第12話 『絶対防御』の大魔王
「よっこらせ」
カゲロウは蘇生すると、ガレキの中から起き上がる。そして辺りをキョロキョロと見渡してつぶやいた。
「あんなに居たアンデッドが消えている……どうやらみんなが上手くやってくれたみたいだな」
そうつぶやいた。その時であった。
「つううううううかまあああああえたあああああああ!!!!!!!!」
突如ガレキの下から、死んだはずのセレスが飛び出でてカゲロウの首を絞め始めたのだ。突然のことにカゲロウは声も出せず、振りほどくこともできず、肩越しにセレスを睨むことしかできなかった。
「なぜ生きている?って顔ね。私は
ここでカゲロウは女神の紋章による魂の封印がセレスに行われていなかったことに気づく。死してもなお油断できないのが魔王軍幹部の恐ろしさなのだ。
「あなたが死んでもすぐに蘇るっていう勇者様ね。殺しても死なないってんならその魂を壊してやるわ!」
カゲロウの首を掴むセレスの手から瘴気があふれ出る。
「さあ!死んでみなさい!そのとたん、瘴気があなたのむき出しの魂を食らうわ!」
カゲロウの首が折れそうになる寸前であった。その時。
「
「
「
弓矢が、斧が、魔法が、セレスの両腕と胴体を吹き飛ばしたのだ。それとともにカゲロウはセレスの手から解放される。
「うおおおおおおお!!!!!!!」
カゲロウはすぐに振り向くと女神の力を込めたパンチをセレスに叩きつける。
「せめて一人だけでもと思ったけど……まあいいわ。貴方達が魔王様に勝てるはずがないもの!」
セレスはそう言い残し、魂は天上へと還っていった。
「カゲロウー!」
上から声がするので見上げてみる。するとじぇる達がゆっくりと降りてきていた。
「ウィザー!システ!ギガース!また助けてくれたんだな!」
みんなは地面に降りたつと、笑みで返事を返した。
「さて、皆さん。気づいていますか?この禍々しい気配に」
アテナが真剣な表情でそういうと皆も顔をこわばらせた。
そして鉄でできた壁をみつめる。正確にはそれは壁ではなかった。あまりにも巨大な扉であったのだ。
「……いるんだな!この先に魔王が!」
「長……くもない旅だったね」
「ワープダンジョンで魔王城まですぐでしたからねぇ」
「へっ!向こうだって魔王軍幹部をいきなりぶつけてくるなんて真似してくれたんだ!これでおあいこってもんよ!」
そう言ってギガースは扉を蹴飛ばして開く。最後の戦いが始まろうとしていた。
*
「ギガントアックス!」
ギガースは巨大な斧を作り出すと黒衣の男に向かって振り下ろす。しかし男の二本の指でやすやすと受け止められてしまった。
「
そこに側面からウィザーが巨大な火の玉をぶつける。爆発が起こり、あたりは炎に包まれた。
「やれやれ……服が焼けてしまったではないか……」
炎の中から声とともに男が姿を表す。
青い肌に黒一色の目、銀色の髪をなびかせ頭からは二本のツノが生えていた。
その男こそ全ての魔族の長にして人類の敵、魔王ギルトであった。
「……まったく効いていない!」
システが冷や汗を流しながら呟く。
「そろそろこちらから行かせてもらおう」
ギルトがそういうと、地面から無数のトゲが飛び出しパーティーを襲った。皆はそれを飛んで避ける。
互いに一歩も譲らぬ死闘、そんななかカゲロウはというと。
隅っこで体育座りをしていた。
なにせこの戦い、あまりにも正統派な戦い過ぎてカゲロウの出番がないのだ。強者と強者のぶつかり合い。カゲロウにできることはなかった。
「ほ、ほら。カゲロウには不意をついて女神の力で魔王の魂を封じるって役目があるから」
じぇるはそう言ってなだめようとする。
「しかしあの魔王、チラチラこちらを見て警戒しているぞ。不意を突くのは不可能では?」
カゲロウは死んだような目でそんなことを言う。
