第34話 たった一つの条件

 ――や~い、単細胞の劣等種族!


 巨大宇宙タコの脅威より朱翔とみそらを救った赤と青の光る人型。

 光の粒子が人型に集結して形をとる存在に無重力の中、姿勢を整えながら双子の兄妹は感謝を述べるべきか、警戒すべきか距離を取っていた。

「おい、兄妹、どうする?」

「どうするもなにも……敵ではないようだな」

 敵ではなくとも味方であるとは限らないが、赤と青に敵意がないのは確かであった。

「言葉、通じると思うか?」

「英語も日ノ本言葉も通じなさそうだな」

 赤と青も見るからに双子の兄妹と同じ心境のようで、顔(?)の部位を互いに見合わせているときた。

 危ないところを助けたはいいが、どうコミュニケーションを行えばいいから分からないと言った様だ。

「ARグラスに翻訳ソフトはあるが、宇宙の言語はないからな」

「辞書にない言葉は調べられないと言ったもの」

 無重力空間なのに空気が重い。

 新たな宇宙タコ襲来の危険性がある以上、場に留まり続けるのは危険だが、下手に動けば宇宙タコに捕縛される。

 赤き人が動く。

 咄嗟に身構える朱翔とみそらだが、二人のARグラスに接続許可を求める信号が表示された。

「まさか」

 害意はない。如何に交流するべきか互いに手間取っている。

 そこに来て接続を求める信号。

 互いに頷きあった朱翔とみそらは接続を認めた。

 瞬間、ARグラスに目まぐるしくウィンドウが展開されては消えていく。

 一分後、ARグラスに文字が表示された。

『初めまして、でいいのか?』

『こんにち、は? わ? か?』

 朱翔とみそらは即座に返信する。

「初めましてだ」

「おう、初めまして。んで、何者だ、お前ら?」

「みそら、相手に名を尋ねるならば己からだろ?」

 改めて名乗る。

 敢えて、太陽系地球出身、柊朱翔と柊みそらと。

 相手の赤と青から返信あり。

 ただし一部が文字化けしていた。

『私たちは#&%$惑星の=&#%だ』

「惑星って、これ通じ合ってるけどどういう仕組みだ?」

「恐らくだけど、ARグラスの翻訳ソフトを解析したんだと思う」

「おいおい、解析とか生体認証突破してるじゃねえか。プライベートの塊であるARグラスを丸裸にされたって意味だぞ」

 人(?)に見られて恥ずかしくないデータなどないが、親兄妹でも見られるのは気分が悪い。

 ただ、現状と損得を考えられぬほど、みそらはマヌケではない。

「ったく、翻訳ソフトで意志疎通はできるが、一部変換できぬ箇所があるってことか」

 驚くべきことに赤と青が短時間で地球にあらゆる言語を理解し、瞬時に使用したことだ。

 意思疎通の問題点は一応の形であるが呆気なく解決された。

 ならばこそ、朱翔は現状を問う。

「一体、この船で何が起こったんだ?」

「あの宇宙タコなんだよ? お前らの知り合いか?」

『今この船は悪魔に襲われている』

「いや、タコに襲われたんだから、それはわかってるって」

「質問を変えよう。何でクルーを連れ去った?」

 朱翔の質問に赤と青は答えなかった。

 答えられないというよりも、今は答えるべきではないと感じた。

『見るからに君たちはしっかりとした肉体があるようだ。協力して欲しい』

「協力? そりゃ助けてもらった手前、協力するのもやぶさかではないがよ?」

 聞けば、赤と青は地球言語に変換すれば、肉体を失った異星人のようだ。

 地球と同惑星に住んでいたが、とある存在の侵攻により惑星は爆破消滅、赤と青は生き残るも肉体を失い、宇宙を彷徨っていたそうだ。 

 そして、その存在の活動を感じ取り、目的を阻止せんと木星圏に現れた。

 驚くべきが赤と青の母星を爆破した理由だ。

「趣味だと!」

「悪趣味すぎる」

 打ち上げ花火のように綺麗に木端微塵となる瞬間を見たいだけ。

 そこに正義も悪もない。

 ただのシュミっ!

 楽しいから、面白いから、爆発にかき消される寸前に響く絶叫が心地よいから惑星を爆破させる。

 聞けば、その存在は惑星ならどれでも良いわけではなく、知的生命体の住まう惑星だけを爆破させていた。

 それも宇宙に進出するまで文明を発展させた惑星ばかり。

「下手すると地球まで爆破される」

「おいおい、シャレにならねえぞ」

 心を絶望に引きずり落す薄ら寒い感覚が朱翔とみそらを襲う。

 夢と希望を持って進んだ先にあるのが絶望だった。

 フロンティア計画は人類の夢だ。目標だ。

 悪趣味一つで計画が妨げられるなどあってはならない。

 宇宙での知的生命体との邂逅が、害意に満ちた存在であるならば、フロンティア計画の今後の弊害となる。

 宇宙には敵がいると地球側が認識すれば、それを大義名分にして武装化が推し進められる。

 確かに地球人同士でも争っている。争いは今でも完全になくなっていない。

 それでも、だとしても、武力ではなく友好を持って遠き隣人と分かり合いたい。

 無理かもしれない。無駄かもしれない。現実知らずの夢想家だと思われるかもしれない。

 行動しなければ変えられるものも変えられない。

「……なにをすればいい?」

 朱翔は重い口を開き、赤と青に問う。

『力を……身体を貸して欲しい』

 赤と青は長い間、宇宙空間を彷徨ううちに本来持つ力の大半を失ってしまった。

 今のままでは元凶に太刀打ちできない。

 原因は肉体の消失。

 赤と青は地球でいう入れ物のないデータのような存在。

 故に、力を発揮するには器が必要だという。

「その力を発揮できれば、この状況を打破できるか?」

 一端とはいえ、赤と青が宇宙タコを消滅させている。

 ならば、貸さぬ理由はないが朱翔は条件をつけた。

「身体は貸してやる。ただし、条件が一つある!」

『地球では金銭というものでお礼をするそうだが、我々はそういうものは持っていない』

 朱翔は違うと頭を振った。

「……僕が出す条件はただ一つ」


 フロンティアⅦクルー全員の救出!

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