ミイラ取りがミイラになった訳 ⑥
男は紹介された施設で寝起きするようになった。髪を切り、身なりを整えた。
身綺麗にしていなければならない、と思う。どこかの『世界』で、あの子が男を見かけたときに、それと分かるように。
それに……と、男は思う。
きっとあの子の傍には、彼女がいるに違いない……。
もう一度、あの子と彼女とやり直すのならば、身なりを整えておかねば。
簡単な仕事をして、賃金を貰う。
その簡単な仕事は、身体を使う大変なものが大半であった。賃金を貰うということは、決して楽なものなどないのだと、男は改めて思い知る。
まずは、以前よく着ていたような服を手に入れよう。あの二人が男の為に選んでくれたような。
そして、もう二度と同じ失敗を繰り返さないために気をつけることは……。
痩せ衰えてしまった身体に鞭を打つ。あの子と再び会う、それが男の原動力だった。
一日の終わりに、その日の分と手渡された硬貨と紙幣を見て、その少なさに力が抜けてゆく。
その時、男は気付く。
自身の掌の上にある違和感に。
目を凝らし、確かめる。
そしてここが、自分の元いた世界とは違うよく似た『並行世界』であると気付いた。
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