第10話 ドキドキ!ネクロマンス!

「……カゲロウどこまで落っこちてったんだ?」


 床に空いたカゲロウの形の穴をみながらギガースは呟く。穴はかなり深く、はるか下まで続いているようだった。


「うう……カゲロウには悪いことをした。僕がさっさと重力グラビディを解除していれば。」

「はるか下でカゲロウの生体反応を感じます。すでに蘇生済みのようですね。」

「大広間から下っていけばそのうち合流できるはずです。私たちも進みましょう。」

「ぼく、ひと足先にカゲロウのところへいくね!」


 じぇるは空いた穴ににゅるんと滑り込むと下に向かっていく。ウィザー達も階段を下って降りて行った。


 *


「イルルガは死んだみたいね。可哀想に。」


 薄暗い部屋で魔女が大きな鍋をかき回しながら呟いた。鍋の中身は紫色に妖しく輝いている。


「でも貴方の死は無駄にしないわ。貴方も、貴方のモンスターちゃんたちも、ちゃーんとその死体からだ、余すことなく活用してあげる。」


 魔女──死霊術師ネクロマンサーの女が鍋に液体を一滴垂らす。その途端、禍々しい魔力が魔王城へ満ちていった。


「この私、セレスがね。」


 *


「うーん、ここは……どこだ?」


 蘇生したカゲロウは辺りを見渡して呟いた。相当下まで落ちたようで、あたりは薄暗く、目を凝らさないと周りが見えない。


「ここは……墓地か?」


 よくみると辺りには大量のモンスターの死骸が転がっていた。白骨化したもの、腐乱したもの、まだ死んだばかりと思わしきもの、さまざまな死体が置いてあった。


「それにしてもみんなと離れてしまったな。早く合流しないと。」


 すると、上の方から聞き覚えのある声が響いてきた。


「カゲロウ〜〜〜〜〜〜〜〜」


 じぇるの声だ。自分を追いかけてきてくれたのか、一人だと心細かったのでとても嬉しいところだ。


「そこ!どいて!どいてーーーーー!!!!!」


 ──そういえば蘇生してから一歩も動いてなかった。


 じぇるが勢いよく地面にぶつかる。スライムの体はこのくらいでは崩れたりはしない。だが貧弱なボディをもつカゲロウのほうは──


 勇者カゲロウ、死亡──死因、弾性衝突。

 じぇる、経験値を1獲得。



「流石にここが墓地だからっていちいち死んでいられないな。」


 蘇生したカゲロウはそんなことをいいながら辺りみを見渡す。そのとき、とある違和感に気付いた。


「……なあじぇる。」

「ん?」

「俺が蘇生したあと、その前の死体って光になって消えるよな?」

「そうだけど……あれ?死体が残ってる?」


 なぜか潰されたあとのカゲロウの死体が未だに残っていた。


 そしてその死体の指先が、わずかにピクリと動いたのだった。


 *


「走れ走れ!急いで階段を降りるんだ!」


 アテナとシステを抱えたギガースとウィザーが階段を急いで降りている。


「クソ!なんなんだ!あのモンスターマスター、死んだはずじゃなかったのかよ!」


 なんと死んだはずのイルルガがモンスター達を引き連れて、ウィザー達を追ってきていた。


「いえ、たしかに死んでいます。あのものからは生気が感じ取れません。おそらくネクロマンサーの仕業です!この城に満ちる魔力が死体を動かしているのです!」


火球ファイアボール!」


 ウィザーの放った魔法がモンスターの頭を吹き飛ばす。しかし、死んだモンスターもすぐに起き上がって追跡を再開した。


「生きてるモンスターはモンスターマスターに操られる、死んでいてもネクロマンサーに操られる。全く隙がないね!」


「ウィザーさん!ギガースさん!前!」


 システがそう言い、二人は前を向き直す。すると階段の先から大量のアンデッド達が沸いて出てきたのだ。


「……こんな時カゲロウだったらなんていうかな?」

「そりゃあ、止まらず前へ進めって言うんじゃねえか?」


 ギガースがアテナとシステを下ろし、両手に斧を作り出す。


「四肢を切り落とせばゾンビも無力化できる!ウィザー!システ!援護は頼んだぜ!」


 ギガースはアンデッドの群れへ勢いよく突っ込んでいった。


 *


 魔王城の地下、カゲロウは目の前の光景に目を疑った。


「俺の死体が……アンデッドになってる!?」


 じぇるに潰された自身の死体が、こちらに緩慢な動作で向かってくる。低い唸り声を上げて威嚇をしている。


「こいつは……敵だ!」


 カゲロウはアンデッドの顔面に拳をぶつける。その拳は顔の上半分を吹き飛ばしたが、アンデッドは行動を止めず、カウンターのようにカゲロウの腕は噛み付いた。


「ぐぁ!痛い痛い!」

「カゲロウ!大丈夫!?くらえスライムタックル!」


 じぇるが噛みつくアンデッドに体当たりを喰らわせる。するとアンデッドはあっさりと吹き飛ばされ、地面にぶつかり砕け散った。


「さすがカゲロウ由来のアンデッド!倒すなんて楽勝だね!」

「ひでぇ言いよう。でも助けてくれてありがとうな。」

「どういたしま……カゲロウ!腕!」

「腕?」


 カゲロウは自身のかまれた腕を見る。するとかまれた部分から毒が広まっていた。


「この……アンデッド……毒を……」


 カゲロウの体に毒が周り、カゲロウは倒れ伏してしまった。


 勇者カゲロウ、死亡──死因、毒。


「ふっかーつ!」


 カゲロウはすぐに蘇生し立ち上がる。


「しかし、自分の死体のアンデッドなんて気味が悪いな。さっさと対処をしないと。」


 そう言ってじぇるの方を見て目を合わせようとする。しかしじぇるの目線は自分の少し横を向いていた。


「カゲロウ……横に、横に。」


 じぇるは呆然とした顔で自分のすぐ隣を見ている。

 自分の隣には、


 さっき毒で死んだばかりの自分がアンデッドと化してこちらを睨んでいた。


「うおおおおおおおおお!?」


 反応する間も無くアンデッドがカゲロウの首元に噛みつく。頸動脈が引き裂かれカゲロウは倒れ伏した。


 勇者カゲロウ、死亡──死因、頸動脈損傷。


 そして次の瞬間にはカゲロウの死体がアンデッドとして立ち上がるのであった。


「これ、もしかしてカゲロウが死ぬたびにどんどん増えてくの……?」


 一体最終的にどれほどまでの数となるのか、じぇるには想像もつかなかった。


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