第2話Cloud Murdering First MTG

 翌日、柳田巡査部長と佐伯巡査は、朝からカフェで一服していた。


「どうだ。昨日から考えはまとまったか? 落ち着いたか?

 一休みして整理もついただろう」

 柳田は清々しそうな顔でそう始めた。どうも昨日たどり着けたのは自身の成果だと思っている様だ。


「どうでしょう。昨日は面白い仮説にはたどり着いたと思います。

 ただ、どれも根拠がないのでまだまだ整理できる段階では……」

 佐伯ははっきりしいない返事でそう言う。


「何か引っかかるのか」柳田は少し気分を害したそうな風だ。


「いえ、ただちょっと気になる点がいくらか……」佐伯は濁らせた。


「とりあえず、言ってみろ。ダメなら思いっきしダメ出ししてやる」


 そう言って幾ばくか睨みを利かせているのをよそに、

 佐伯はそっとコーヒーを口元に運びながら、その動作の過程でコーヒーが波打つのを見つめていた。

 一口飲んで、佐伯は続けた。


「仮に、仮にですよ。昨日の我々の仮説が正しかったとして、やはり幾らか疑問は残るんですよね」


「例えば何だ?」


「そうですねぇ。確認になりますが、今回被害者は何らか櫓っぽい部分の土台の中から発見されたんですよね? それを前提に考えます。 例えば、結局誰も殺しているのを知らなかったとして、被害者はどうしてそんな櫓の下にいたんでしょうか? 誰も被害者を殺しているつもりなく被害者を殺させるのもこれはこれで難しいと思うんですよ」

 口に含んだコーヒーが苦かったのか砂糖を追加しながら、佐伯はそう言ってまた続けた。


「仮に犯人が被害者をそこに閉じ込めたのなら、結局犯人も現場に行って明らかに殺害に加担しているわけで、無意識の殺人で被害者を葬るのに成功していないんですよ。それを達成できていないならクラウドソーシングする必要はあまりないですからね。

 そう考えると、犯人は被害者を閉じ込めたのではなく、のだと思うんです」


「何のために、そんなところに閉じこもったんだ?」柳田は少しずつ佐伯の話に興味を持ち始めていた。


「不思議ですよね。ちょっと待ってください。今考えてみます」佐伯は目を閉じた。


「今考えるのか? 考えてきたんじゃな――」


「考え終わりました」柳田が問いただす前に佐伯は言い返した。


「お前は、俺をからかってるのか?」柳田がまた不機嫌になってしまった。


 佐伯はその問いを無視して考察した結果を話し始めた。

「今回の事件でやっかいなのは、誰も自分の行動を理解していない点にあると思うんです。恐らく参加者のほとんどは、自分の作業が何のためかも何も理解していなかったでしょう。ただただ金銭目的のために単純作業をしているだけだったと思うんですよ。そうじゃなきゃ、意味のわからない櫓や小さな小道具を無心に作れるはずがありません。今回の仕事は各々が全体像を共有されないまま敢えて細かく分割された作業をさせられているようでしたから自分の行動を理解するのは確かに難しいのですが」


「被害者も仕事の発注を受けたと言いたいのか」


「可能性の一つですよ。まだ被害者の身元は割れてないんですよね?」


「あぁ、まだだ。依頼を受けた人から被害者を割り出せるってことか?!」


「ですから、まだ可能性の一つです。何人か昨日の召集で来ていない人もいるという話でしたよね? そのうち返信すらなかった人とかいませんでしたか? とちょっと思ったまでです。それらのリストから被害者が割れたら面白いですね。失礼しました。話が逸れました」

 佐伯は座り直して、また話始める。


「私としては、まだもう一つ考えられる説があると思います。情報が足りないのでまだ望み薄ですけどね……

 それは被害者が普通にクラウドソーシング等は経由せずに納得してこの場所にいた可能性です」

佐伯はタイミングよくコーヒーを飲み干して歯切れ良くそう言った。


「そんなやついるわけないだろ。どんな奴がこんな山奥で櫓の土台の下にいることを進んでやるんだ? 」柳田は変な笑みを浮かべながらそう言った。


佐伯は柳田が笑い終わるのを見届けてから、今度は佐伯が微笑みながら小さい声でボソッと言った。


「簡単ですよ。

―― ですよ

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State of the Artistic Murder imstiparo @imstiparo

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