カゲロウは歯痒く感じているのだ。ここまできて皆の役に立たないことに。
「気にするなよカゲロウ!ここまでお前はずっとみんなの役に立ってきてたさ!」
まるでカゲロウの心の中を読んでいるかのようにウィザーが答える。
「だから後は俺たちに!」
「まかせといてください!」
その言葉の後、ウィザーとシステとギガースは一箇所に集まる。そしてギガースは巨大な弓を作り出すとそれを思い切り引き絞った。そのギガースの手にウィザーとシステは手をそえ魔力と神力を注ぎ込む。
「くらえええええ!!!!!!!」
そして勢いよくギルトへと向かっていった。
「そんな見え見えの攻撃など食らうものか!」
ギルトはわずかに体をそらして攻撃を避ける。しかしその直後、ギルトは驚愕の表情をした。弓が軌道を変え再び自分の元へと向かってきていたのだ。
「まさかこの私に当たるまで動き続けるというのか!ならば!」
ギルトは弓の正面で構えて魔力のバリアを貼る。
「うおおおおおおおお!!!!!!!」
それを見たウィザーは大声を上げて合図を出した。
「今です!アテナ様!」
瞬間、上方からアテナが降りてきて、ギルトの背後から攻撃を仕掛けたのだ。そして持っていたのはそう。かすり傷でも命を奪う『死手の鎌』であった。
「これで終わりです!魔王!」
背中に鎌の突き刺さったギルトは体勢を崩す、そして弓が真正面からぶつかり、壁まで吹き飛んだのだった。
「か、勝った……」
アテナはそう安堵の息を吐く。その時、
「危ない!女神様!」
いきなりカゲロウが庇うように前に立ち塞がる。その直後カゲロウの胸に『死手の鎌』が突き刺さった。そしてカゲロウは崩れるように倒れてしまう。
勇者カゲロウ、死亡──死因、『死手の鎌』
「やれやれ……死んだと思わせて隙を狙ったのだがな」
魔王ギルトが、そこに立っていた。
「なぜ……『死手の鎌』は生きているものなら必ず殺すはず……まさか!」
アテナは先ほどの
「そう、私はすでに死んでいるのだよ」
ギルトは驚愕の事実を口にだす。
「キリングに『死』を、イルルガに『肉体』を、セレスに『魂』を、それぞれ研究させ、その結果私は永遠の生命を手に入れた。すでに死んでいるものを殺すことはできない。そうだろう?」
「だったらその体を動かないようにコナゴナにしてやるぜ!」
ギガースがギルトに向かって吠える。しかしギルトは「チッチッ」と指を振るとさらに話し続けた。
「ところでだが……なぜ君たちの勇者様には『スキル』がないと思うね?君たちより半年も遅れて召喚された理由は?」
「……キリングが何か妨害をしていたのでしょう?彼は召喚の神殿の場所を知っていたようですし」
「そう、その通りだ。事前にキリングに場所を調べさせ細工をさせたのだ。実はそやつにはスキルがちゃんとあったのだよ。『絶対防御』といってな。特殊な魔力によって、どんな攻撃も受け付けぬバリアを作り出すスキルだ」
「何故それを知って……まさか!」
魔王ギルトは自らのステータスを開示する。そこにはハッキリと記されていた。『絶対防御』と。
「奪ったのだよ。私がスキルを。そしてこの『絶対防御』のバリアで自らの肉体を構成することによって、死ぬこともなく、体も砕かれることはない。無敵の存在となったのだ」
「そんな……じゃあどうやって倒せば……」
システが青ざめた顔で呟く。みんなの心を絶望が支配していた。
「あきらめるな」
だが、ただ一人だけは絶望していなかった。
「この世界に絶対なんてものは存在しない。形あるものはいずれ滅ぶんだ。それはギルト、お前だって例外じゃない」
カゲロウは、まっすぐギルトを見てそういった。
「この勇者カゲロウが……ギルト!お前を倒す!」
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