お湯をかけて2分 悪人か幽霊どっちが恐い?
召喚した彼女。恋愛に疎い俺は何となくの感情で付き合っていく。
時間が流れ、ともに過ごす日々が続いていくと心の底から好きだという気持ちが芽生えていく。
一つ屋根の下で彼女とともに過ごす日々。
俺は早津のことが好きになっていた。
さらに半年が経ち、俺は結婚へと発展させるため一つの作戦を実行することにした。
遊園地プロジェクト────
そこで2人の仲を深め、薄暗い夜空と煌めく星々を背景にベンチに座りながらプロポーズをする。その後、観覧車で最高潮の気持ちのまま、その日を締めくくる。
期待が膨らむ。
その作戦の前の日。
俺は彼女と出会った頃のことを思い出す。
あの時は返されなかった答え。長い時間が彼女の口を緩めていて、今なら答えるだろう。
そう思って訊ねてみた。
「さっちゃんはなんで即席冷凍彼女になって
やはり長い年月が彼女の口を緩めていた。
「あなただけ教えてあげる。まず、ここへ来たのは逃げるため。次に、私は未来に飛んで来る前は……殺し屋。暗殺とかしてたの」
嘘だろ?
そう思ったが……
嘘をついた表情ではなかったし、その後嘘だという申し立てもなかった。
もし早津が犯罪者だったら────
その考えが俺を苦しめた。俺は早津が好き。だけど、早津は犯罪者。まだ決まった訳ではないけど、不安だけが募る。
深夜の闇に天井を眺めた。
早津のことを考えてくるうちに考えがまとまっていく。
例え好きな人が犯罪者でも、好きなことには変わらねぇ。考えるだけ無駄だ。と。
*
紅葉が落ち始める。人っけが減っていく。
日が昇っていく時はアトラクション一つに長く並んだが今では並ばずともすぐ入れる。
俺は目の前のアトラクションを見た。
お化け屋敷────
ここで俺が頼りがいある姿を見せれば……。計画によるところ、お化け屋敷から出てベンチに行って、そこで告白。その告白でのシチュエーションはさらに良くなるはずだ。
期待を膨らませて俺らは屋敷の中へと入っていく。
*
入ったのは夕暮れ時だった。
もうどれぐらい時間が経ったのだろうか。外は月夜と星々が美しいだろう。
夜と言えば幻想的な風景を思いま浮かべるだろう。その他にも、幽霊が出るというイメージもある。
俺は後者のイメージに少しずつ囚われ、恐怖心を増強させていた。
真っ暗闇が視覚を奪う。聴覚は自分と早津の足音だけを捉える。底にある恐怖が唾を枯らしたせいで味はない。屋敷から放たれる無臭に近い臭いが臭覚を閉ざす。
触覚は右手に握る早津の手だけが感じている。
半分は進んだがまだ早津は怖がる気配を見せない。俺も怖がる訳にはいかなかった。
お化け屋敷最大の山場はまだきてない。
その山場がいつくるかも分からない。
俺はそれに恐怖し叫ぶ訳にはいかなかった。早津の前でかっこ悪いところを見せられない。
ついに、山場がやってきた。
何も見えない暗闇の中、忍び寄る幽霊。足音はなく、近づいてくることに気付いていなかった。
そして、ついに幽霊が目の前に現れた。
白い布。異形の皮膚。長く伸びたストレートの髪。まさにサダコだ。
俺は思わず絶叫しかけた。ただ、横に早津がいることを早々に思い出して絶叫するに至らなかった。
早津の様子を見る。「大丈夫か?」と声をかけようと痩せ我慢で聞こうとした。
その時────
「うふ。好みの見た目。ツヤのある髪、整った顔……」
早津は歪んだ表情を浮かべているように見えた。殺意が周りに蔓延する。
「はぁぁ……。殺したいなぁ! 殺して人間標本にしたい、な」
溢れ出んばかりの殺意が目の前の幽霊を気絶させた。
幽霊と言っても、従業員が変装しているだけで普通の人間である。
俺は心の中で呟いた。
「幽霊を気絶させちゃ駄目でしょ……」
お湯をかけて約5分 即席冷凍彼女 りらるな @luna121
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