第27話 パーシヴァルの手紙③

 親愛なるエマへ


 やぁ、元気で過ごしているだろうか。

 実は、前回の手紙(この手紙と一緒に届くのだろうけど!)に書いた島で大怪我をしてしまった。

 だから、『やっぱり』って言われそうだけれど大分帰るのが遅れそうだ。

 大怪我といっても、心配いらないよ。

 僕は三日程寝込んだみたいだったが、それから何日も介抱を受けて、随分回復して来ている。

 だからこうして手紙が書けているんだ。

 君はきっと何があったのか凄く知りたがるだろうから、僕はちゃんと説明をして安心させなくちゃならないね。

 でも、僕に起こった事はなかなか信じられないと思うから、まず、別の信じられない話をしようかな。ショック療法ってやつだよ。段々慣れるみたいな。


 僕はまたまた新種の生き物に出会った。

 シェルバードという名の生き物だ。

 ペンギンみたいなのだが、足が無くてアザラシの様に這って進む。可愛いから、君は絶対に気に入るぞ。僕は俄然気に入った。

 温厚で警戒心が無い。触れてもあまり嫌がらないし、気にもしていないみたいだ。

 薄いオレンジの虹彩の中に、黒い瞳孔が横線を引いている。光の加減で縦幅が変化する。

 変な目だろ? でも何を考えているのかわからなくて可愛いんだ。

 全体が茶色い羽毛で覆われている。腹は純白だ。羽毛は水鳥の羽と性質が良く似ているけれど、ふわふわしている。(可愛いんだ)

 全長は六十センチから一メートルくらい。胴回りは大体五十センチくらい。ハハハ、君のウェストくらいかな、もっと細いって怒りそうだけど、そんなもんだぜ。

 翼は―――手びれに近いけれど、訳ある拘りの為翼と記す―――十センチから十二センチくらい。

 くちばしは横幅があって、短い。四センチから六センチ。ミルキィグレイで、先端が優しいコーラル。口紅をしているみたいで、可愛いんだ。

 この生物は、島のシンボルでもあるマシラ岳の崖に生息している。

 崖は細かな段の海岸段丘になっている。

 でも、彼らは巣を白い物で作るんだ。だから崖は一面真っ白で、石灰棚みたいだよ。

 一段の高さはまちまちで、二十センチから一メートル五十センチ。幅は三十センチから七十センチ。

 五十センチ辺りまでは跳ね上がったりよじ登ったりするが、それ以上は無理みたいだ。

 そういう時は、段の無い斜面を登る。だから、段の端にはシェルバードの道がある。

 白い巣材は色々な所から見つけ、咥えて来る様子だ。

 白い石、石灰化した珊瑚、白い貝殻、アイボリの木片なんてのもあった。島にアイボリは生えていないから、海に漂っているのを見つけたか、アイボリの生息する島を知っているかだ。人間に伐採されまくっているから、その内彼らはアイボリで巣を飾れなくなるかもしれない。

 アイボリを運ぶ商船なんか、全部沈んでしまえばいい。 

 君はお気に入りの猫足のスツールを持ってたね。あれは確か、アイボリだっただろ?

 僕が帰る前に、隠しておかないといけないかもね。

 僕は彼らを想って、海に放り投げてしまうかも知れないから。

 それから、シェルバードは真珠も見つけてくる。

 お母様が君に遺した指輪に乗っかている、初恋みたいな粒と同じものだよ。

 島の男性達は、婚約の証にシェルバードの巣から真珠を採って、妻となる人へ贈るらしい。

 既婚の女性は、それを小さなお守り袋に入れて首から下げている。マリッジリングみたいなものかな。

 君は誰から指輪を……否、シェルバードの話に戻ろう。

 このシェルバードには不思議な習性がある。

 子供の歯を欲しがるんだ。歯が抜けそうな子供を察知できるそうだよ。

 そして子供に近寄ると、歯が抜けるまで遊び相手になるらしい。

 実際、歯が抜けそうなタロタロに付きまとって目を潤ませていた。

 島人達にはそういった子供時代があるから、シェルバードをとても大事に思っている様子だ。

 だから、彼らの生態についてほったらかしにしていた。

 ほったらかしにする! この、魅力的な生きものを!

