第22話 イベント告知

 ――落雷による記憶喪失ということにしています。ご理解を。


 日本国内某所――とある研究施設に一人の男が訪れていた。

「こちらです。総理」

 この国の内閣総理大臣である男は職員により厳重に管理された格納庫へ案内される。

 格納庫には長さ一〇メートル、直径一メートルの針のように鋭利な金属棒が置かれていた。

「これか、第二の巨大生物が射出したとされる物体は……」

 興味深そうに目尻険しく先端から後端まで視線を往復させる。

 一部が機械化されたティラノサウルスより射出された金属棒。

 資料には目を通しているが実物を見るのは初めてだ。

 房総半島沖にて海底に突き刺さっていたのを極秘裏に回収しこの施設に運び入れた。

 報告によれば所属不明の潜水艦が何隻も近海で活動していたことから考えることは誰も同じようだ。

「それで、何か分かったことは?」

 職員の口は重い。

 どうやら真新しい発見はなかったのだろう。

 申し訳なさそうな苦い顔をする職員に、労いの言葉をかけた総理は脳内記録を閲覧した。

 長さ一〇メートル、直径一メートルの金属棒だが、重さは一〇キログラムと見かけよりも軽い。

 かといって硬度はありえないほど高く、モース硬度一〇のダイヤモンドですら傷ひとつつけられない。

 強度も非常識であり、曲げようが叩きつけようが逆に検査機器を壊してしまうほど。

 目を見張るべきは高い電圧をかけた際、重量が増幅すること。

 地球上に存在するあらゆる物質と一致しないことだ。

「チュベロスか……」

 巨大生物、確か怪獣と呼んでいた謎の黒き生物。

 相手を小馬鹿にするような言動による動画配信。

 どこから配信しているのか、どの国も掴めていないと聞く。

「我々を地球人だと言ったが、あれは宇宙人なのか?」

 確証はない。

 むしろ、テロリストが着ぐるみで素顔を隠していると考えれば、楽であったが巨大生物と巨人の存在が現実だと痛感させる。

 この国の生命線である天沼島の破壊を配信で宣言しているのも頭が痛い。

「太陽光集積衛星<アマテラス>を動かしたあの黒いロボットももそうだが……」

 現状、情報が足りなさすぎると渋面を作る。

 太陽光集積衛星を管理する天沼島の管理局にはシステムを洗いざらい調べるよう厳命してある。

 人々の暮らしを支えるために生み出されたシステムが人々を脅かす兵器になってはいけない。

 要は使い方なのだ。

 国政を担う者の一人としてこの状況は好ましくない。

 赤き巨人や黒きロボットが現れる巨大生物を倒し続けたとしても、その後の矛先が天沼島に向かう可能性は否定できないからだ。

 どの勢力に属しているのか、その目的がなんであろうとも。

「現状、対抗策はないに等しいがな……」

 総理は現状の苦々しさを顔の皴で表してしまう。

 自衛に重きを置く故、巨大生物に対抗などできやしない。

 赤いクマのような巨大生物に自衛艦隊の攻撃が一切通じなかった。

 自衛艦隊に攻撃許可を出した件について野党や平和団体から抗議の嵐が止まないでいる。

 自衛艦隊を天沼島から撤退させねば十八番である審議拒否を行うと宣言するなど片腹痛い。

 島の住人の安全を脅かす存在がいる以上、派遣は不可欠なのに、事の重要さを理解せぬとは何事だ。

「……もう一つ、回収したものは?」

「地下にあります。ですが」

「あ~分かっている。分かっている」

 みなまでいうなと言わんばかり総理は手で制していた。

 地下は機密の更に機密区画。地上より隔離された閉鎖空間だ。

 閉鎖レベルは炭疽菌や天然痘など危険な代物を管理、研究するレベル四施設と同等である。

「鷲の頭が二つある巨人の片翼か……」

 総理が案内された先はこの施設の管制室であった。

 隔離された場所である以上、カメラを介したほうが安全性が高い。

 未知なる生もの故、如何様な生物災害が起こるか分からないからだ。

「細胞は採取できたんだよね?」

「はい、ただ損傷激しくDNA分析に時間を有しています」

 職員の説明を受けながら総理はカメラ越しに黒焦げた肉片を覗き見る。

 宇宙生物の肉片ならば世紀の大発見であろう。

 天沼島に破壊工作を行わなければなお万々歳だ。

 一年前に公的記録から世界的に抹消されたとあるプロジェクトを否応にも思い出してしまう。

「彼、だったかな……」

 記録は抹消されようと記憶は抹消できない。

