第16話 雷鋼機人、起動!
――現時刻を持って本プロジェクトの失敗を通告する……
天沼島の地下は迷路である。
これは有名な都市伝説だ。
一度迷い込めば二度と太陽の光を浴びれぬとまことしやかに囁かれていたが、まさか島の地下深くに巨大ロボットがあると誰も思わなかった。
「デケースゲーモノスゲー」
あまりのスケールにロボットを見下ろす蒼太の語彙力が低下している。
「黒い、ロボット……」
対照的に冷静に見下ろすのはたんぽぽだ。
頭の先から足の先まで黒曜石のような色を持つ巨大ロボット。
ARグラスの測定機能によれば全長は一〇一メートル。
鋭利なツインアイ。シャッターのように閉じた口部。鎧を幾重にも纏ったような、ごつごつした重厚なフォルムはいかにも頑強で重量があるように見え、赤いラインが全体に走る。
足裏には戦車でお馴染みの無限軌道が備えられ、頭部側面・両肩には砲口らしき穴が、両腰や両脚には砲身のような物が供えられていた。
「一体、誰がこんなもの……」
たんぽぽは未知のロボットに鋭く息を飲み込みこんだ。
記憶が間違いでなければ、巨大ロボットが実用化されたニュースなど見たことも聞いたこともない。
一〇〇メートルを超える巨体であるならば重量すら相当なもの。仮に人の形に製造しようと、股関節などに自重による負荷がかかり、まともに歩くことすらままならず自重崩壊する。
「疑問は愚問だっての、これ動かせないか?」
蒼太の発言は誰もが無意識下で抱いていたことだ。
――このロボットで外の巨大生物を倒す。
「動かすって、どうやって乗るのよ」
「それ以前に勝手に動かしていいものでもないかと」
「でもよ――ほらきた!」
ひときわ大きな揺れが天井を振るわせ、埃を落とす。
島で巨大生物が暴れ出したと誰もが表情を強ばらせる。
「朱翔は変身出来ねえ、それに示し合わせたように俺たちはここに運ばれた。これもう動かして戦えってことだろう。それにさ」
蒼太は拳を握りしめては胸の内を吐露する。
「親友だけ戦わせて、自分たちだけ安全な場所に引きこもるなんて俺様にはできない。ようやく帰ってきたのに、良いことも悪いことも忘れてしまってるけど今を謳歌できるようになった。なのにさ、上で暴れている奴らが朱翔の今を壊そうとしているんだぞ。そんなの許せるか!」
「蒼太、あんた……」
「そうですね、朱翔さんは以前、今は楽しいとおっしゃっていました。ならわたくしたちだって今ある可能性を守れることだってできるはずです」
力だけでは届かない。想いだけでは守れない。
もし今ある可能性を守れる力が目の前にあるとすれば、一人可能性を守るために戦う親友を助けとなる力となるのなら――躊躇する理由などない。
「起動方法、探すわよ!」
たんぽぽの決意に誰もが頷き、動き出した。
「お、これはまさかロボットアニメにお約束のコンソール!」
開始一〇歩で蒼太が壁に備えられたコンソール端末を発見した。
国際規格の電源マークがあるボタンを押せばモニターが点灯、
中より駆動音が響く。何かを出し入れするような音。
コンソール下部が開き、トランクケースを排出した。
「ほんのり温かい、あいた!」
「バカやってないで、とっとと開けなさい!」
たんぽぽに後頭部を叩かれた蒼太は「なんだよ」とグチりながらトランクケースを開く。
ロックはかけられておらず、中には黒いARグラスと同色の腕輪が三セット収納されていた。
「ARグラスはともかく、この腕輪は?」
白花のが疑問抱いた時、既に蒼太がものは試しにと黒いARグラスと腕輪を装着していた。
「真っ暗で何も見えねえ、うお、腕輪もなんかぴりぴりくるぞ」
試しに両手の五指を動かしてみた。
下層から金属がこすれあう音が響く。
たんぽぽが音源を確かめんと覗けば、横たわるロボットの五指が動いていたのを確認するなり蒼太に振り返り叫ぶ。
「蒼太、グーパーして!」
「お、おう」
蒼太はたんぽぽに言われるがままグーとパーの動きを繰り返す。
コンマ一秒のズレもなくロボットの手がグーとパーを繰り返した。
「これで動かすの? でもなんで三つも?」
揺れは一段と大きくなる。疑問の検証をしている暇はないと、たんぽぽは黒いARグラスと腕輪を装着する。
「白花、あんたも!」
「朱翔さん、しばしのご辛抱を!」
今なおエレキカートの上で目覚めぬ朱翔に謝罪しながら白花もまた黒いARグラスと腕輪を装着した。
三人の黒いARグラスに光が入れば、無機質な天井を映し出していた。
「まさか、ああ、やっぱり、これロボットの目だわ!」
たんぽぽは思わず驚嘆してしまう。
次いで現れるのは初期設定の文字。
メイン操作・火器管制・出力制御・索敵などの分担であった。
「どうするの?」
「え~っと、そうだ。これでいこう!」
いうなり蒼太は手早く設定を終えてしまう。
メイン操作・蒼太。火器管制・索敵・白花。出力制御・たんぽぽと当人たちと相談なく割り振ってしまう。
「あんたが操縦したいだけでしょうが!」
「ごもっともな指摘だけどさ、まず日頃から怒ろうと力加減をしっかり行うたんぽぽちゃんこそ出力制御に向いている。白花はゲーム内でも狙撃手として点をしっかり見れば、狭まる視界の中であろうと周囲の警戒も怠らないから火器管制や索敵に向いている。後、俺様がメイン操作なのはただの消去法!」
「蒼太さんらしいですね」
「これ途中で分担変えられるみたい」
電子マニュアルにざっと目を通せば、この巨大ロボットは固定火器による砲撃だけでなく格闘戦も行えるようだ。
ならば各々が得意な分野で切り替えながら操作すればいい。
ただ練習をする時間はなく、ぶっつけ本番であった。
「へん、朱翔だって訳も分からず変身して戦ったんだぞ! 何がぶっつけ本番だ! 敵に砲弾ぶつけてやるわ!」
「友達の戦う姿を座視しているほどあたしはおめでたくないのよ!」
「朱翔さんに酷い目を遭わせるなど万死に値します!」
三人は互いに頷きあえば覚悟を決める。
最後の仕上げとして蒼太がロボットの起動ボタンを押せば、ロボットの胸部から駆動音が響き出した。
<MCドライブ、リポーズ状態を解除。出力順次上昇を確認。各センサーオールグリーン。間接部、火器ロック解除権限を操縦者に移行します>
合成音声のアナウンスが流れ、ロボットが横たわる金属ベッドは下降を開始する。
MCが何の略か記されてないため不明だが、ロボットの動力源なのは間違いないようだ。
[ 雷 ]
[機Δ人]
[ 鋼 ]
黒いARグラスにシンボルマークらしきものが表示される。
次いでロボットの名前もまた。
<
アナウンスに蒼太・たんぽぽ・白花は不敵に笑って見せる。
「そこはAer yuo ready? だっての!」
「覚悟は?」
「できていますわ!」
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