第30話 隕石

 ――速報、一三歳の宇宙飛行士誕生!


 顔に二種の靴跡刻む男は名乗る。

「改めまして、黒樫虹輝である」

 エネルゲイヤーΔの所有者。

 その正体は、クアンタムデヴァイサーの販売製造元、黒樫コーポレーション社長であった。

「まさかの社長……」

 朱翔は驚きのあまり、ただ目を丸くするしかない。

 天沼島では知らぬ者がいない有名人だ。

 島地下深くに格納庫を築き、巨大ロボットを保管する。

 流れ的に政府関係者かと思えば一民間企業の社長ときた。

「積もる話もあろう。疑問もあろう。故にまずは事の発端を語らせてもらおう」

 黒樫から朱翔たちのARグラスに写真データが送信される。

 映るのはトラックのタイヤほどの径を持つ金属球。

 どこかで見たような既視感を朱翔が走らせれば、蒼太が真っ先に口走る。

「この球って、あれじゃん、エネルゲイヤーΔの胸の中にあるやつじゃん!」

 言われてみれば電子マニュアルで見た覚えがあった。

 太陽光集積衛星<アマテラス>と連携する太陽鋼砲使用時に胸部より露出する金属球のあれだ。

 人間でいう脳や心臓に位置する中枢部だ。

「私が六歳の頃、まだ天沼島が純粋な発電施設であった時の話だ」

 金属の天井を見上げた黒樫は懐かしさを顔に宿しては語る。

「今では一島民として暮らしているが、当時は東北の地に暮らしていた。家がちょっとした財閥でね、いくつもの山を所有していたものだ」

「何、自慢話?」

「これ必要あんのか?」

「あるからしているのだよ!」

 コソコソと話すたんぽぽと蒼太に黒樫は指摘する。

 いつもならば反論の一つはするたんぽぽと蒼太は神妙な面持ちで素直に黙っていた。

『もしかしてあの顔にある靴跡は……』

 朱翔のARグラスに白花からプライベートチャットが届く。

 記憶にござませんの発言を踏まえても、あの二人が黒樫の顔面に蹴りを入れたのはまず間違いないだろう。

『糾弾しないあたり大人だね』

 日頃からエキセントリックな言動が多い社長と有名である。

 類推であるが、いつもの高笑いで現れた瞬間、敵と判断したたんぽぽと蒼太に顔面蹴りを入れられたのだろう。

「とある山に隕石が落ちてね。地元で騒がれたよ。隕石には地球にはない成分が多く含まれている。過去の事例を踏まえてもレアなものでは一千万はくだらないそうだ」

 希少性故、高額になるのは当然だろう。

「ただ拾った隕石はゴツゴツではなくツルツルしていてね、本当に隕石かと疑われ、専門家が調べる事態にまでなったよ」

 結果として本物だと隕石の鑑定結果が出る。

 では、出たらどうなるかの流れなど決まっていた。

「この国では最初に拾い上げた者が所有権を主張できる。そう、この私だ」

 発見地点は黒樫家所有の山であり、山の中を駆け回っていた子供が発見した。

 ややこしいことに、私有地に埋まっていた場合、所有権はその土地の所有者にあり、めり込むことなく落ちていた場合、拾った者が所有権を主張する権利がある。

 山の所有者は黒樫の曽祖父であった。

「ひいおじいさまに子供や孫は沢山いようと、当時、曾孫は私一人だけでね。それはもう目に入れても痛くないほど大層かわいがられたものだよ」

 曾孫の頼みならと曽祖父は快く隕石の所有権を譲り渡した。

 親族一同、財閥の長である曽祖父に異を唱える者はおらず、隕石は曾孫の物となる。

「綺麗な隕石だったからね、毎日ピカピカに磨いていた。ところがだ。異様なまでにスマートフォンのバッテリーの減りが早いことに気づいたのだよ」

 最初はバッテリーの劣化だと思った。

 バッテリーは充電と放電を重ね続けると充電量が徐々に減る劣化現象を起こしていた。

『スマートフォンって確か』

『ARグラスの前の端末ですね。眼鏡のようにかけるのではなく、直に手で持って指で触れて操作していたとお父さまから聞いたことがあります』

『触って操作するとか不便だな』

『手に持つのも落としそうですしね』

 端末とは持つ物ではなく眼鏡のようにかける物だとの認識が強い故に。

「そしてある日、物は試しにと大容量バッテリーを隕石の傍に置いてみたら……案の定、隕石が電気を吸い取っていたのだよ」

 一度の思い付きは二度三度と連鎖する。

 何を与えたら隕石は反応するのか、実験の繰り返しだった。

「モニターと接続した時、映像が再生されたよ」

 記録映像がARグラスを介して再生される。


 機械の街並みを巨大生物たちが蹂躙する。

 天高く聳えるビルは天沼島中央部にある太陽光照射施設とよく似ている。

 空に眩い輝きが集えば、灼熱の閃光が巨大生物ごと街を焼き尽くしていた。

 閃光は街だけで終わらず、大地を走り、大陸を焼き、海を干上がらせる。

 そして、腹を抱えてながら爆発する惑星を見下ろす黒きモコモコを最後に映像は終えた。


「ちょっと待ってよ、この映像まるで……」

「ああ、この島の状況と似すぎていないか」

