドを無数の爆発が襲う。

 岩片が連鎖する機雷として爆発を繰り返しデュナイドを場に縫いつける。

 旋回して急激に距離を詰めてきた岩肌鮫が大口を開き、デュナイドの胴体に右側面から喰らいついた。

「朱翔!」

 飛び交う岩弾を防いでいたデュエンドは叫ぶ。

 助けに向かおうと岩肌鮫は近づくのを拒むようにデュエンド目がけて噴石弾を放ってくる。

 避ける砕くは容易くとも岩片一つが島に致命傷を与えかねない。

 だから光子バリアを展開することで防ぐことしかできなかった。

「僕は大丈夫だ!」

 デュナイドは寸前で胴体のみ光子バリアを張り、岩肌鮫の噛みつきを受け止めていた。

 光子バリアが岩牙の噛む力により悲鳴を上げる。微細ながら無数の亀裂を走らせつつある。

「こいつ!」

 この状態が継続すればバリアは噛む力と水圧により砕ける未来しかない。デュナイドは振り上げた手刀に光子を集わせ、光輪を描く。そのまま振り下ろすも岩肌鮫は再生した岩肌で光輪を受け止めていた。回転する光輪が岩肌を砕く。砕かれた岩肌が瞬時に再生する。繰り返しだ。

「鮫の歯みたいにすぐ生えるのか!」

 再生を繰り返す敵を打破する方法はただ一つ。

 再生を上回る攻撃を与えればいいだけの話。

「どうする!」

 だが上回る攻撃を与える術がない。

 秒単位で深度とバリアの亀裂は深さを増していく。

 アーマーに蓄積された光子エネルギーも上限があり、無限ではない。

『朱翔さん、耐えてください!』

 白花から緊急通信が入る。

 一瞬だけ言葉の意味を理解できず、思考が空転を起こす。

 急激に迫るのは一発の魚雷。高速で泳ぐ岩肌鮫を執拗なまでに猛追している。岩肌鮫は右往左往と巨体を捻り、剥離した岩肌を海中にバラまいた。それはあたかもミサイルに追われる戦闘機が防護手段として放つデコイのようだ。

 岩片の一つに触れた魚雷は爆散、海中は白き煙に覆われる。

「な、なんだ、これ、身体が、凍る!」

 白き煙の正体は凍結する海水。

 爆発点を中心に海水が急激に凍結していく。

 凍結の波は岩肌鮫の尾を掴み、這い寄るカビの如く全身を凍てつかせ包み込む。

 当然、噛みつかれたままのデュナイドも例外ではなく、凍結により身動きが取れなくなる。

「動きが、止まった! これなら!」

 そのまま巨大な氷塊となり浮力にて海面へ上昇していく。

 岩肌鮫は背鰭の山脈より噴石弾を放とうとしているが、急激な凍結により発射口を塞がれ撃てずにいる。

「みそら!」

「言われなくても!」

 下に回り込んだデュエンドが氷塊を持ち上げる。

 浮力に推力が加わり、海面との距離が急激に縮まっていく。

「そんでこのままどうする!」

「僕に考えがある! 君は構わず海面どころか空まで持ち上げるんだ!」

「それじゃ衛星軌道まで行くぜ!」

 守りを強いられた鬱憤を晴らすようにデュエンドの推力は増す。

 そのまま海面を突き抜ければ、数多の水しぶきを置き去りに空高く飛翔する。

「みそら、そのまま放り投げろ!」

 雲より高き成層圏まで至った時、デュエンドは言われるがまま氷塊を放り投げた。

 岩肌鮫が暴れに暴れたことで、氷塊には無数の亀裂が走っている。割れるのは時間の問題であるが、デュナイドにとっては問題ではなかった。

「光子エネルギーを全身に溜めて、一気に放出すれば……」

「おいおい、兄貴、何する気だよ!」

 双子の直感か、みそらが珍しく狼狽える。

「光子爆発――サンシャインダイナマイト!」

 デュナイドは内に溜めこんだ光子エネルギーを一気に解放する。

 解放された光子エネルギーは爆発力に変換され、恒星の如く輝きが氷塊ごと岩肌鮫を飲み込んだ。

 噛みついていたことで口内に爆発エネルギーが流れ込み、自慢の岩肌も意味をなさない。

 岩肌鮫は悲鳴さえあげられず消失した。

「これは……死ぬほど、痛い、な……」

 ほぼ自爆に近い技に朱翔は呻く。

 纏うアーマーがダメージ軽減をなそうと、全身を打ちつけたような痛みに苦悶を漏らす。

「無理しすぎだっての」

 自由落下しかけたデュナイドの身体をデュエンドが支える。

「岩肌の再生を越える攻撃はこれしか思い浮かばなくてね」

「まあいい。叱るのは俺様の仕事じゃねえしな」

「そう、だね」

 怪獣は討たれた。

 島への脅威はまた一つ取り除かれようと、元凶の存在が胸を晴らすことはない。

 次は如何なる手か、終わりの見えぬ戦いに勝てるのか不安が走る。

(いや、今は帰ろう。帰るんだ)

 デュナイド、デュエンドの両名の身体が光子状に散る中、朱翔は愛しき彼女の姿を思い浮かべていた。


「まあやられるのは計算通りの思惑通り! 在庫処分サンキュー! 手間省けたイエ~イ!」

 チュベロスは機械の山に越しかけ、中継映像にほくそ笑む。

 怪獣はいくらでもある。いくらでも作れる。

 邪魔者の数が増えようと、大人数でボコろうと今のチュベロスには痛くも痒くもない。

 むしろこれから起こる一大イベントの余興と思えば笑いを堪えるので大変だ。

 大切な作業はまだ終わっていないというのに笑いが作業を阻害して困ってしまう。

 タブレット端末が音を立てて更新音を告げる。

 チュベロスは丸っこい腕で端末を手に取った。

「ふむへむふむへむ、光子エネルギーを収束させて一気に爆発させるとね……光子エネルギーを単位相化、裏バリアと表バリアの二重に別けて肉体にかかる爆発反動を最小限に抑えているわけか……なら、この装甲の位相変換機能は調整するだけでいいな」

 必要なデータは集め終えた。

 映像の編集も終わっている。

 後はチュベロス自身が作業を終えるだけだ。

「んじゃ久々にチャンネル更新しておきますか!」

 チュベロスは嬉々としてタブレットを叩くのであった。


 地球爆破まで残り――一六八:〇〇:〇〇。

 お楽しみ動画解放まで残り――二四:〇〇:〇〇。

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