Sランク勇者のさえないおっさんに無能の烙印を押してパーティから追い出した美少女Fランク聖女とその仲間の末路は

陽乃優一(YoichiYH)

Sランク勇者のさえないおっさんに無能の烙印を押してパーティから追い出した美少女Fランク聖女とその仲間の末路は

「ジェイド、あなたみたいな無能はもう要らない。パーティからさっさと出ていきなさい!」

「えっ、いや、それは……」

「おう、出てけ出てけ。俺たちゃ、聖女サリーさえいれば十分なんだよ」

「ですな。高貴な魂を持つサリー殿のみが魔王を倒し、世界を平和に導くのです」


 勇者のジェイド、聖女のサリー、魔導士のロキ、僧侶のシンによって魔王討伐パーティが結成され、王都を出発してから約半年。魔王城までの道のりはまだ長いが、魔族による蹂躙から解放した地域は数知れず。ヒューマンだけのパーティではあったが、ビーストやエルフ、ドワーフなど、他種族の地域も次々と魔族の支配から取り戻した。世界樹を抱えるエルフの村を取り戻し、これからいよいよ魔族の本拠地に……というところでの、パーティ追放宣言であった。


「あなたのその地味で地味で地味すぎる活動は、パーティの足をひっぱるだけなのよ!」

「でもな、サリー。町や村の解放というのは、ただ魔族を追い出すだけではダメなんだ。特に、エルフのような閉鎖的な種族だと、有力者への根回しが……」

「それが地味で無意味だっつってんだろ、サリーは。いい加減、自覚しろよな」

「あの長老達の様子を見るのですな。解放は当然との見下した態度。我らを下僕か何かと勘違いしておる。魔族にはただ怯え、媚びていただけなのに」


 それは確かにその通りであり、しかも、エルフに限った話ではなかった。解放された途端に武装を始めて他種族を牽制するドワーフ、力任せに徒党を組んで紛争を仕掛けるビースト、軍隊を編成して支配を広げるヒューマン諸国。未だ魔族の驚異が消えぬうちから、醜い小競り合いを内外で繰り広げている。