 僕にはその気持ちが全く理解できない。けれど、僕みたいなのがいないから、この島はこの島のままでいられるのかも知れないな、と、思わないでもない。

 エマ、不思議だろう? 僕が童話でも書こうとしてるんだろうって、笑っているんだろうな。

 でもその方が、この島の事を信じてもらいやすいかも知れないな。

 どういう風でも良いから、この手紙を読んで想いを馳せてくれたら、僕は嬉しいよ。

 想いを馳せた先、そこに僕がいるよ。

 さぁ、じゃあ島の御伽噺を続けよう。 

 僕は上記のシェルバードの巣を探索していた。

 前回の手紙で紹介したフラミィが、そこで骨探しをしているんだ。

 骨は白いから、シェルバードの巣材に混ざっていないかと探している。

 ほら、また不思議だろう? 骨を探す少女。しかも、足の親指の骨だと言うんだ。

 君はホラー小説が好きだから、よからぬ推理をしそうだ。

 先に言っておくけど、フラミィは瑞々しく生きているぞ。脈もある。

 彼女は自分の骨を探しているんだと、僕は思っている。

 おそらくだが、彼女の足―――多分、左足だ―――の親指の骨には、欠陥がある。探しているという事は、もしかしたら、丸々存在しないのかも知れない。気を付けて見て見たら、フラミィの歩き方はほんの僅かにクセがあるんだ。歩き方のクセは皆あるものなんだが、フラミィの歩き方のクセは、左足を微かに庇って浮かせている。日常生活に支障はない様子だけど、この島は踊りを尊ぶ島だから、どうしても骨が欲しいんだろうな。とても健気に探していて、僕はなんだか切なくなる。

 必死で隠したがっているから、僕は知らないフリをしているんだけどね。

 そういう訳で、僕も一緒に骨を探していたんだ。

 もしかしたら、って思わせてくれるのが、この島の不思議で素晴らしいところだ。

 そして探索の最中に、驚く事が起こった。

 タロタロがシェルバードの巣を壊してしまったお詫びに自分の歯を与えると、シェルバードがタロタロの姿に化けたんだ。

 ああ、エマ。僕だって信じられない。

 タロタロに化けたシェルバードは、崖の棚を一っ跳びに海へ飛び込んで、スイスイと泳いだ後、他のシェルバードの祝福の音(地面に翼を打ち付けて、そりゃあ凄い騒ぎだったんだ)の中、空へと消えて行ったんだ。

 フラミィ達も、この事を知らなかったみたいだ。

 これも信じられるか?

 僕はハッキリと島人と自分が違う人種なのだと……いや、島と島の外は別の世界なのだと意識させられた。

 個性の違う二人の画家が全く同じ風景を描いた二枚の絵の、どちらか片方から片方へ迷い込んだ気分だ。

 今日までの調べでは、シェルバードに歯を与えると健康でいられるとか、いい夢が見られるとかそういう呪

まじな

いじみた事しかわからなかった。また何か分かったら頼まれなくても手紙を書くよ。


 さて、大分不思議な話に慣れて来た頃じゃないかな。

 唐突さにも慣れて来ただろう、だから唐突に尋ねるけど、エマ、君は神を信じる?

 僕は、島で神を見た。島を守る踊りの女神だ。なんと、老婆の姿をしているんだ。

 気性も荒そうで、なんというか、『野生』という言葉が似あう。

 何でも許して下さる僕達の神とは、大分イメージからかけ離れた神だった。

 なんだか、それが救いの様な気がする。そう思うって事は、やはり僕達の神も存在し、こうして気持ちを救って下さっているのだろうか。

 ああ、エマ。僕は神を見て、大怪我を負ったんだ。

 有り体に言うと、僕は島の神の神罰を受けてしまった。

 僕が島で何か罪を犯した訳ではないよ。その辺は、信頼してくれるよな?

 僕は、神罰を受ける人を庇って傷を負った。

 その人は気高い思想の持ち主で、罪を犯してしまった。

 した事の内容は卑劣だったと認めよう。彼女が傲慢だとも、認めよう。

 でも、庇った。

 女神は突如現れ、彼女の罪を島人皆の前で暴き、彼女を雷で打とうとした。

 そして、僕が代わりにその雷に打たれたという訳さ。身体が咄嗟に動いてしまったんだ。

 死ぬかと思ったよ。エマ!

 君の色んな顔が脳裏でシャッフルされて、チカチカ光った。

 僕は生きているから、どうか怒らないで欲しい。


 僕は、その人が正しいとか、間違っているとかはどうでも良かった。

 その人がどれだけの罪を犯していても、島中、世界中から白い目で見られたとしても、僕にとってはどうでも良かったんだ。

 その人が僕の事を余所者と蔑んで、冷たい目で見ても―――愛してくれなくても、それでも、どうでも良かったんだ。

 その人が舞台の上で仮面を取って笑んだ時のまま、僕の手を振り払い、頬をしたたかに打った時のまま、気高く瞳を燃やして島のルールを唱えた時のまま……その人が、そのまま存在するなら、僕は全部がどうでもいい。

 その人がお見舞いにやって来た時、僕の看病をしてくれた時、痛みで夜に目が覚め、目を開けるとその人の顔がある時……僕は、その人の身体の何処にも傷が無い事を、とても幸せに思う。


 この島の女神は言った。

 神様は愛する対象に条件をつけないと。条件なんて愛の前で無価値だ。

 僕の信じる神も、同じ様な事を言っていた気がする。


 ああ、文章がぐちゃぐちゃだ。


 なんというか、僕は満足しているんだ。


 ごめん、なんか今、凄く怒られているから、またもっと回復したら続きを書くよ。


 苛烈な程魅力的な御伽噺の島から

 パーシヴァルより

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