第九章 高階(2)
要岩のある
(急がなければ)
手綱を大きく上下させると、馬の速度が上がった。
ふいに、行く手を阻むように、五名の気配が生まれたのを感じる。
視界には映らない。この後、左に歪曲した道を進んで、その後、右に曲がった後にようやく見える人間達の気配だった。
(こんな時に…!)
馬車の行者席で、片桐はこれから起こりうる現象の対策について考える。
(相手が高階少尉だったならば、話し合いは無理だ。押し通るのが一番早いが、何人犠牲になるか…)
小隊は違えど、情はある。ましてや相手が初年兵であれば尚のこと。仲間内での戦闘は避けたかったし、今はそんなことをしている場合ではない。
それに、犠牲になるのがあちらばかりとは限らない。
和泉小槙の正体はよく分からないままだが、少なくとも遠野橘からは普通の人間の気配しかしない。
第一小隊が銃剣をこちらに向けた場合、展開によっては、遠野橘の命を危険に晒すことになる。
左に曲がる。
ぼやけていた気配が明瞭になり始める。
その中の一人に高階少尉がいることが分かり、片桐は落胆した。
(やむを得ん)
そう思いながら右へと曲がった後、ようやく視界の景色が、片桐が頭の中で認識していた情景に追い付いた。
行く手を阻むように山道を封鎖する兵士の姿が見える。
人数は五名。いずれも第一小隊の兵士で、その内二名は銃剣を構えていた。
押し通ることを諦めて、片桐は馬を止めると素早く行者席から降りた。
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