「だからこそ、庶民の暮らしを守るため、安定した社会を……」

「庶民はメシがたらふく食えればいいんだよ。政治とか知ったことか」

「ジェイド、お主が有力者に根回しを行い権力争いを沈静化させた結果、庶民からの重税を再開した。これが、お主の言う安定した社会なのか?」

「わかった? あなたはただの無能なのよ。戦闘ではあってもなくてもいいような支援攻撃ばかり、戦いが終われば余計な暗躍。百害あって一利なしなのよ!」

「……」


 ジェイドは、何も言い返せなかった。パーティメンバーの言うことに納得したからではない。何を言っても理解してもらえない、その想いだけが心を満たしていた。


「……だが、このまま俺だけ王都に戻っても、連合軍を率いるヒューマンの王達が黙ってはいまい。意に沿わぬ行為とみなされ、お前達が反逆者として扱われることだって……」

「だーかーらー、その根回し根性がウゼえんだよ! おい、サリー、こいつこの村に閉じ込めようぜ? ウロチョロされちゃかなわねえ」

「それはいい。残念なエルフの長老もろとも、他の地域に害をなさないよう防ぐことにもなりますな」

「ああ、そうね。じゃあ、ジェイドはエルフ達と共に、この村から出られないようにするから」


 そう言って、サリーは結界魔法を発動する。止める間もなく発動した結界の光は、村全体を覆い尽くしていく。


「バカな! サリーは職業こそ聖女だが、そのレベルは初心者止まり、冒険者で言えばFランクの……な、なんだ、この魔力は!?」

「世界樹の葉っぱが取りたい放題なのよねえ。これ一枚で聖属性魔法を極大で発動可能なの。もちろん、聖女だけがなせる技よ!」

「ちなみに、俺は普通に魔法でエルフ共を村の境界から蹴散らしたがなー」

「吾輩は、外部からの侵入者を防ぎました。妙な盗賊が近くにいたものですからな」


 そうして、エルフの村全体を覆う結界が完成する。世界樹の葉が魔力の根源だったからだろうか、その世界樹自体も結界に大人しく収まった。


「それじゃあ、私達は魔王城への旅を再開するね。帰ってきたら結界は解いてあげるわ、王様曰くSランク勇者のジェイドさん」

「結界でもう聞こえないんじゃね? しかしあのジジイ、ぜってーボケてるよな。こんなんがSランクとか」

「ランクも根回しで獲得したのですかな。神に仕える僧侶にはできないことですな。なにしろ、根回しの相手は神になってしまいますからなあ」


 何やら笑いながら語る姿を最後に、サリー以下3名のパーティが、ジェイドを除いた魔王討伐パーティが、村の境界から遠ざかっていく。


「なぜ、こんなことに……! 俺がパーティでやってきたのは、剣による支援攻撃や根回しだけではない。旅の準備から道中の食事、各地の飲み屋や宿での情報収集、武器の手入れ、衛生管理……。いかん、このままではあの3人、魔王城どころか2つ、3つ先の地域に進攻したところで……!」


 どうやっても先に進めない、ぐんにゃりとした膜に手を押し付けながら、ジェイドは今後のパーティの末路を案じていた。



「はーい、みんなー。今日のお昼だよー」

「うまそー! おっし、いただきまーす。うお、マジうめえ!」

「サリー殿がこれほど料理が上手いとは、嬉しい誤算でしたな」

「あっ、シンってばひっどーい。ジェイドが野宿でさっさと携帯食出すから、披露する機会がなかっただけだよ。これでも私、聖女やる前は宿屋の看板娘だったんだから!」

「んまんまんまんま」

「ちょっと、ロキ、落ち着いて食べなさい。まだたくさんあるから」

「そうなのか! でも、なんでだ? 食料の在庫管理は、あのおっさんがやってたんだろ?」

「ああ、王都を出て最初に解放した町で、魔族のボスがアイテムバッグ落としていったのよ。何日かかけて封印を解いてみたら、その容量と機能が凄かった!」

「なるほど、無限収納と時間停止ですな。ということは、これまでの旅で討伐した魔物の素材を……」

「そゆこと。ジェイドが根回しに使うため日持ちのいい部所を取り分けて現金化していたけど、腐りやすい部分ほど美味いのよ」

「おかげで、今こうして美味しく頂くってわけか! もぐもぐもぐもぐ」

「だからロキ、ゆっくり食べてよく消化して。これから、魔族領の境界の砦を攻め落とすんだから!」



「我は、四天王の中でも最弱の……」

「世界樹の葉と暴発エンチャントの魔石を一緒に、えいっ」


 どごおおおおおおおおおおおおんっ


「……ごふっ。ば、バカな、我が最弱とはいえ、砦ごと崩壊させるなど……」

「いやだって、俺らサリーの結界で無傷だし」

「まさに世界樹の葉様々ですな」

「いやあ、無限収納はチートの代表よね!」

「それも、本来は四天王のひとりの……がくっ」

「あ、死んでもらっちゃ困るのよね。『グレイターヒール』!」

「な、なぜ……」

「なぜって、この周辺で生活している魔族を取りまとめてもらわないと」

「俺たちゃ、先を急ぐんだ。こんなところで根回しとかしねえからな、体制作りは勝手にやれ」

「魔族にも幼子や老人はいるのだろう? お主が責任をもって統治するのだ。我らではなく」

「戦力となる武器は全部もらうからね? 当たり前だけど」

「……」

「よーし、じゃあ次ね!」



 くぎゃー!


