第19話 開設、チュベロズ・チャンネル!

 ――ぎゅあああああ、僕のコレクションを破壊するな!


「今回は派手に暴れたな~」

 ハスキーボイスの主は天沼島の被害を俯瞰しながら感嘆とした声を零す。

「お仲間の姿変わっているがいいのかあれ? あ、いいんだ……ともあれあのガキを表に引きずり出せただけもお釣りが来ると思えば儲けだな」

 震える肩を抱きしめる様にして抑え込む。

 巨大生物への恐怖ではない。

 抑え込んでいるのは感情、鮮烈で苛烈な憎悪。

 傷口に沸くウジのように大きく深く心を食い尽くしていく。

 故郷を奪われ、仲間を奪われ、仲間を殺させたあのガキ!

 あの黒き姿を一視した途端、理性の鎖で抑えつけた身体が勝手に動き出さんとしたぐらいだ。

「あ~いい感じに混ざってきてるな~」

 ハスキーボイスの主は左こめかみに拳をぐりぐりと押し付ける。

 協力関係にあるが、いわば危険な友人だ。

 デュナイドと命名したアレと異なり、こちらさんは肉体以外の全てを持っている。

 名前は翻訳不可なので地球名をしっかり名付けていた。

 あちらは上手く憑依して綺麗に住み分けが出来ているようだが、こちらさんとは時間経過で双方が持つ記憶の混濁が進んでいるから困りもの。

「まあ、俺様が俺様であることに変わりはないが!」

 修復というアフターサービスを行いたいのは山々だが、行えばあのガキに存在を察知される。

 もう少し姿を潜めたくも、好ましからぬ状況が許さない。

「あっちに反粒子の対策はない」

 デュナイドへの変身を阻害した淡き緑色の粒子。

 その正体は光子物資変換力を妨害する特殊粒子だ。

 人体には無毒無害の無味無臭だが一度身体に吸着すればまるまる一年、光子による変換に障害を起こす。

 粒子が付着した状態で無理に変身しようとすれば、粒子が神経を焼き、最悪の場合死に至る。

 地球上に存在しない粒子故、除去も中和も不可能だ。

「世話が焼けるぜ」

 にんまりと口端を歪めれば取り出した端末を操作していた。


 テレビだろうと、ネットワークだろうと流れるニュースは何もかも同じでうんざりとする。

<赤き巨人の仲間か、黒き巨大ロボット!>

<太陽光集積衛星、管理局の手を離れ暴走!>

<管理局、ただ調査中と繰り返すのみ!>

<太陽光集積衛星は本当に平和利用のためにあるのか!>

<第三国、太陽光集積衛星の軍事利用だと日本を批判!>

 見るも聞くもうんざりである。

 著名人が巨大生物被害に遭った津波シェルターにいたことから、何度もインタビュー映像が流されている。

 あたかも気に入った音楽をリピート再生しているようだ。

『命あっての物種、助かったよ、ひゃっは~!』

 はっちゃける人物など一人しかいない。

 黒樫ファウンデーション社長、黒樫虹輝である。

 双頭鷲の巨人により表層プレートを剥ぎ取られ、窮地に至ろうと結果的にケガ一つなく生き残った。

 映像は避難者撮影の映像に切り替わる。

 間近に迫る巨大生物にシェルター内の誰もが恐怖する中、バリケードを作るよう黒樫は檄と指示を飛ばしている。

 最初は黒樫一人だった。押されるようにまた一人、一人とあり合わせの資材を重ねに重ね、巨大生物の前では気休めにしかなぬバリケードを組み上げていた。

 直後、黒きロボットが双頭鷲の巨人をシェルターから引き離す瞬間で映像は終わりを迎える。

『あの巨大ロボットがなんだか知らないが、助かった! うん、助かった!』

 生存の喜びを噛みしめる黒樫だが、頭上から飛来する投げ縄に頭部を捕縛される。

『ぬが、縄の名は!』

 投げ縄を握るのは一人の美人秘書。

 にこやかな笑みを一切崩さず、目の錯覚か黒きオーラを輪郭に纏わせている。

 一切言葉を発せず、インタビュー中であろうと構わず黒樫を純粋な膂力にて引きずっていく。

『痛い、痛い! 頭割れる! 割れる! 脳みそバーンしちゃ、しちゃうのよ!』

 両脚を踏ん張って抵抗する黒樫だが、秘書には敵わずズルズルと引きずられていく。

 加えて悲鳴や抗議が飛ぼうとガン無視である。

『助けて~!』

 無情にも誰一人助ける者はいなかった。

