第11話 デッドエンド

「アンデッドの数は……もう百体超えてるなこれ。」


 カゲロウは部屋の壁の出っ張りに手足をかけてアンデッド達から避難していた。すぐ下では大量のアンデッドがカゲロウを引き摺り下ろそうと手を伸ばしている。


 あれから何回もアンデッドに殺され、カゲロウの死体からどんどんアンデッドを作られてしまっていた。このままじゃ状況が悪くなると壁にしがみ付いて避難したものの、だからといって状況が好転するわけでもなかった。


「うう……ウィザーたち早く助けにきてくれないかな。」


 じぇるは壁に張り付きながらそんな泣き言を言う。

 カゲロウ由来のアンデッドは、なにせカゲロウから作られたのでじぇるに対しては全くの無害である。噛みつきは効かないし倒すのだって楽々だ。


 しかしアンデッドとはいえカゲロウ相手に攻撃するのは精神的に疲れるし、カゲロウを置いて逃げることもできない。だからこうしてカゲロウとともに仲間達の助けをまっているのだ。


「ウィザー達に頼りっぱなしになるのもダメだぞ、じぇる。なんとかして俺たちだけでもこの状況を乗り切る方法を考えつかなくては。」

「ていうかカゲロウ、カゲロウが蘇生しなきゃいいんじゃない?ずっと護符の中に引きこもってようよ!」

「いや、死んだらすぐに蘇生しないとこの城に満ちる魔力に魂を引っ張られて身も心もアンデッドになってしまうんだ。」

「うーん八方塞がり。」


 その時、カゲロウの指が限界に達し、カゲロウは壁から落っこちてしまう。


「あっ。」


 カゲロウはアンデッドの群れの中に落ちてしまった。無数の爪と牙が、カゲロウに襲いかかる。


 勇者カゲロウ、死亡──死因、喰われた。


「ああ……またアンデッドが増えちゃう……」


 じぇるの悲しげな悲鳴が響いた。


 *


「どりゃああああああああ!!!!!!!!」


 ギガースは大声はあげながら斧をふるい、モンスターアンデッドの四肢を切り裂いていく。さながらアンデッド達のなかに道ができていくようであった。


「クッソおおおおお!!!!こいつらキリがねぇ!」


 ギガースに疲れの色が見える。システの瞬間治癒は傷は治せるが疲労は回復できない。進みが遅れだしたウィザー達の後ろから、モンスター達が迫っていた。


「……ウィザー、システ、そしてアテナ様、今からお前たちをアンデッド方向へ投げ飛ばす。」

「ギガースさん!?何を!?」

「アンデッドとモンスター両方相手するよりかはアンデッドだけの方が楽だろ?モンスターたちはアンデッドに阻まれてお前たちを襲えない筈だ。」

「それじゃギガースさんは……せめて私だけでも残ります!」

「ダメだ!魔王を倒すにはお前の瞬間治癒が必要だ。なあに俺のことは気にすんな。この鍛え上げた筋肉で生き残ってみせるからよ。」


 ギガースは命を捨てる覚悟を決めている。そのとき、モンスターアンデッド達が急に大声で唸り始めた。


「まずい!ウィザー!早く準備を!」

「……ホイホイ命を捨てるような真似をするバカは一人で十分だよ。ギガース。」


 モンスターアンデッドが勢いよく突進してくる。


「クソ!お前たち俺の背に!」


 ギガースがシステ、ウィザーの盾となり立ちはだかる。


「来やがれ!アンデッドどもおおおおおお!!!!!」


 だが、


 モンスターアンデッド達はギガースを無視して後方のモンスター達へ向かっていった。


「……ひょ?」

「魔法、生命感知遮断を発動していたのさ。」


 とぼけた声を上げるギガースにウィザーがドヤ顔で解説をし始めた。


「戦いながら君が斬り伏せたアンデッドの体を分析していてね。そこで知ったアンデッドの行動原理は、『生きとし生けるものを襲え』つまり生命感知遮断で僕らの生命エネルギーを探知できないようにすれば……」