『な、なぜだ、なぜこんなゴミのようなヒューマン共に、神竜の我が……!?』

「私達をゴミ扱いしてる時点で、神とかおかしいよね。創造主たる神なら、ゴミとかいう感情もないんじゃない?」

「弱いやつを見つけて偉ぶりたいんじゃね? 自分は魔王に屈服させられたからってよー」

「絶大な力をもつ竜も、『反転』の法を極大発現させればこんなものですな。自ら吐く炎が氷槍に変わり、身の内に突き刺さるとは」

『うぬう、噂に聞く世界樹の葉を……!』

「ううん? 今回は葉っぱ使ってないよ」

『……なに?』

「ここに来るまでに食いまくった魔物のモツがよう、えらく魔力含んでたんだわ。いやー、今まで捨ててたのが悔やまれるわー」

『……そんな、ことで……ごふっ』

「こいつは死んだままでいいかな。魔族に屈服する前は、いろんな種族を快楽のために蹂躙していたみたいだし」

「だな。竜のレア素材がたんまりだぜ! それに、肉……じゅるり」

「今晩の野宿は御馳走ですな」



「しかし、魔法使いだけのパーティになって楽になったよなー。武器や装備の手入れや買い替えがほとんど要らねえ」

「だね。あ、私、マント新しくしたいんだけど、いいかな?」

「いいのではないですか。竜の鱗一枚で、最高級品が手に入るでしょう。ちょうど、魔族領にあるドワーフの町を解放したばかりですし」

「マントなら、ドワーフよりもエルフ産の方が良くね?」

「最高級品なんて要らないよ。『隠蔽』が付与されたものならそれに越したことはないんだけど」

「なぜですか? せっかく可愛らしい容姿ですのに」

「ありがと、シン。でも、魔王討伐パーティが変な目立ち方したらダメでしょ」

「だなー。俺も旅やってるうちは、彼女とか別にいいや」

「あら、私はお相手にならない?」

「俺はスレンダーがいいんだよ。ちびっ子なばいんばいんは……いや待て、その魔石から手を離せ」

「そういう意味では、マントはサイズを調整しなければなりませんな……サリー殿、詠唱を止めてもらえませんか」



「わー、温泉だー!」

「魔族領に、これほど見事な天然温泉があるとは……!」

「俺、いっちばーん! 『洗浄』魔法ばっかで飽きてたんだよ!」

「ロキが洗浄魔法得意だったなんてねえ。おかげで、宿とかない魔族領では助かってるけど……って、ここで服脱ぐな!」

「サリー殿はあちらの川の近くで足湯はいかがですか。衛生管理だけが温泉の醍醐味ではないですよ」

「うん、そうする。はー、ここだけは連れて・・・来たかった・・・・・かなー」

「言うな。もうすぐだろ」

「ですな」

「……そだね。って、素っ裸でこっち向くな! シンも!」



「くっくっく、よく来たな、勇者パーティよ」

「勇者は途中で置いてきたけどな。まあ、俺達だけで十分だ!」

「我らが三位一体攻撃、受けてみよ!」

「いくわよ、魔王!」


 ぼすっ

 どどどどどどどどどっ

 ごううううううううん……

 ぱーん


「無駄だ! 魔王たる我を貫くには……!」

「これよね?」


 ぶすっ


「ぐごあっ!? ……な、なぜ貴様、が、勇者の剣、を……」

「そりゃあ、置いていく前に勇者からかっぱらってアイテムバッグに入れておいたから?」

「あ、あり、得ぬ……それは、勇者、でなけれ、ば……」

「もしかして、勇者の紋章? いやあ、紋章の術式を解読するのは時間かかったわー」

「な……に、を……」

「そりゃあ、私は魔力が微々たるFランク聖女だけどね? 誰が、魔法スキルにも疎いって言ったかな?」

「サリー殿は最高峰の魔法スキル熟練者ですからな。魔力が微々たるものではロクに発動できませんが」

「他人に言われるとハラ立つなー」

「ジェイドに会ってから、ずっと研究してたよな、勇者の紋章。それもこれも……」

「こ、ここで変なこと言わないでよ!? とにかく、魔王、あんたはここで終わりね!」


 ずしゃあっ!

