第13話 勇者カゲロウ

「うおおおおおおおおおお!!!!!!」


 カゲロウはギルトにむかってまっすぐ突っ込んでいく。だが、ギルトの手刀によってすぐに首を切り裂かれてしまった。


 勇者カゲロウ、死亡──死因、手刀。


 たがすぐに蘇生すると、なおも止まらずむかっていく。次は腹部に蹴りを受けてしまった。


 勇者カゲロウ、死亡──死因、内蔵破裂。


 だがまだ止まらない。蘇生してギルトにパンチを喰らわせる。だがカゲロウの腕のほうが砕けてしまった。


 勇者カゲロウ、死亡──死因、大量出血。


 ギルトは呆れたような、うんざりしたような顔をする。


「お前を、お前たちを殺すのは簡単だ。だがこうも鬱陶しいと私の精神面に影響が出そうだ。もしかしてそれを狙っているのか?」


 ギルトはカゲロウの首を掴み上げると、口角を上げてつぶやいた。


「そこで私は、お前がもう復活したくないと思うようになるまで、凄惨に、残酷に殺し続けようと思う」


 その言葉ののち、ギルトはカゲロウを思い切り地面に叩きつけた。


 勇者カゲロウ、死亡──死因、体を強く打った。


「何度でも蘇るのだろう!?ならば何度でも殺してやる!貴様が嫌になるまでなぁ!」


 カゲロウは蘇生すると、笑みを浮かべてギルトを挑発した。


「ああ、何度でも蘇ってやるよ。お前が嫌になるまでな」


「……!貴様ああああ!!!」


 そこから始まったのは、殺戮であった。

 圧死、水死、焼死、斬死、病死、毒死、凍死、ありとあらゆる手段で命を奪われ、蘇るたびに死が訪れる。


「カゲロウ!俺も戦うぜ!」


 その光景を見てギガースも黙っていられず、大声を上げながら武器を作り出す。たがカゲロウはギガースを静止させる。


「手出しは無用だ。こんなやつ俺一人だけで十分だからな」


 そういった後すぐにカゲロウの頭が吹き飛ばされる。


「雑魚のくせに、よくもまあそんな大言壮語が吐けるものだ。だったら頑張って蘇り続けることだな。お前が蘇生しなくなったら、すぐに貴様の仲間も殺す!」


「…5回だ」

「なに?」

「あと5回以内の死で、お前を倒す」


 その言葉に、ギルトは顔を歪ませる。


「5回だと?はははは!面白い!やってみろ!ただし!その5回の死を超えたら貴様の仲間を殺す!」


 その言葉の後、ギルトはカゲロウの頭を貫く。


「1回!」


 カゲロウは蘇生するとギルトの後ろに回り込む。しかしギルトは背後に蹴りをしてカゲロウの胸を貫いた。


「2回!」


 カゲロウはまた蘇生すると、ギルトの口の中に果実を突っ込む。キリングの呪いのかけられた神樹『ア・レ』の果実だ。だがすぐにギルトは果実を吐き出すと、カゲロウの口に逆に突っ込む。


