第八章 異変( 3 )
客間は八畳ほどの広さがあり、和泉小槇はその中央に敷かれた布団の上に座していた。
部屋の隅に雑然と置かれた
「二日酔いですか」
「貴官のせいだぞ」
恨みがましく和泉小槙が言ってくる。
「私は国外での飲酒を禁止されているというのに、貴官が勧めるから」
「途中から手酌で飲んでいましたよね」
「手酌?何のことだ…」
和泉小槙はそこまで言うと、片桐の隣に立つ野崎に視線を移した。
「部下か?」
「野崎であります。階級は軍曹」
野崎は
和泉小槙が、驚いたように瞳を二、三回大きく瞬かせる。
弁明のような声色で片桐が言う。
「…人手がいることになるかもしれないと思って連れてきました。それよりも、遠野橘少佐の方はよろしいのですか」
片桐は、自分の右腕に視線を落とす。
腕時計が示す時刻は午前七時五十七分。そろそろ待ち合わせの頃合いだった。しかし、片桐が心配しているのは遠野橘を一人待たせることではない。彼が、隣の部屋から出てこない、もっと言えば、隣の部屋の布団の上から動く様子がないことを心配していた。
「隣の部屋にいらっしゃるのですよね」
確認するように気配を探りながら和泉小槙に尋ねる。
「生きてるだろうが」
「かろうじて、というところでしょう…。これは」
「大丈夫だろう。さっき見に行った時は気絶してたが」
「薬はどうされたのですか。気配を感じませんが」
「空になっていた。大方、夜中に寝惚けて全部飲み尽くしたのだろう」
「それは大丈夫と言えるのですか」
眉を潜めて片桐が言うが、和泉小槙は取り合わない。
「脈はあったからな。それに様子を見に行ったところで出来ることはあまりない。この国には對素を補給出来る病院はないだろう?」
「それはそうかも知れませんが…」
「騒ぎ立てるのが最善ということもない。まあ、少佐は後で起こすとして、先に作戦会議をしよう」
「…ここで?」
片桐は顔をしかめる。
「だってそっちが秘密にしているのだろう?
和泉小槙は、片桐と野崎を交互に眺めた。
野崎には昨晩の出来事を詳細に伝えてはいなかった。単に遠藤が使い物にならないから、外部(天津人である。)に助けを求めると伝えただけだ。
「それはそうですが、ここではちょっと気が散ります。せめて布団と浴衣は何とかしてください」
「うん、分かった」
「我々は廊下にいますから」
「了解した」
和泉小槙はそう言って、布団の上から下りた。
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