第10話 巨人の名は――

 ――#&%$惑星の生き残りめ、僕の邪魔するのかよ!

 

 朱翔・白花・蒼太・たんぽぽ四人が通う高校は校章バッジさえつければ私服通学OKの学校である。

 校則もあってないようなもので私服も派手すぎず、なおかつ露出の低い服ならば問題ないと生徒手帳アプリに記載されていた。

 日頃から着物を愛用する白花は私服だらけの中で目立つだろうと、和服の似合う女子生徒として知名度は高い。

 ただ着物は洋服と異なり着るのに時間を必要とする。

 手慣れた者ならば一人で着付けができようと学校だからこそ着替え必要な体育の授業がある。

 着替えの手間暇を考え、白花は裏地のない浴衣めいた単衣の着物を通学用としていた。


 昼休み、とある教室は二人の生徒にて熱狂に包まれていた。

「両者一斉にスタートを切りました!」

「おおっと亀が高速で右往左往とジャージを振り切ろうとしております」

「しかしジャージ、そうは逃さぬと一端引いたと見せかけたフェイントを展開!」

「開いた左側から亀が抜かんとするも、ここで物陰に潜んでいたスーツが亀にバックからタ~ックル! 流石は花園出身! 亀、見事に顔面クリティカルダイブで効果抜群だ! 見るからに痛いぞ!」

「はい、ここでジャージの応援が到着。ドクシン、コンカツ、カツラが一斉に襲いかかります」

「亀は見るからに二十歳後半、抑えられてはたまるかと暴れ回る。流石は記者魂抱くデバガメの亀、その程度では止められぬか! ここでカツラが飛ぶ! 頭からすっぽ抜けて飛ぶ! 見事なK点超えだ! 数に物言わせた拘束が緩もうとコンカツが許さない。他の者たちを押しのけては校庭の上で見事な寝技を披露しております。これはもう嫌らしい、太股を亀の股間に押し込んでいる。ああ、お子様には見せられません。見ちゃ行けません! PTAがやかましいです!」

「はい、ここにきてようやくパンダに乗ったワンコが到着。亀の引き渡しがワンコへ行われそうですが、コンカツが離さない。亀の両手両足をがっしり掴んで離しません。巣にティクアウトする気満々で舌なめずりです」

「見てください。あの恍惚とした表情、すでに心はテイクオフだ。警察署ではなく式場に連行する気満々、日頃から虎視眈々とコンカツに狙われているドクシンがドン引きしています」

「でも実際は墓場だね~」

 ノリノリで校庭の実況をする蒼太とたんぽぽに朱翔は冷ややかな目を向ける。

「何してんだ、お前ら?」

「見ても分からんのは――」

「聞いても分からん!」

「いや校庭の状況は見て分かるが……」

 珍しい光景だと思う。

 いや、朱翔が思うのは校庭に無断侵入した記者を見事な連携で確保する教師陣ではなく、普段は調子に乗って痛い目見る蒼太と制裁下すたんぽぽがノリノリな実況で意気投合している光景である。

 教室を見渡そうと級友たちからの実況評価は好評のようだ。

「学校前に張り込んでいるかと思えば、学校の敷地内に堂々と入ってきましたね」

 白花が困った顔で嘆息している。

 朱翔が聞くには名士として知られる白花祖父がマスメディア側に取材自粛を出したそうだが、効果は今一つなのが理由だ。

 ただ事前に対策を施していた学校側はこうして不法侵入を防ぐことに成功しているも、業務内容が増えるとあまりいい顔はしてない。

「ああいうのってフリーとか孫受けとかの記者だから、大手のメディアは聞かぬ知らぬで通すのよね」

「あーやだやだ。大衆の耳目に情報を届ける輩が聞かず見らずなんてギャグかよ」

 この高校内でも生徒だけでなく教職員すら巨大生物の被害に遭っている。

 当然のこと学校側は全教職員及び全生徒に向けてマスメディアの取材は受けぬよう通告している。

 謎が多い巨大生物にどう受け答えすればいいのか、分からぬのが現状。

 巨大生物を倒した巨人についてもそうだ。

 学校ブランドの保護が建前の陰にあろうといらぬ憶測が混乱を招くと読む大人の事情もある。

「あれから三日経つが嘘みたいに静かだな」

 朱翔は第二の巨大生物襲来を危惧するも嘘のように静かだ。

 いや、大きさでいえば人間サイズ程度の騒ぎはある。

 テロ自衛策の名目で天沼島海域に海上自衛隊が展開している。

 野党が諸外国に対する威嚇行為だと批判しているといったニュースしかここ最近上がってこない。

「まあ学校内は安全だよな、学校内は!」

 意味深にぼやく蒼太の発言は、実況で熱狂していた教室内の空気を冷ましては重くする。

 先ほどまで蒼太とたんぽぽのおもしろおかしい実況に笑っていた級友たちは叩き起こされるように現実を直視せざるを得ない。

「ホント、マスコミしつこすぎ、昨日なんて二三時にインターフォン押してんのよ」

「知っての通りさ俺ん家、食堂やってんだけど、飯食った後に親父に巨大生物の取材敢行してきてさ、知らんから答えようがないとか言ったら不味い飯屋とか、後で腹壊したから保健所に訴えてやるとか暴言吐きやがった」