 さらさらさら……


「ふ……ふふ……何度、倒され、ようと、第二、第三の魔王が……」

「第二、第三、なんてないわよ?」

「……なに?」

「お主は、勇者ではなく聖女に倒された。数千年に及ぶ勇者と魔王の輪廻は、ここで断ち切られる」

「知って……いたのか……しかし、それは、神の……」

「神は関係ねえってよ。サリーに降臨したこの世界の女神がそう言ってたぜ」

「全ては、太古の魔族とヒューマンの権力者達が設定した茶番。神が世界に干渉できないことをいいことに、神の権能と偽って編み出した転生の秘法」

「次の転生は、女神の意思に沿った公平なものとなるはずよ。同じ魔族の村娘ってところかしら?」

「村娘……そ、うか……これで……」


 サアアアアアア……


「まあ、記憶もなくなるから、転生後にどんな人生を送るかはわからないけど」

「魂に染み付いた魔王根性が目覚めて、やっぱり世界征服を目論むとか?」

「もともと記憶がリセットされる勇者がそうだったようですからな。まあ、ジェイドのように、いい相手を見つけて……」

「……どうかな? さて、あなた達! 歯向かうなら相手になるわよ! 残りの世界樹の葉の魔力をふんだんに使った、終末魔法ラグナロクを発動させてもいいんだけど!」


 ぎゃーぎゃー……


「みんな城から逃げ出したな。ま、この城くらい残しといてもいいんじゃね?」

「遠くからでも瓦解する破壊エンチャントを仕掛けておけば問題ありませんな」

「そうだね。では、早速」



「さて、これからどうする? ヒューマンの国々の王達に討伐報告するつもりはさらさらないんだけど」

「領土拡大に付き合わされるか、権力争いに巻き込まれて殺されるかってところだしな。なあ、売れそうな素材分けてくれよ。金たっぷり持って、嫁探しだ!」

「吾輩も、故郷に残してきた家族の下に行きます。資金があるに越したことはありませぬので……」

「いいわよ! 城に残ってたアイテムバッグを人数分奪ったから、溜め込んだ素材やアイテムを4等分・・・するね!」

「うは、一生遊んで暮らしても余りまくるぜ! どっかの豪邸でも買うか!」

「故郷の神殿の立て直しができますな。あとは、各地に孤児院を……。サリー殿は、宿屋再建ですかな」

「そうだけど、その前に……」

「だな。頑張れよ!」

「健闘をお祈りします」

「うん……」



 魔王が討伐された。しかも、『勇者』パーティの快進撃の果てに。そんな噂が、世界中を駆け巡った……らしい。俺がその噂を知ったのは、討伐されて何日も経った頃で、既に世界は平和を取り戻して落ち着いていた。サリーによるエルフの村の結界がわずかに弱まり、村に近づいた者達との情報交換がしやすくなってからのことだった。それでも、俺は未だに村から出られない。自然が豊富であるから、存外快適な生活ができていたのだが。昔から染み付いていた目の下のクマが、すっかりなくなるほどに。


 しかし、信じられん。こういってはなんだが、あの3人、なまじ容姿は悪くなかったため周囲にちやほやされて、低い能力弱い戦力素人な思考お子ちゃま発想のまま戦場で食い潰されるだけだと思っていたのだが……。魔族領ではなんとかなったのだろうか? いや、それでも、四天王や魔王本人、そして、無数の魔物による軍勢をどうにかできるとは……。


 ぱあああああっ


「結界が……消えていく!?」


 情報交換のために村の境界の近くにいた俺は、結界が消えていく様子を見つめていた。これは、弱まったとか打ち破られたとかではない。術者が自ら解いたのだ。それじゃあ、本当に……!?


「相変わらず、他人の心配ばかりしてますって顔ね。これが勇者の魂ってことかしら?」

「サリー、無事だっか! ……他の2人は?」

「心配しなくても、たっぷりの財産を持って旅立っていったわ。ジェイド、あなたのおかげでね」

「俺の……? 俺は、エルフの村から出られず、ずっと……」

「王都を出て最初の町で手に入れたアイテムバッグ、あれは、ジェイドが魔族をあっという間に追い払ってくれたからこそだからね」


 アイテムバッグ……? サリーが面白がって弄んでいた、結局中身空っぽのアレが、なんだというのだ……?


「無限収納の可能性に気づかなかったあたり、やっぱり無能だったってことよね、他称Sランクの勇者様? それとも、そこがおかしな輪廻の影響だったのかしら?」

「なに……が……? なんの……」

「まあ、いいわ。私はあなたのそう言うお人好しのところ、嫌いじゃないのよ。それこそ、あなたが初めてウチの宿屋に泊まった時からね。あなたは、覚えていないだろうけど」


 宿屋に……? 確かに、国王に勇者の紋章を見出される前、俺は中堅の冒険者だった。旅をしながらの冒険だったから、無数の宿屋に寝泊まりしたが……。そういえば、出てきた料理がとんでもなく美味かった宿屋があった。それは、どこだったか……。


「力が発現する前に、私達は偶然出会った。それが、作られた運命にヒビを入れた。しばらくして神から啓示を受けた私は喜んだわ。これこそ運命だってね」

「運……命……」

「作られた勇者としては最低のあなただけど、宿屋の主人としては最高よね! 覚悟してよ? 私はあの時、あなたに一目惚れしちゃったんだから」

「……え? え?」

「さ、魔族領に行きましょ。いい温泉を見つけたのよ。あそこで宿屋の再建よ! 魔族を含めた、千客万来の最高の宿屋にするんだから!」


 そう言って俺の手を取るサリーの目は、俺にパーティ追放を言い渡した時よりもはるかに輝いていた。

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