第23話 探し物はどこですか?

 ――ひょろひょろで、つるつるとした生白い存在が知性を持っている!


 チュベロス主催、探しものゲーム!

 ここでルールのおさらいをしてやるぞ!

 天沼島は展開されたバリアにより入るのカモ~ン、出るはデリートの監獄島となりました!

 クズの皆さんにはバリアの解除装置である箱を見つけてもらいます!

 期限は一週間!

 一週間以内に解除装置を見つけて最初にスイッチを押したクズに金塊をプレゼント!

 ただし一週間以内に見つけられなければバリアは縮小を開始して島を消失させるからな!

 では精々欲望にあがけよ、クズども!


 天沼島を一望できる場所にてハスキーボイスの主は困惑気味に頬をかく。

「ったく、そう来るかよ」

 島民たちを欲望と恐怖で煽り、滑稽に動く姿で悦に入る。

 見下ろせば誰もが血眼でバリア解除装置の小箱を探しているときた。

 自販機横のゴミ箱をひっくり返すのは序の口。

 排水溝の蓋をはがす。

 マンホールをこじ開けては下水にまで入り込む。

 近隣の小学生たちが育てている花壇の土を掘り起こす。

 好きな子のために用意した贈り物が小箱だったせいで大人に奪われ号泣している子供がいる。

 プロポーズせんと持っていた指輪入りの小箱が解除装置と同サイズだったから横からかっさらわれ、鬼の形相で追いかける男がいる。

 昼間から中学校の敷地内に入り、ショベルカーで校庭を掘り起こす輩まで現れる始末である。

 天沼島が金属の大地だからこそ、校庭は土と触れ合える貴重な場所だと言うのに我欲で掘り起こすなど贅沢なことだ。

「いい具合に狂ってやがる」

 失笑以外に何が口から出る。

 政府は既に非常事態宣言を出している。

 島民救出の作戦が展開されているようだが、出るのを拒むバリアにより進まない。

 本庁より指示を受けた警察が事態終息に奔走しようと、一般市民のほうが圧倒的に数が多いため終息など夢のまた夢。

 中には金塊に夢を馳せて職務を放棄する警察官まで現れていた。

「あーあー立ち入り禁止の地下エリアにまで入り込んでるよ」

 天沼島は人工の島である。

 表層部が人の営む場所である一方、分厚いプレート下には衝撃吸収装置やアンカー、通信・送電ケーブル、建造物収納部、津波シェルターなど文字通り生活基盤を支える物が内包されている。

 島の地下を出入りできるのは特別な資格を持つ技術者のみだ。

 地下が複雑てんこ盛りだからこそ、この島には本土にある地下鉄の代わりにモノレールが公共交通機関として普及している。

「おいおい、モノレールのレールにまで入り込んでるぞ。命よりも金塊がそんなに欲しいのか」

 驚き目を見張るしかない。

 高圧電流の流れるレールにまで入り込むなど命の賭ける時を間違えている。

「ん~さて、今回はどう動くかね」

 悩むような仕草をしながらごりごりとこめかみに握り拳を押しつける。

 デュナイドは力を取り戻した。エネルゲイヤーΔは起動した。

 こちらからすれば予定通りといえば予定通りであり、チュベロスからすれば計画を壊され、企みを裏切られ続けている。

 だからこそ、チュベロスの企みが読める。

「アレが解除ボタン押して終わりにすると思うか?」

 説明を思い出せ。記憶を反芻しろ。

 チュベロスはボタンを押せば、バリアが解除されると言った。

 だが、バリアの発生源である四本柱が消えるとは一言も告げていない。

「金塊だって本物とは限らないだろうな」

 見てくれは金塊だろう。

 チュベロスの加虐的性格を踏まえれば、島一つ吹き飛ばす爆弾を金塊に仕込んでいてもおかしくはない。

 わざわざ手の込んだゲームを行うのは、ただの変態的な趣味。

 そう、シュミッ! なのだ。

 下等生物とあざける地球人が滑稽に踊る姿を眺めて悦に浸りたいだけなのだ。

「ちぃと仕込んでおくか」

 朱翔たちの活躍のお陰で、チュベロスはこちらの動向に気づいていない。

 ニ手から四手飛んで悪巧みを仕込むチュベロスのことだ。

 四本柱に性根の悪い仕掛けを施しているだろう。

 だろう、ではない。必ず仕込んでいるはずだ。

「悪いが朱翔たちにはド派手に踊って走って逃げてもらおうか」

 取り出すは板状の青き端末。

 端末表面に刻印された”E”の文字が淡く輝き出す。

 中に組み込まれた広域センサを起動させれば探しものを見つけだす。

「おいおい、この位置って当たりすぎだろう!」

 運送する手間が省けたとしても、ただただ驚愕する。


 島が騒がしい。家の外も騒がしい。

 誰も彼も命よりも我欲に走り、小箱を見つけ出そうと奔走、いえ暴走している。

「困りましたね」

 私室に籠もる白花はARグラスに溢れる小箱の情報にうんざりした。

 今日は朱翔の自宅にお邪魔する予定であったが、この状況故に両親から外出を止められた。

 結果として英断である。

 こっちにあった、見つけたぞ、残念偽物でした、など誰もが足の引っ張り合いからの殴り合い。

 中には動画配信者が再生数稼ぎのため、偽の小箱を複数作っては街中でばら撒きパニック起こす動画すらある。

 本物と信じて疑わぬ者が貪欲に奪い合う光景は見ていられない。

「こういう時こそ、心を落ち着かせましょう」

 私室に備えられた防音室なる小部屋。

 静かな空間で心静めて書をしたためたいと願い出れば祖父が購入してくれた。

 中には筆を筆頭に、硯や文鎮、墨など書道に必要な道具が一式揃っている。

 壁一面にはARグラスで撮影しプリントアウトした朱翔の写真が飾ってある。

 明らかに目線がズレた隠し撮りもあろうと愛故に。

「あら、これは?」

 室内に一つだけ見覚えのない物が転がっていた。

 手の平に乗るほど小さな箱はどこか見覚えがある。

「あ、あら、あらら?」

 白花はARグラスに投影される映像と小箱を何度も見比べる。

 ゆっくり蓋を開けば、赤いボタンが現れた。

 ボタン表面には<バリアの解除スイッチだよ!>と文字が刻印されている親切仕様である。

 押せばバリアは解除され金塊が届くと思考した瞬間、湧き上がる歓喜が白花の脳裏に、結婚資金・新婚旅行・出産費用・マイホーム一括購入・子供三人の学費etcetc......――プランを構築させる。

「え、えっと、どうしましょうか?」

 ボタンを押しかけた指は寸前で止まる。

 今は押すべきではない。自分一人の手では余る。

 女の勘が強く警鐘を鳴らしてきたのだ。

 この警鐘により湧き上がる歓喜は困惑の鎖に縛られる。

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