「あの光、まるで太陽光集積衛星から照射される太陽光みたいですね」

「黒いモコモコ……」

 誰も彼もが映像が作りものだと疑わなかった。

 真実だと決定させるのが黒きモコモコだ。

「間違いない。チュベロスだ」

 朱翔に眠る記憶の奥が疼く。

「デュナイド、どう思う?」

『……分からない。だが、覚えはある。そうこのような惨劇を身で味わったような覚えが……』

 もしかしたらとの憶測が朱翔に駆ける。

 デュナイドは肉体がない。ないのは故郷の惑星が滅びた時に肉体を失ったから。宇宙を漂い続けた果てに、落雷たる形で朱翔に憑依した。

 そう考えれば辻褄が合う。

 合うも、みそらとデュエンドの存在を如何に説明するのか。

 後回しだと脳の隅に雑念として追いやれば、今はただ黒樫の話に耳を傾け続けた。

「作り物とは思えない映像。当然のことすぐひいおじいさまに相談したよ。太陽光集積衛星は順調に電力を生産している。近々移住のための島の拡張事業が開始される。そんな時期だ」

 下手すれば地球も同じ末路を迎えることになる。

 だらこそ、黒樫の曽祖父は決断した。

 天沼島の拡張事業に多額の出資を行ったのだ。

 豊富な資金力を活かすことで拡張事業の参入にこぎつける。

 後は担当区画の拡張工事にて様々な手回しや手を加えることで脅威に備えた。

「そうか、太陽光集積衛星がエネルゲイヤーΔに使えたのも、事業に参入していたからか」

 気づいた蒼太に黒樫は、出来の良い生徒を見つけたように顔を綻ばせた。

「その通り! どんなに頑丈なシステムだろうと中に入り込めば後はなんでも仕込むことができる。もちろん、あくまで脅威に対する自衛手段。国に訴えても事が起こるまで突っぱねられるのがオチだったからね。そしてだよ」

 黒樫は隕石に膨大な電力を与えると部品を形成することに気づく。

 ならばと天沼島に持ち込んだ隕石に送電ケーブルより電力を流し込んだ。

「出るわ、出るわの部品の数!」

 部品の形成で気づかぬ朱翔たちではない。

 恐らくはデュネクスギアを形成した形成機だ。

 隕石は形成機の側面を持っていた。

「組み立て作業はまるで巨大なレ〇ブロックだったと当時の作業員たちは語っていたよ。そうして完成したのが……エネルゲイヤーΔである」

 誕生の経緯は理解した。

 黒樫に二心はなく、ただ脅威に対する備えを整えてきた。

 正義感か、義務感かは分からないからこそ、朱翔は目的を問いかけた。

「あんたは一体、なんの目的があって? 会社の利益か?」

 ふむと、黒樫は顎に手を当て天井を見上げはしばし黙考する。

「確かに社長であるならば利益を求めるのは当然のこと。だがのしかし、当時の私はまだ一〇歳にも満たぬ子供だ。あの時、私を突き動かした感情はただ一つ――この惑星が滅びればゲームができなくなる。そんな単純な理由だよ」

 その単純な理由に理解を示した者がいた。

 黒樫の曽祖父だ。

 ただ曾孫が可愛いだけで財力を惜しまず投入するはずがない。

 脅威がいつ来襲するか、本当に起こるのか、無駄になるかもしれぬとも、大人として先行きを見据え、脅威に対して基盤を整えた。

「そしてだ。ザザザッで起こったとある事件が、脅威の存在を私たちに強く押し出したよ」

「えっ!」

 瞬間、黒樫の発言の一部にノイズが走る。次いで朱翔の視界が明滅し、記憶すらノイズが走った。

「柊朱翔くん、君は記憶喪失だそうだね。ならば君は記憶喪失以前の出来事を知りたいと思わないかね? こらこら、柊朱翔くんの友達である君たち三人の気持ちはよ~く分かる。分かるから、揃って睨まないで欲しいね。後拳握りしめるのも止めて」

 白花・たんぽぽ・蒼太の三人は揃って表情を強張らせ、黒樫を睨みつけている。

 特に今にも殴り掛からんとするのが、たんぽぽと蒼太であり黒樫は臆することなく両手で二人に留まるよう制止していた。

「君には知る権利がある。記憶が戻るのを悠長に待っていられるほど状況は好ましくない。知りたいのならARグラスを外せばいい。知りたくないのならかけたままにすればいい」

 選択は二つ。

 白花が心配そうに朱翔の手を握ってくる。

 この一年、幼馴染み三人の支えもあって今を楽しめた。

 楽しい日々は怪獣により砕かれ、デュナイドとして戦う自分がいる。

 何故、変身できるのか、記憶喪失は落雷が原因ではないのか。

 記憶喪失以前に何があった、何が起こった。

 現れたみそらとデュエンドの存在もまた朱翔の選択を後押しする。

「そうか、知ることを選ぶか……」

 ARグラスを外した朱翔に、白花たち三人は表情を軋ませる。

 その目には誰もが知ってはならぬと危機感が宿っているも朱翔の求める目に圧され、誰もが止めようとしなかった。できなかった。

「では私が知る限りのことを君に教えよう」

 黒樫は神妙に頷けばタブレット端末を取り出していた。

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