第21話 可能性を救えるのは!
――柊朱翔の処遇について異議のあるものは?
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正式名称:DUnamis・NEXus・GEAR。
光子変換力増幅と反光子妨害機能が組み込まれた変身ツール。
朱翔の脳神経に宿るデュナイドと繋がることで光子変換力を増幅するだけでなく、変身妨害を妨害する。
端末の姿形は一昔前に普及したスマートフォンに近い。
異なるのは通話・通信に使用するのではなく、腹部に添えることでベルトのバックルとなる点。
端末側面より展開されたベルトは光子
全身を包み込む光の輪は光子変換力と反光子妨害を兼ね備えたエネルギーフィールド。
このフィールドに包まれることで朱翔はデュナイドへの変身を再び可能とした。
「なんだこの溢れんばかりの力は!」
赤き粒子の奔流の中、朱翔は蒼太のように興奮を湧き上がらせる。
今までにない活力が内より猛る。
光子変換力にて形成されるは顔も服もない赤き巨人。
赤き巨人の周囲に黒き粒子が集いアーマーを形成する。
それは光子
アーマーは頭部から足先にかけて装着されていく。
赤き粒子の奔流は砕け、眼下に天沼島が映し出された。
「アームドアップ・デュナイド!」
赤き巨人は新たな姿にて再臨する。
爆鎧怪獣・ウルスドバーンを叩き起こす世紀の発明品。
脳髄にぶっ刺すことで強制的にコントロールする。
直にぶっ刺すため長時間の使用は脳みそバーンだが、怪獣は使い捨てであるため問題にすらしない。
螺旋描く針を惰眠貪る怪獣に突き刺さんとしたチュベロスは現れた赤き巨人に、お口あんぐりの度肝を抜く。
「ぬあんじゃそりゃあああああああああっ!」
チュベロスは見慣れぬ姿、知らぬ黒きアーマーを纏う疎ましき存在に、喉ち〇こ揺らして絶句する。
スマートで引き締まった体躯。
頭部には鋭角なブーメラン形の飾り、バイザーより覗く鋭い二つ目、アーマーにより腕や足は力強さが宿る。胸部に存在する金色の円環より生成される光子エネルギーが全身を巡り、アーマーの隙間より金色の光が溢れ出る。
「なんで変身してんだよ! できるんだよ! てめええっ!」
反光子を打ち破るなど不可能だ。地球レベルの技術で行うには計算では五〇〇年はかかると出ている。
「えええい、とっとと起きやがれってんだ、このクズ!」
チュベロスは丸っこい手で握る螺旋針を爆鎧怪獣・ウルスドバーンの脳天に突き刺した。
螺旋針は金属が噛みあう悲鳴のような音を上げながら爆鎧怪獣・ウルスドバーンの脳内を潜航する。
爆鎧怪獣・ウルスドバーンより悲鳴と絶叫が入り混じりった声が響けば、眠たそうな目から一転、殺意宿す目となり巨体を起き上がらせる。
「へへんだ。ただアーマーつけただけだろう? 島ごと消し炭にしちまいな、爆鎧怪獣・ウルスドバーン!」
チュベロスは尻を叩いて相手を挑発すれば、そのまま空間に現れた穴に消える。
力が漲る! 魂が叫ぶ! 可能性を救えるのはただ一人!
否――俺たちだけだ!
「はああああっ!」
新生したデュナイドはクマと真正面から激突する。
互いの手を牙のように掴み合わせ、ガチガチと金属同士が噛みあう不吉な音が鳴り響く。
クマのほうがデュナイドより体躯が上であり、掴み合いに自重を乗せて押し潰さんとする。
「ぐうううっ!」
朱翔は奥歯を噛みしめんばかりに下半身に力を集中させる。
一瞬でも力を抜けばあの巨体に潰される。
人口の大地に足裏がめり込み、朱翔の神経が悲鳴を上げる。
「この程度でっ!」
朱翔は息を短く吸い込み、四肢に力を込める。
巨人の胸部の円環が唸るように輝き、四肢のアーマーより金色の燐光が漏れ出すなり、クマは足裏を場に縫い付けられように動きを止める。
デュナイドの各アーマーが漏れ出す燐光により赤熱化していた。
瞬間、爆発的な力が生まれ、クマの巨体を思いっきり押し返す。
硬き金属が砕けるような音がするなり、クマは巨体を仰向けにひっくり返していた。
巨体横転の衝撃が纏う背面の赤きプレートを起爆させる。
本来なら爆発にて衝撃を外部に逃がす役目のプレートが仰向けにて逃げ場を封じられ、直に受けた衝撃に身を反らすことを強要されていた。
「下手な箇所には攻撃できないが!」
クマは爆発の衝撃に苦悶の音を漏らせば巨体を左右に揺すり、その反動を活かして巨体を起こす。
