第18話 太陽鋼砲
――月面裏より救難信号! このコードは!
天沼島本日の天気は晴れ、降水確率0%……
エネルゲイヤーΔが動きを止めたと同時、空に眩い輝きが集う。
機体両サイドのアーマーが分離すれば、白き粒子を噴出して空高く飛び去った。
空は一段と目映さに包まれる。
天沼島遙か上空、衛星軌道にて展開する太陽光集積衛生<アマテラス>が管理局の制御を離れ、独りでに起動していた。
展開した集積プレートが太陽光を集わせる。
そして束ねられた太陽光を地表へと照射していた。
「集積太陽光、来ます!」
「リフレクターR展開! 次いでリフレクターL展開!」
遙か上空に飛び立った二つのアーマーは変形する。
円を描くように展開したアーマーの正体は照射される太陽光を受け止める傘、リフレクターだ。
「ちょっとそこに突っ立ってなさいよ!」
たんぽぽはエネルゲイヤーΔの頭部機関砲を起動させる。
敵前での足止めは命取り。
ぼっと突っ立っていれば敵の餌食になると<クアンタムデヴァイサー>で身を持って知っている。
双頭鷲の巨人は動きを止めたエネルゲイヤーΔに迫るも頭部より放たれたぶつ切りのビーム圧に押されて場に縫いつけられた。
「リフレクターR、集積太陽光キャッチ! 仰角自動調整、リフレクターLに照射、次いでリフレクターLにて太陽光をさらに収束、エネルゲイヤーΔに照準!」
「背面太陽光受信パネル展開!」
「胸部装甲解放、次いで胸部内蔵コア、展開!」
エネルゲイヤーΔの胸部と背面の装甲が展開される。
背面にはすり鉢状のミラーが、胸部には銀色に輝く球体が現れた。
「太陽光来る!」
「両足アンカー展開、来た!」
金色に輝く光線がエネルゲイヤーΔに降り注ぐ。
光線は背面パネルに吸い込まれ、胸部より露出する銀色の球体を金色に染め上げる。
「照準ロックオン、白花、トリガーを預けるわ!」
「行きます!」
ARによって白花の手に仮想のグリップが展開される。
<オーバーメテオール>
システムがエネルギー臨界を警告、されど白花は慌てず、騒がずただ照準の先を見据えていた。
<
仮想のトリガーを白花は引き絞る。
金色に染まる球体より凝縮された光が放たれた。
柱のように極太の光は双頭鷲の巨人を包み込む。
発射によりエネルゲイヤーΔは激しい振動に襲われようと、両足を固定するアンカーが抑え込む。
間近で太陽に曝されたような熱量と光の中で双頭鷲の巨人が抗い藻掻くも身を容赦なく焼却されていく。
光と熱に圧され、双頭鷲の巨人は肉片残さず消え去っていた。
「敵反応、消失」
蒼太は愕然と言葉を紡ぐ。
エネルゲイヤーΔは機体の各装甲板を展開、放熱に入っている。
「なんて威力よ、それに、アマテラスから照射って……」
たんぽぽは己の手が震え、汗ばんでいるのに気づく。
尋常ではない威力を見せつけられた。
その一役に関わっていたのだからなおさらである。
「このロボットを作ったのは政府関係者なのでしょうか?」
だとしても矛盾がある。
蒼太たちが生まれる前、教科書にも載っている有名な話だ。
太陽集積衛星は日本国内の慢性的な電力不足を打開するために開発がスタートした。
基礎理論が完成した頃には、兵器製造だと世界中から非難の声が上がり、開発に遅れを来す。
紆余曲折あって実用化に至ろうと、やはり兵器との批判は消えることがない。
今でさえ平和団体がアマテラス破棄を求めて訴えてくる。
平和利用を兵器利用とするのは日本政府にとって自殺行為でしかないのだ。
「詮索は後回し! とっととズラかろうぜ! なんか海自が睨んでみるみたいだし!」
「そうね。朱翔を病院に運ばないと」
「放熱は終わっています」
強大な一撃後はしばしの放熱を必要とするようだ。
足を止めて撃つことも踏まえて多用はできない。
ふとセンサーが上空に反応を示す。
一番最初に気づいたのは白花だ。
熱量とも音とも異なる反応に疑問を抱くよりも先に、本能のまま頭部より機関砲を反応地点に撃ち込んでいた。
カーン!