「従姉妹の家なんて堂々と家に入ろうとしたのよ、最悪」

 微々たる情報でも得らんとする姿勢が暴走した取材を誘発させていた。

「白花ちゃんも気をつけなさいよ。あんた、現場にいたんだし」

「ええ、もちろんです。その時はまた朱翔さんに助けてもらいますから」

「もうやだ、ノロケないでよ」

「ヒューヒュー」

 朱翔に向けて一斉に級友たちの冷やかしが飛ぶ。

 恒例行事みたいなものだと朱翔は割り切っているもこっ恥ずかしさは隠せない。

「助けたって大それたことはしてないよ」

 目線を逸らしながら朱翔は言ったことが級友たちから照れ隠しと思われていた。

 ただ最期まで寄り添おうとしただけだ。

 巨人となり巨大生物を倒したのはただの結果論だと思っている。

『蒼太、たんぽぽ、今日の放課後、白花の家に集合、ちょっと巨大生物絡みで大切な話がある』

 親友と信じるに値する友に、朱翔はARグラスを介してショートメールを送信する。

「さあ今度は左右のフェンスから侵入した亀二人が突撃だ!」

「見事な連携で鬼側を翻弄するも、ここで学校側が投入したのは侵入者迎撃用ドローン!」

「本来の用途は文字通り、侵入者に対する自衛手段! 侵入すれば使用すると事前告知は学校のサイトに掲載済み! バチバチ言わせる電撃波を放つなんとも物騒なものだぞ!」

「痺れるのは人妻との禁断の恋にしてくれ、ぐぼげ!」

「まじめにやれ!」

 第二の実況を行っていた蒼太とたんぽぽは揃って頷くも、蒼太に入った裏拳は見るからに痛そうであった。


「はぁはぁはぁ、しつこすぎだっての」

 放課後、校門をスタートラインに駆けだした朱翔は物陰に隠れて息を切らす。

 白花・蒼太・たんぽぽはマスコミ攪乱のために別行動中。

 退院してからマスコミの追跡に終わりが見えない。

 家の前で待ちかまえているのだから困ったもの。

 夜、帰宅した父親と母親の会話を偶然立ち聞きする。

 職場にまで押し掛け迷惑していると、何を知らぬ何も分からぬ息子の生活を脅かすなと怒り心頭の父親を母親が落ち着かせていた。

 また何らかの自衛策を水面下で行っているようだが詳細は分からぬまま。

『さっきから走ってばかり、この惑星の種は飛べないのか?』

「人が単独で飛べるわけねえだろう!」

 ARグラスにチャットが展開される。

 発信主は赤玉色の人型、いや巨人だ。

「そういう、ええっとお前は飛べるのかよ?」

『宇宙でなら』

「それ飛行じゃなくてただの推進! 一Gでの飛行能力とは別物!」

 地球には重力と雨風があるのだ。

 ただ無重力空間を推進力により移動する手段とは違う。

『お前とは心外だ。私は#&%$惑星の=&#%だ』

「ああもう、ここは日本だ! 日本語で喋れ!」

『この惑星のネットワークを通じてあらゆる言語を学習したつもりだが、どういうわけか私の出身惑星と名前が正しく言語変換されないとは困ったものだ』

「困っているのは俺の中にお前がいることだよ!」

 驚くべきことにこの名称変換不可の巨人は朱翔の肉体に憑依していた。

 正確には脳神経に憑依している。

 恐らく原因は一年前の落雷、巨大生物出現まで眠りについていた。

 誰が言ったか、人の感情は電気信号であると。

 巨人は肉体を持たず感情だけの存在故に朱翔の脳神経を仮住まいとしている。

 記憶喪失に陥った原因に間違いないが、この巨人も記憶喪失だから困りもの。

 どこら辺から来たのか、目的は何か、無断で朱翔に憑依した理由は記憶にございませんである。

 覚えているのは地球が何者かに狙われていること、協力を朱翔に要請していることだ。

 言葉は発せずともチャットを介してコミュニケーションがとれるのは幸いだが、自身が電気信号の存在だからか、ARグラスを介す必要がある。

「よし、今のうちに!」

 人の気配が遠ざかったの契機に朱翔は物陰から飛び出した。

 装着したARグラスからゲストキーを送信、受信した和風の門扉は自動で開き、勢い殺さず中へと駆け込んだ。

 背後から記者が追いかけてこようと扉は閉まり、ノックの音だけが無慈悲に響く。

「いらっしゃい、朱翔さん」

「悪い、ちょっと遅れ、ごがっ!」

「へいへい、俺様一〇点、ぐげっ!」

「はい、あたしが一〇点満点!」

 白花が朱翔を出迎えた途端、忍者のように堀の上を走る蒼太とたんぽぽが敷地内に飛び込んできた。

 着地点に誰がいるか未確認のままなのだから、朱翔は最初に蒼太と激突して倒れ、蒼太はたんぽぽの下敷きとなってしまう。

「「重い!」」

 下敷きとなった男二人はたんぽぽに抗議の声を上げる。

「空耳かしら?」

「「ハイソラミミデス!」」

 針のように鋭く細い殺気が男二人の心に刺さるなり、揃って萎縮した声を上げるのであった。

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