 ただ誰もが黒樫に対し武運を祈るとばかり、敬礼しているシーンで映像は終わりを迎えた。


<データ受信完了……エネルゲイヤーΔ搭載・形成装置起動……メテオ・ニュークリアス・ドライブよりエネルギー生成、次いで光子変換機能によるパーツ形成を開始します>


「あ~これはいわゆる振り出しに戻るか?」

 目覚めた朱翔は白き天井を瞳に映すのはこれで三度目だと自嘲する。

 一度目は落雷の後に、二度目はデュナイドになった後に、そして三度目は皮膚を爆破されたような激痛の後に。

「誰もいないのか……」

 周囲はカーテンにて仕切られ、人の気配はない。

 ただ胸を過るのは寂しさではなく安堵であった。

「どうにかなったのか……」

 双頭鷲の巨人をどうなったか、島は、白花たち三人は無事なのか、安堵を不安が上塗りする。

「そうだ。デュナイド!」

 すぐ脇のテーブルにARグラスが置いてあるのを発見する。

 かけるなり、デュナイドのチャットが展開された。

『目が覚めたか、朱翔!』

 文字だけで表情は分からずともデュナイドは身を案じているようだ。

「早速で悪いが状況を教えてくれ」

『わ、分かった』

 デュナイドは朱翔が意識を失っている間に起こったことを記録した映像を交えて包み隠さず教えてくれた。

 どうやら第三・第四の巨大生物襲撃からまるまる三日が経過しているようだ。

 後、白花たち三人の姿が見えないのも次なる巨大生物襲来に備えて自宅待機の指示が学校から出ているからであった。

「変身を妨害する粒子に、巨大生物を太陽光で倒したエネルゲイヤーΔと言う謎のロボット、そして海面に叩き落した黒き悪魔みたいな奴か……」

 エネルゲイヤーΔが海面に着水し自動で秘密格納庫に帰投したシーンで映像は終わる。

 映像で事の顛末を閲覧した朱翔は、ぞわりと怖気と怒りが混ざり合う感覚に囚われる。

 特に黒い悪魔みたいなのに既視感が走るのだ。

「デュナイドは何か心当たりは?」

『まったくだ。ただエネルゲイヤーΔも、あの黒いのもどこかで見たような気がする』

「お互い記憶喪失なのが恨めしいぜ」

 思い出せぬ過去よりも今をどうするべきか、現状を考えろと朱翔は己に強く言い聞かせる。

「変身を妨害する粒子をどうにかしないといけないが……」

 残念にも知識ゼロ故、何一つ浮かばない。

「あ~……はぁ~!」

 深きため息が病室に寂しく木霊した。


「いえ~い、やほ~地にへばりつくしかできない地球人ども見てるか~! 見てないならとっとと見ろ! チュベロズ・チャンネル始まるぞ!」

 この日、全世界に向けて配信地点不明の動画配信がスタートする。

<チュベロズ・チャンネル>

 配信者はあの日、エネルゲイヤーΔを木の葉のように巻き上げ、海面に叩き落した黒き悪魔のようなもの。

 自らをチュベロズと名乗り、動画配信を開始していた。

「この星じゃ、糞尿みたいに映像流すの流行ってんだってな! 面白そうだから僕も垂れ流してやるよ!」

 軽快なBGMと共にお題目がでかでかと表示された。


<天沼島をぶっ壊してみよう!>


「いやね~もうあれこれ三回ほど造った怪獣放り出してんのに、あの野郎邪魔しやがって、ぶっ壊せないじゃないのよ!」

 小さく丸い両手両足をじたばたさせている。

 手足は一時停止のように唐突に動きを止めれば、爆弾が爆発したような笑い声が響き出す。

「あひゃはははは、くひひひひ、あげゃげゃげゃげゃ!」

 にんまりと口端を歪めて笑う顔が大写しとなる。

「でももう邪魔なんて入らないもんね! あんの黒いデカブツが代わりに出ても次の怪獣で大草原の平らな胸みたいにぺったんこだもんね!」

 そして画面下にカウントダウンクロックが表示された。

「今から三時間後、なまらつえ~怪獣で天沼島をぶっ壊します! 理由? てめえらなんかに教えるかバーカ! お前らは地にへばりついてしっかり必死に屁こいて逃げてればいいんだよ! 死んだら死ねえからな、あげゃげゃげゃげゃ!」


 三分後、第四の巨大生物……怪獣が天沼島に出現した。


「やっべ~次元射出機の時間設定、間違えた! ま、いっか!」

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