 人間、忘れたい物事ほど忘れず死ぬまで覚えているものだ。

 早計だろうと宇宙人との関連性が一番高いは否応にも彼になってしまう。

「心苦しいが一度、調査を入れたほうがいいな」

 今は糸くず一つでも情報が必要だ。

 本当に彼が今でも記憶喪失であるか確かめる必要もある。

 彼が何を見て、何を知り、何を為したか――

「恐らく、誰もが同じことを考えているだろうね……」

 同じ政治家だからこそ、至る考えは同じ。

「アメリカがうるさいだろうな」

 ついついぼやいてしまった。

 実際、安保を理由に巨大生物の情報提供を呼びかけている。

 巨大生物の状況次第では空母派遣を行うなど積極的ときた。

「艦隊が沈められるのは映画だけにして……ごほん!」

 職員が目を見開いて困惑していると気づいた総理は咳払いで誤魔化した。

「はい、もしもし?」

 懐にしまった携帯電話に着信あり。

 取り出したのはARグラスではなく、二つ折りの携帯電話であった。

 通話とメールのみという化石にも等しい端末を総理が使用する理由はただ一つ。

 ARグラスと異なりネットワークに繋がってない故、ハッキング対策に万全だからだ。

「なに、チュベロスだと?」

 電話は官邸からであり、届けられた情報に総理は巌のように顔を険しくする。

「君、悪いけどテレビつけて」

 総理に促されるまま職員の一人がテレビをつければ、黒いぬいぐるみが大写しとなる。


「やっほ~チュベロス・チャンネルだよ! どんどんんばしばしば~ん! オラオラオラ!」

 チュベロスはデュナイドの顔写真が貼りつけられたサンドバックを丸っこい手で何度を殴りつけていた。

「散々僕様の邪魔しやがって、クソ野郎が!」

 サンドバックは殴打による殴打により原型を留めず消失する。

「あ~すっきりしない! というわけで早速だけど今回の動画配信はゲーム告知だ!」

 鼻息荒くチュベロスは告知を開始する。

 別画面で映し出されるのは天沼島の俯瞰映像。

 航行する船舶や旅客機によりリアルタイムであると証明されている。

「はい、こちらにくっそでかい柱が四本あります。ぱっと見てなんの変哲もないただの黒い柱ですよね? これをこうして、ああすると、あらびっくり、天沼島を囲むように現れました!」

 天沼島に突如として現れた四つの野太い柱。

 艶消しの黒い柱は海面より顔を出しているだけで一キロメートルを超えている。

 淡い白色に発光すれば天沼島は半透明のバリアに包まれた。

「はい、これで島のカス共は閉じ込められました! バリアに触れると消失するから触るなよ、絶対に触るなよ! 大便サービスで外からバリアに触れても中に入れるようしているけど、入れば外に出られません! そう、二度と、二度とね! ぶぎゃぐぎゃぶぎゃっ!」

 チュベロスは両手両足を振り回しながら笑い転げる。

「んじゃルール説明行くぞ!」

 ゴロリと起き上がったチュベロスは丸っこい手で黒い小箱を取り出した。

「これは島を包むバリアの解除装置だ! こうして中のボタンを押すと、ほれ、バリアが消えます! 外に出られます!」

 何度もボタンを押してはバリアの展開と解除をチュベロズは繰り返す。

 バリアが展開した時、航行する船舶が船体の一部を掠める光景に舌打ちする。

「ちぃ、一部だけかよ、全部消えちまえばよかったのに……」

 異常に気付いた他の船舶や飛行機も柱を迂回しているときた。

 心底つまらぬとチュベロズは吐き捨てる。

「今からこの解除装置を島のどこかに落とします。そう、いわゆる探し物ゲームです。一週間以内に見つけて解除できたらてめえらクズの勝ち! 期限を過ぎるとバリアは縮小を開始して島を丸ごと消失させます! ああ、もちろん僕も悪魔じゃないし、しっかりご褒美だってあるよ!」

 カメラの向きを変えれば六段重ねの金塊が映し出された。

「この解除装置を発見し、一番最初にボタンを押したクズにこの金塊をプレゼント! 賞品の発送はこちらから空間転移で直に運ぶから住所記入は必要ないぞ!」

 口端を裂かんばかりに笑うチュベロズの手前に黒き穴が現れる。

「んじゃカウントダウン開始……すり~・つ~・ぬわん・ぜろ~ん!」

 解除装置は天沼島に落とされた。

 勝者には褒美を、敗者には死を。

 命と褒美のかかった探しものゲームが開始された。

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