起き上がり一吼えした瞬間、顎下に突き上げた拳を強かに叩き込まれた。
「確かにそのプレートは厄介だよ! けどな、プレートは全身を覆っているわけじゃないだろう!」
外圧に爆発反応するのは赤きプレートのみ。
加えて先の横転により爆発のON/OFFをクマは行えぬと見た。
「おら、おらっ!」
粗野な声を乗せた赤き拳が何度もクマの鼻先を殴打する。
右に、左にと殴打される度にクマは顔を強制的に向きを変えられている。
爆発するプレートとて毛皮のように全身を覆っているわけではない。
覆うならば動きを阻害する。仮に動きを妨げぬ仕様にしようと関節部が爆発にて損壊すれば可動を妨げる要因となる。
故に、あのチュベロスはクマの動きを阻害せぬよう取って付けたようにプレートを全身に配置したと読む。
「特に顔回り! 全部覆っちゃ見えるもんも見えねえからな!」
使用制限のない爆破反応装甲故に。
何度も何度も爆発で視界を塞がれては破壊活動は困難。
プレートの裏には取っ手があるのか、クマは背面プレートを盾のように構えてきた。
「背中が――がら空きだっての!」
クマの巨体を真上から跳躍して回り込んだ巨人は着地と同時に強かな肘打ちを叩き込む。
巨体が揺れる。せき込むようなむせび声が漏れる。
「でええいいっ!」
巨人は突き出した手刀の先からぶつ切りの光線を速射で放ち、背中の毛皮を穿つ。
確かに命中するもクマのたじろがせたのみで、厚き毛皮に効果を減衰させられている。
クマは両手に赤きプレートを構えれば、バンバンバンとタンバリンのように表面を叩きつけては爆発を奏でてきた。
「爆発のサンドイッチは遠慮させてもらうぜ!」
朱翔は逡巡する。
下手に光線を放てば爆破反応装甲により威力を減衰される。
かといって殴打は効果があろうと厚き毛皮に威力を阻まれ、決め手に欠ける。
「……なんだ、単純じゃないか」
朱翔は閃くなり口端に笑みを走らせる。
光線と打撃、この二つを合わせればいいだけの話だ。
クマは巨人を爆破による圧壊させんと左右からプレートを叩きつけてきた。
後方の飛び退る形で回避した巨人は右手の平に輝きを収束させる。
朱翔は深く息を吸い込み、精神を落ち着かせれば眼前に急迫するクマを鋭く捉えた。
「スラッシュノヴァっ!」
一歩力強く踏み込んだ巨人より突き出される手刀。
手の平に集束された輝きはリング状に高速回転する。
それはいわば光の回転鋸。
クマは眼前に迫る光の鋸を防がんと、プレートを二枚重ねで構えてきた。
接触の爆発が両者を呑み込んだ。
爆発は断続して続くも爆音が小さくなるに反比例して金属が噛み合う悲鳴が大きくなっていく。
悲鳴の正体はプレート切り裂く光の鋸。
火花散らしながらプレートに刃を喰いこませる光の鋸は爆発に晒されようと一切の減退を見せない。
巨人もまた爆発に晒されようとアーマーにより守られ、光の鋸を力強く押し込んでいく。
「これで――っ!」
二枚重ねのプレートが轟音立ててクマの手より落ちる。
手の平で回転する光の鋸を力強く握り潰してエネルギーを集中。
握った拳を輝かせ、腰を落とすように構えた巨人はクマの鼻先に輝く拳を撃ち込んだ。
「ストライク――ノヴァああああああああああああっ!」
超至近距離にて撃ち込まれた拳は毛皮では一切減衰されない。
体内にエネルギーを撃ち込まれたクマは内部から肉体を崩壊させる。
「……今は眠れ。仇は必ず獲るから」
光に包まれ消えていくクマに向けて、またしても無意識が朱翔に言葉を走らせる。
クマが完全に消失する瞬間、穏やかな目で大きく頷いた。
見間違いかと目をこするも既にクマは痕跡残さず消失した後。
朱翔は歯を噛みしめては高き空を見上げて叫ぶ。
「チュベロス、俺はお前を絶対に許さない!」
猛り上がる怒りが、燃え盛る激情が、チュベロスを倒せと叫ぶ。
唇を噛む朱翔は本能で直感する。
これはデュナイドの心から発せられているのではない。
柊朱翔の心の奥底から湧き上がる感情だ。
「ふへへ~んだ。なにが倒す、あ、許さないか、まあどうでもいいよ! てめえらクズには散々世話になったからな、あ~そうだ! いいこと思いついた! ぐへへへへ、どゅふふふふっ! びぎゃぎゃぎゃぎゃっ! あ~思いついたらおかしすぎて腹痛くなった、誰か止めてええええええええええっ!」
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