第12話 第二の襲来

 ――びやっはっはっ! てめーらの弱点知ってるもんね!


<巨大生物が出現しました! 繰り返します。巨大生物が出現しました! 今すぐ最寄りの津波シェルターに避難してください! 繰り返します。巨大生物出現につき天沼島は建造物下降を開始します!>


 来るべき災害に備えて建造されたシステムが巨大生物で日の目を見るなど誰が予測するか。

 観測史上最大の五〇〇メートル級の津波にも耐えきれるよう島は建造されている。

 島民の安全を最優先に起動させたとしても、島の建造に関わった者たち誰もがよもや巨大生物と巨人に使用されるとは思わなかった。


 巨大生物出現に次いで現れるは赤き巨人。

 目も鼻もない赤き粒子の集合体のような巨人は人工島に立つ。

「だりゃあああああっ!」

 赤き巨人デュナイドとなった朱翔はまっさらな島を駆ける。

 あらゆる建造物が、人が島の腹へ消えた今、天沼島は格好のバトルフィールドと化していた。

 設計では大規模な地震と津波に耐えきれる作りだと学んでいる。

 ただ巨大生物と巨人が真上で戦闘を繰り広げるなど想定外だろう。

 巨大生物は災害か、テロかは今なお議論されていた。

「二人、め、二人? ええい、ニ体目はオーソドックスにティラノサウルスみたいなのか!」

 第二の巨大生物は博物館に展示されているようなティラノサウルスのようだ。

 ただ本家本元と違うのは背鰭に生えるは稼働するチェインソー、足裏は戦車の足こと無限軌道、小さな前足には鋭き鎌のような爪ではなく円形に並ぶ銃口と有機物と無機物が融合したサイボーグ恐竜だ。

