ミイラ取りがミイラになった訳 ⑧


 はじめのうち、男が小学校の正門前で立っていることに、不審がる他人ひとはあまりいなかった。


 しかしそれが何日も続くと、怪しむ他人ひとが出てくるのは少なくない。


 堂々と立っているその姿は、誰かの迎えと思われていた男だが、よく見てみればこの何日もの間、誰かと帰るような様子もなく、どうやら児童の顔を一人ひとりじっくりと観察しているようだった。日が経つにつれ焦り始めた男の素振りに、周囲は不信感を抱き始める。


 ……実際、男は焦っていた。


 あの子がこの『世界』に存在するのならば、それに時間軸の同じような『世界』であるここならば多分、あの子は男が知るよりも成長した姿をしているだろう。

 

 八歳はとうに過ぎた。

 小学校に通っているはずだ。いや、もしかするとすでに中学生かもしれない。


 そして男は見てしまった。

 懐かしい建物。

 あの子の小さな手を引いて、二人で中を覗き込んだ小学校と寸分違わぬ古びた校舎。


 ランドセルを背負うようになったら、この小学校に通うんだろうなぁ。

 みてごらん。

 パパもこの小学校に通っていたんだ。


 この『世界』にも、男がもと居た場所に存在した馴染みある小学校が同じようにあると知った時に、男の思考は停止してしまったのかもしれない。


 きっとこの中に、あの子がいる。

 間違いない、今日こそは見つかるはず。


 れる気持ちで子どもを待つ。

 そのとき男は、肩に触れる手にハッとして身体が強張る。


 男の目の端に、警察官の姿があった。

 

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