 カゲロウは呪いを受けて死んだ。


「3回!すでに死んでいる私に呪いなど効くか!」


 今度はギルトは自分のお腹の中に違和感を覚えた。


「まさか私の体内で蘇生するつもりか?無駄だ!」


 ギルトは体内に火球ファイアボールを放ってカゲロウを焼き尽くす。


「4回!さあもう後がないぞ!」


 カゲロウはギルトの真正面に蘇生する。それに対しギルトは何もせずカゲロウを見つめていた。


「うおおおおおおおおああ!!!!!!!!」


 カゲロウは大声をだしてギルトの胸を思い切り殴りつける。


 だがカゲロウの腕が砕け散るだけであった。大量に血を流しながらカゲロウは倒れる。


「5回……さあ、貴様の仲間を殺すとしよう」


 そう言ってギルトはじぇる達の方を見やる。


 そこには、ギガース達が巨大な弓をこちらに向けて引き絞っていた。今回はじぇるとアテナも加わっている。


「何をしているのだ……?この絶対防御の体には通用しないというのに」


「カゲロウ、そこだな?狙うのは今お前が『殴りつけた』場所だな!」


 ウィザーがそう言った後、弓矢は光のような速さでギルトへ向かっていく。


「そんなもの効かぬといつになったらわか……」


 ギルトがそんな言葉を言い終えるより早く、弓矢の一撃はギルトの体を貫いたのであった。


「なんだとおおおおおおおおお!!!!!!」


 ギルトの胸には大きな穴が開いていた。絶対防御の肉体にぽっかりと大きな穴が。


 そしてその穴の中に、蘇生したカゲロウは勢いよく手を突っ込んだ。


「ここだろ?お前の魂の場所?」

「なぜ……なぜ私の絶対防御が……!」

「俺は蘇生のたびに辺りの魔力を消費する。ほんのちょっとだけどな。そして俺は何度も死と蘇生を繰り返しながらお前の絶対防御を構成する魔力を奪っていった。お前の絶対防御を、仲間達が貫けるまでにな」


 カゲロウは突っ込んだ手に女神の力を込める。蘇生ができないよう、魂を縛る力。


「やめろおおおおおおおお!!!!!!!!」

「もう死んでるんだろ?さっさと……あの世に行きやがれ!」


 カゲロウがギルトの魂を握り潰す。それとともにギルトの体は光となって消えていった。


 魔王ギルト、死亡死因、勇者達の一撃。


 *


「……やったのか?」

「……ええ。ギルトの反応は消失しました」


 ウィザーとアテナはギルトの敗北を確認する。その時であった。


 急に魔王城が揺れ始めたのだ。


「まさか……崩れ始めている!?」

「クソ!俺たちも道連れにする気かよ!」

「カゲロウ!早く脱出を!」


 じぇるがカゲロウに呼びかけたその瞬間、

 カゲロウを大きなガレキが押しつぶした。


「カゲロウ!」

「まずい!早くガレキをどかさないと!」


 だがさらにガレキが降り注ぎ山のように積み重なっていく。


「クソ!これじゃ間に合わねえ!」


 その時、突然空間に穴が開くと、ものすごい勢いでじぇるたちを吸い込み始めた。


「な、なんですこれ!?」

「そんな!まだカゲロウがあの下にいるのに!カゲロウ!カゲロウーーー!!!!」


 穴はカゲロウ以外の全員を吸い込んで閉じてしまった。


 *


 じぇる達が吸い込まれた先はとあるダンジョンであった。そう、ワープゲートのあったデストラップダンジョンである。


 じぇる達の前に悪魔のリリムが羽を広げてパタパタと飛んでいた。


「いやーあんた達が魔王討伐したんだって?これで私もダンジョン管理なんていう陰気臭い仕事辞めることができるよ。ところでさー、こうして助けたんだから魔王亡き後の私の安全を保証してもらいたいっていうか……あれ?ところであのすぐに死ぬ勇者は?」


 皆は何も喋らず、ただ呆然としていた。


 *


 魔王亡き後も、人と魔族の争いは続いていた。世界各地にはまだ魔王軍が健在であったためだ。だが魔王がいないため統率が取れておらず、人間軍に押されているという。平和が訪れる日も近いだろう。


 そして、これはとある村の話。


「スライムだー!スライムが出たぞー!」

「勇者様だ!勇者様を呼べー!」


 その村ではスライム1匹の登場だけで大騒ぎになっていた。


「あ、あのー僕悪いスライムじゃないんで、人探しをしているだけなんで」


 そのスライム──じぇるは周りの騒ぎようにうろたえながらも、話をしようと試みる。


「あのー!はーなーしーをー!僕この村に勇者って呼ばれてる人がいると聞い……て……」


 そのとき、目の前に一人の男が現れた。


「スライムだって?なんということだ。とんでもなく強敵じゃないか」


 その男を目にして、じぇるは目に涙を浮かべる。


「……探してたんだよ。ウィザーも、システも、ギガースも、アテナも、みんな、君のことを」


「……俺もだよ。じぇる」


 その勇者は、名をカゲロウと言った。



「カゲロウー!!!!!!」

「ぶーーー!!!!!」


 じぇるが勢いよく胸に飛びかかり、カゲロウは胸を打って倒れてしまった。


 勇者カゲロウ、死亡──死因、肋骨が折れた。



 あまりに弱く、すぐに死ぬ勇者。だが誰にも負けない勇気を持っていた。人々は彼に尊敬と親しみを覚えながら、こう尋ねたのであった。


「勇者様なんですぐ死んでしまうん?」




 完

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勇者様なんですぐ死んでしまうん? ヒトデマン @Gazermen

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