「くっ!」

 恐竜の小さな前足より無数の光弾が放たれる。

 一発一発の低き威力を数が補ってはデュナイドを場に押さえ込む。

 両腕をクロスしてガード。ピンボールを高速射出したような痛みが両腕に走る。

 弾幕の圧力がデュナイドの足裏を徐々に後退させていた。

「地味に痛いんだよ!」

 腰に力を入れて駆け出す巨人。弾幕の嵐を気合いで駆け抜けてはスライディングで股下に潜り込んだ。

「おっら!」

 むき出しの腹に拳のラッシュを叩き込む。壁を直に殴りつけたような感触は腕に走ろうと巨人は殴るのを止めない。

 当然のこと受け身を甘んじる恐竜ではない。足裏の無限軌道が唸り声を上げ、竜巻のように巨人を巻き込んだ。

「痛ってててっ!」

 掃除機に巻き込まれたような痛みが巨人に走る。巻き込むだけ巻き込んだ恐竜は巨人を踏みつければ自重をもってして無限軌道の回転数を上げて削りにかかる。

「調子に、乗るな!」

 両手に光を集わせた巨人は身を削り取る恐竜の足裏を直に掴む。

 光がバリアの役目を果たし、恐竜の削り取りを阻害する。

 巨人の握力が高まるに反比例して無限軌道の回転力は落ちていく。

「どりゃああああああっ!」

 裂帛の気合いで巨人の握力が恐竜の足裏を握り潰した。

 恐竜は足裏の損壊箇所からスパークと砕片を散らしながら横倒しになる。

「おおっと!」

 サッカーボールの如く恐竜の頭部を蹴り飛ばさんとした巨人だが、尾側面より戸が開くような音がするなり後ろに飛びす去る。

 現れたのは直列に並ぶ円筒。銃口とは異なるほの暗さを奥に宿す円筒は火を噴き出し横転した巨体を立て直していた。

「スラスタまであるのかよ、なんでもありだな」

 流石はサイボーグだと、口からミサイルが出ても驚かないと朱翔は言い聞かせる。

「今度は尾か!」

 スラスタにて威力を底上げされた尾の重き一撃が迫る。

 尾側面より展開された円筒は自在に火を吹いては感性を制御。

 右に左にと薙ぎ払うと見せかけて巨人の頭頂部を叩き割らんと真上から迫る。

「ぐっ!」

 尾の一撃の重さが未知数である以上、下手な回避は島の破壊を招く。

 島にショックアブソーバーがあろうと、中で避難する人間が衝撃に耐えきれるはずがない。

 巨人の力で修復が可能だろうと目の前で失われるのは気分が悪い。

 よって真上から迫る尾の重撃を両手で受け止めていた。

 ひときわ強き衝撃が島を走り、海へと放出され波となる。

 波は島近隣に展開している海上自衛隊の船舶を強かに揺らしていた。

「なんて重さだ!」

 歯を力強く噛みしめる朱翔は全身に走る強かな電流に苦悶する。

 受け止めた尾の先端が花のように開く。

 中より現れるのは槍のように鋭利な先端。尾より駆動音が鳴り響くなり朱翔の素肌にぴりぴりとした警戒の微電流が走る。

「あぶねっ!」

 尾より射出されたのは実体を持った鋭利な金属棒。

 ニードルガンだと気づいたのは頬をかすめた後であった。

 寸前で顔を傾けていなければ直撃を許していた。

「鼻の穴や口に穴ないから開けてやるってか、迷惑だっての!」

 意志疎通できぬ謎の巨大生物だが、確かなのは島に、人間に確かな危害を与える危険生物であることだ。

 全ての可能性を救う意味を与えたからこそ、目の前で誰の可能性も奪わせない。

「ふんぬっ!」

 尾の一刺しが不発と知るなり恐竜は怒るように吼える。

 背鰭のチェインソーが展開、アームにて保持された刃が猛り声を上げて迫る。

 フレキシブルに稼働するアームによりチェインソーは縦横無尽に振り回される。

 時折、尾のスラスタを織り交ぜることでフェイントをかけては損壊した足裏を巨人の横っ腹に叩き込み、両手から追い打ちの銃撃を浴びせていく。

「厄介だな!」

 距離を取れば両手の銃撃が、近づけば背のチェインソーが迫る。

 尾の隠し針も一発とは思えない。何よりこの恐竜は最大の武器であろう顎による噛みつきを一度も行っていない。

 剥き出しで鋭利な歯を誇示していようと使う素振りを一切見せずにいる。

「おい、デュナイド、なんかいい案ないのか?」

 問おうと返答はない。

 巨人に変換するだけ変換しておいてアドバイスの一つも寄越さぬ無断宿泊者に腹が来る。

「ええっとこれか!」

 直感のような声が朱翔に走る。

 右手に意識を集中させれば集った光が伸長し刃を形成した。

「ほっ、よっ、はっ、ていっ!」

 巨人は手の甲より伸びる光刃を振るい、恐竜より放たれる銃弾をかき消した。

 間合いが開けていようと恐竜は背より延びるアームを振るう。更に伸展したアームでチェンソーが巨人に迫る。

 刃同士が激突、火花を散らす。

 鍔迫り合いはなお続く。力は拮抗、互いの刃は磨耗することなく現状を維持している。

 先に動いたのは恐竜だ。鍔迫り合いで互いに動けぬ中、開けた間合いであろうと攻撃可能な射撃武器を放つ。

 遠距離武器を持たぬ巨人は撃たれるがままだ。

 流れを殺させぬと恐竜はチェンソーと銃弾の圧力を高めてきた。

「ええい、右も出せるなら左も――出せた!」

 思い立った朱翔は激痛の中、左手に意識を集中させ、第二の刃を展開させた。

 そのまま左手の光刃をチェンソーとアームの接合部に突き刺した。

 チェンソーからスパークが走る。アーム内のケーブルが断線したのか、チェンソーは鳴りを徐々に潜めては停止した。

「このまま押し切る!」

 一歩攻め込まんと巨人が踏み込んだ時、恐竜もまた同じであった。

 ティラノサウルスの口部が大きく開かれ、中より巨大な砲口が延びる。

 渦巻くようにしてエネルギーが集い、その余波が巨人の接近を押し留めてきた。

「それなら!」

 朱翔は左右の刃を頭上で重ねる形で掲げて見せる。

 重なった二つの刃は輝きを一つに束ねられ、巨大な剣を形成する。

「サンライト――」

 輝きを増す度に朱翔に重圧が襲いかかる。

 狙う先は直線上の敵、故に振り下ろされば当たる。

 それ即ち、恐竜もまた放てば当たるを意味していた。

 巨大な光剣と漆黒の光線がほぼ同時に放たれる。

「キャリバアアアアアアアアー!」

 巨人より振り下ろされた巨大な光剣は漆黒の光線に抵抗を許すことなく両断する。

 光の刀身は伸び、恐竜すらも一刀両断していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る