撃ち出された光弾は空を過ると思えば、何もない宙から軽快な音を響かせる。
光弾が見えない何かに命中した。
「あいたっ!」
次いで響くのは子供が叩かれたような音。
宙に蜘蛛の巣のような亀裂が走れば音を立てて砕け散った。
「くあ~痛った~尻にモロ当たった~ぐおおおおおっ!」
ぽっかり空いた空の穴より苦悶する子供の声がする。
ドタバタと床を転がるような音さえする。
「うお、なんか穴開いてるし、落ちる、落ちるううううっ!」
穴より最初に現れたのは黒く短い足。
一見して黄色きクマのぬいぐるみのような下半身。
必死に落ちぬよう両足をジタバタさせている姿に向けて白花は、エネルゲイヤーΔより機関砲をフルオートで放っていた。
嵐の如く放たれしぶつ切りのビームの群れは、ピラニアの如く黒き尻に喰らいつく。
「あんた、なにいきなりぶっ放してんの?」
「いえ、なんか、こう……イラッときまして」
(こういうところが怖いんだよ、白花は……こういうところが)
未知に一切の興味と疑問を抱くことなく攻撃を躊躇なく行う白花に、蒼太はぞわりと総毛立つような寒気を抱く。
「ふぎゃあああ、割れる! 僕の尻が割れるうううっ、はううう、穴にいいいい、ぐうううあああ――いい加減しろ、地球人がああああああっ!」
黒き尻から反論と反撃。
尻を大きく左右に振るなり、ビーム弾の嵐を残らずエネルゲイヤーΔに撃ち返してきた。
嵐は雨となりエネルゲイヤーΔの黒き装甲にて弾かれさらに霧散、飛沫粒子として表層プレートを焦がす。
「こんのデカブツが! 僕のキュートな尻に穴増やそうとしやがって!」
黒き尻の本体が露わとなる。
誰もがその全容に言葉を失った。
エネルゲイヤーΔのセンサーが全長三〇センチと観測する。
黒だ。つぶらな青い瞳、フワフワモコモコと眠気を誘発するような毛、黒いずんぐりとした体形と尖った耳はデフォルメ化された悪魔のように見える。
怒りで大きく開いた口から八重歯が覗き、何一つ足場のない宙で地団駄を踏んでいた。
「なんだよ、そのデカブツ! 僕の邪魔するあいつを戦えなくしたってのに、ここに来てそう来るの! 来るのかよ! ぷじゃけるなああああああっ!」
まるで、いや子供の癇癪そのものだ。
自分の思い通りにならぬことに腹を立てている。
「なによ、こいつ……」
「あいつを戦えなくしたとか言っていますが……」
「まさか、こいつが巨大生物の!」
「あぁ? なんだって?」
蒼太たち三人しか聞こえぬはずの会話に相手は耳(?)に丸っこい手を当てて、耳を澄ますような動作を取っている。
次いで全身のフワフワモコモコの毛を逆立てた。
「てめえらか、デカブツ用意したの! ムッコロしてやるわ!」
黒き姿が一瞬だけ掻き消えた時には鋭利な重低音が響く。
エネルゲイヤーΔのカメラアイは天沼島全体を映していた。
「な、なにっ!」
「いつの間に!」
「おいおい、高度一万メートルだと! 飛行機の飛行高度と同じじゃねえか!」
殴られたのか、蹴られたのか、それとも不可視の力で遥か高く飛ばされたのか不明だ。
三人の誰もが状況を完全に呑み込めずにいる。
「ふん、そのまま水の藻屑になりな、か~ぺっ!」
吐き捨てる音はエネルゲイヤーΔが海面に激突した際に生じた爆発するような着水音にて上書きされた。
「でもまあ、今後一切あいつの邪魔が入らないから、今日はこれぐらいにしてやるよ! 次こそこの島ぶっ潰すからな! ぶわっははははあっ! あびぎゃぎゃぎっ!」
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