 ウィザーは後方をチラッと見る。そこではモンスターアンデッドとモンスター達が同士討ちを始めていた。


「モンスターアンデッド達は後ろからくる『生きた』モンスター達を襲い始める。さあ、先を急ごう。」


「……おまえなあ、ちゃんとそういうのあるなら言っといてくれよ。」

「カッコ良かったよ。ギガースの口上。」

「おいてめぇ!恥ずかしいだろうが!」


 ウィザー達は更に下へと向かっていった。


 *


 ウィザー達は階段を下りきり、大きな部屋の前に立っていた。


「墓所……と書いてあるね。モンスターアンデッド達はここから来たのかな?」

「カゲロウさんとじぇるちゃんの姿が見えませんがこの部屋でしょうか。」

「この部屋の中にカゲロウの反応を感じます。ですがこの反応はなんでしょう。濃いカゲロウの周りに無数のカゲロウがいるかのような反応が……」


 アテナがそんなことをいうと他のみんなは怪訝な顔をする。


「よくわかんねぇな。まあ扉を開けて確かめて……」


 ギガースがドアの取手に触れようとしたとき、


「……構えろ!」


 ドアが勢いよく開いて、なかから無数のアンデッドが飛び出してきた。一瞬にして辺りを埋め尽くしてしまう。


「これはカゲロウの死体!?……いや、アンデッドか!」


 まるで濁流のようにアンデッドが押し寄せ、ウィザー達は身動きが取れなくなってしまった。そのときアンデッドの上を飛び跳ねるようにじぇるがやってきた。体内にカゲロウを入れて守っている。


「ウィザー達!助けに来てくれたんだね!このアンデッド弱くて傷つきはしないんだけどいかんせん数が多すぎるよ!なんとかしてーー!今もカゲロウが死に続けてるからどんどん増えちゃう!」


 ウィザーはこの状況に冷や汗を浮かべる。アンデッド達に四方から噛み付かれているがダメージは受けない。素体がカゲロウだからである。


「どこ触れてるんですか!エッチ!」


 システのパンチでアンデッドの首が飛ぶ。それほどまでに弱い。だが、


「まずいぞ……このままでは……この大質量に押し潰されてしまう。」


 *


 とある部屋の中で、死霊術師ネクロマンサーのセレスは勝ち誇った笑みを浮かべる。


「すぐに死んでしまうというのが相手ならば、それを利用するのみ。」


 セレスはここまでの戦いにカゲロウの活躍があったと気づき、逆にカゲロウの性質を利用してこの状況を作り上げた。


「自分達の仲間の死体に押し潰されなさい。貴方達全員、私のアンデッドにしてあげる!」



 ウィザー達はカゲロウの海の中で、顔だけを出しながら作戦を話し合っていた。


「ファイアーボールで燃やせねえのか?」

「それでは私たちごと燃えてしまいます!」

「ねえウィザー!魔法障壁マジックシールドで守れないの?」

「ウィザーさんの魔力が尽きてしまった後が耐えられないのでは……」


 あーだこーだいっている仲間たちには目もくれず、ウィザーは静かに考える。アンデッドの増殖速度から考えるに、今カゲロウは生み出るアンデッドの重さに潰れ、蘇生すると同時に死ぬという状況になっているようだ。


 部屋の壁を壊して逃がれる場所を作ろうとしても、上を壊すのは生き埋めになるだけであり、横方向に空間を広げても少しの時間稼ぎにしかならない。

 壊すならば──下。


 その時、ウィザーは閃いた。


「アテナ様!カゲロウの位置は!?」

「ええと……そこら辺です!」


 アテナが光でカゲロウの場所を示す。どうやら床にいるようで、ほんのりと光が見えた。


「死亡と蘇生のサイクル!それをさらに加速させてやる!魔法発動、速度倍化!それも……千倍だ!」


 瞬間、ウィザーの魔法によりカゲロウの周りに莫大な数のアンデッドが生じた。アンデッド生成のサイクルは加速し、生み出たアンデッドは部屋を満たす前に周りの重さで潰され圧縮される。

 こうして生まれたアンデッドの大質量物体は、まず、


 下に落ち込んでいった。



 「なんなの……この魔力のうねりは!」


 セレスは狼狽する。急に現れた巨大質量により魔力が乱されたからだ。


「それにこの魔力のうねり……私のこの部屋まで向かって来ている!?」


 セレスは大広間のはるか下の墓所の、そのさらにはるか下に部屋を構えていた。アンデッド達を乗り越えてたどり着くには困難な道のりとなるはずだったのに。


 だが、アンデッドで作られた大質量物体は魔王城の構造を破壊しながらガレキとともにこちらに突き進んで来る。


「利用……された。私の術を……逆に。」


 部屋の天井にヒビがはいる。そしてまもなく、セレスは大質量物体とそれが生み出したガレキの下敷きとなった。


 セレスの生み出していたデッドは、終わりエンドを迎えた。


 死霊術師ネクロマンサーセレス、死亡──死因、圧死。

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