ミイラ取りがミイラになった訳 ⑤
男は発泡スチロールの容器を両手で抱えるように持つと、久しぶりの食事をひと口、無理矢理喉に流し込むようにして食べた。
やがてそれが男の呼吸と共に鼻腔を抜け、温かい味噌汁であることに遅ればせながら気がつき、胸の奥がギュッと掴まれたような、鈍いけれども何処か懐かしい痛みを感じる。
男は舌を少し火傷した。
ふと目の前にある両手の爪の、歪んで黒ずむその汚なさが急に気になり、それが自身の指先であることに思わず身震いする。
あちこちの『並行世界』を渡り歩くうち、あまりにもなり振り構わな過ぎるまま、ここまで来てしまったことに、そして当たり前ではあるが、時は過ぎているのだという事実に、今になって男は驚いていた。
男の頭の中は、一刻も早くあの子を探さなくてはならないという逸る気持ちで占められており、自身を気遣うことをすっかり失念していたのである。
この姿では、あの子を見つけた時に駆け寄ることも、ましてや抱きしめることも出来ない。
こんな姿を見て、あの子はどう思うだろう? 優しい子だから、きっと心配するはずだ。
男は、探し出すことしか考えていなかった自身を恥じた。
発泡スチロールの容器を抱えるようにして肩を震わせ笑う男を、周囲の人々は気の毒そうに見つめる。
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