くものいと

第10話 「水の東京」（幸田露伴）

今自分がしている作業は、考えることが限られていて案外頭を使いませんからどなたでもできることだと思います。と言うのも、まず登場人物の設定（氏名や生い立ち、家族関係から仕事関係など）をしなくていいですし、題名も新たに考える必要がなく屁理屈をつけて元々の題名に似せたものにすればいいだけ、そして一番違うのは締め切りが無いことでしょうか。

本職の作家や脚本家はそれが職業ですから創作する苦しみはある意味仕方ないでしょうし、ある程度「慣れ」というものも出て来るでしょうし、何より元々天賦の才があってそういった職業に就いている訳ですから頭の作りが凡人とは違っているんだと思います。理路整然と、それこそ頭の中で自分が創作しているドラマの画面が流れているのではないでしょうか。

TVドラマなどの脚本家にとって番組が長寿になり、（３ヵ月や）半年のスパン（以後シーズンと言います）の番組を何年も続けるのは並大抵のことではないと思われます。勿論脚本家は何人もいて、ひとつのシーズンをそれぞれが数本書いている様ですがそれでもドラマは毎週作られている訳で、半年のスパンでも結局年間通して書き続けないと間に合わない様に思えます。売れっ子になれば同時に何本もの作品を手がけることもあると思いますし。

海外の長寿ドラマ（シーズンを重ねて10シーズン以上となる様な）と言えば、古くは「名犬ラッシー」がありましたが（シーズン19まで）、最近のものでは「クリミナル・マインド　FBI行動分析課」、「X‐ファイル」、「スーパーナチュラル」、「BONES」、「NCIS～ネイビー犯罪捜査班」、「グレイス・アナトミー」、「ER　緊急救命室」、「LAW&ORDER」、「CSI：科学捜査班」などが挙げられます。

対する日本の長寿ドラマを検索したのですが、何故か全くヒットせずに「国内」と条件を付けても何故か海外ドラマが出てくる始末でした。そんな中辛うじて出てくる番組名が、「相棒」と「科捜研の女」でした。「相棒」は「水谷豊」演じる「杉下右京」主演の刑事ドラマで、10月からシーズン18が始まりました。「科捜研の女」は「沢口靖子」演じる「榊マリコ」主演のサスペンスドラマで、今年シーズン19ですが、「開局60周年記念」で1年間の放映だそうです。

どれだけ脚本家が大変なのか、身をもって証明しようとすれば、例えば「相棒」の脚本家になったとしてみます。ストーリーは勿論最重要ですが、水谷豊さんを始めとしたレギュラーや準レギュラーの登場人物以外の、エピソードのゲスト出演者の名前付けが必要になります。自分の脚本としては水谷豊さんに二役をして貰い、それによるストーリーを組み立てて行こうと思いますので、水谷豊さんには「杉下右京」ともう一つの名前を宛がう必要があります。シーズン18にもなると今までゲストに様々な名前が使用されてきているものと思われます（ちなみに自分で調べた範囲では自分の苗字は2人ほどいた様です）が、さすがに「水谷豊」という名前は無いはずです。かと言ってそのままの名前ではドラマとしてはぶち壊しになってしまいそうです。「水上豊」と韻を踏んだ様な名前が浮かびましたがやはりどうかなと思えてしまいます。で、今回は「水野豊」あたりの遠からず近からずの名前が丁度良い様に思います。

折角二役をして貰うのですから、前後編の２話仕立てでドラマを制作しようと思い、まずはひょんなことからこの二人が出会うことから始まります。「水野」がどんな人間か全く分からない「右京」ですが、瓜二つ故に「水野」の言動にどんどん惹かれて行きます。しかし同時に「右京」の周りで奇怪な事件が起こり始め、次第に「水野」の存在を疑う様になります。と、ここまでが前編ですが、前編の前週に流す次回予告では「右京」に瓜二つの人物が現れることを予告し、前後編の２話構成であることを告知します。そして前編のタイトルは、

「二人の右京」

とし、視聴者の興味をそそります。後編では「水野」が犯人だと睨んだ「右京」がお得意の推理で「水野」を追い込んで行くのですが、後編予告のタイトルは、犯人「水野」とそれを追い詰める「右京」の対決をあからさまに表現して、

「水野と右京」

とします。あれ？思ったほど大変じゃない！？　作家・脚本家の頭の中を探りました。