第43話トランプ大統領の決断

7月20日土曜日AM 11:00

 横田基地での戦闘の後、米軍の動きは無かった。

 開戦したものの、日本側に何の被害も与えられなかったアメリカは動けない。

 沢田と二階堂は首相官邸に戻っていた。沢田は革の上下を身に付けたままで、総理の執務室でステーキを食べている。何時でも飛び立てるように準備していた。


 安倍総理の元には、2日後に控えた国際電力会議への参加を求める韓国からの電話が掛かってくるが秘書止まりになっている。

 秘書は告知してあった条件を全て受け入れれば会談を持つと再度言った。


 アメリカ大統領、トランプ氏からの電話が入る。

 スピーカーに切り替えると、総理の周りに官房長官、二階堂が近寄る。

 トランプ大統領が言う。

「さっきは、ちょっと感情的になってたよ」

 安倍総理が答える。

「横田基地の方には日本側からも、おたくの管制区域は無くなったと伝えて有ったのですけどね、残念です。」

「ペンタゴンからの連絡が行き届いて無かったようなんだ・・・ミスター安倍。同盟国として、ひとつだけ教えて欲しい。日本の新しい兵器は何なんだ?」

「衛星から見てたんじゃないのか?」

「正直な話し、よく見えなかったんだ」

「そうだろうな。実を言うと、神が味方してくれてるんだ。日本は今、水素発電を広めて環境破壊を防ごうとしてる。それを後押ししてくれてるんだ。まあ、環境会議のテーブルにも着かない国には味方してくれないだろうけど」

「耳が痛いな。双方の為に考えた案だが聞いてくれ。まず、日米地位協定を撤廃し、基地内も日本の法律が及ぶ事とする。基地の経費はアメリカ側で負担する。管制空域は有事の場合以外は日本の管制に従う」

 総理官邸の面々は頷いている。

 安倍総理が言う。

「F35の件は?」

「完成機体20機を納入後、日本でアッセンブルと言う事で50機でどうだろうか?」

「50機か。F35のタイプはこっちで選ばせて貰うよ。ロッキードマーティンには、もう一度見積もりをお願いしたいね」

「分かった。そしてイージスアショアだが・・・」

「それは要らない。計画は白紙に戻す。完成後も試験等で経費が掛かりすぎる。なにより神が守ってくれているんでね」

 トランプ大統領が言う。

「仕方ないな。それと、ハイドロエナジー社だったかな。フィリピンに進出してるね。中国とフィリピンの蜜月を終わらせてくれるのは有難い。ひとつ相談なんだが、フィリピンのスービック元米海軍基地を復活させる様に動いて貰えないだろうか」

「それは自衛隊と共用になると言う事なら動いてみるが、だいぶ先になると思うよ」

「分かった。宜しく頼む」

「今の話の内容を文書で送って欲しい」

「いや、日本に行くよ。たしか日本時間で22日の午後に電力会議が有るようだが、そこにオブザーバーとして出席させて貰えないか? その会議の前に日米の新協定にサインしよう」

「只でさえ羽田は混みあうんだ。厚木を使ってくれるなら可能だが、ご自慢のビースト・リムジンの行列は止めて欲しいな」

「分かった。では後は事務方に連絡を任せるよ」


 電話は終わった。

 総理官邸は沸き立った。全て日本の勝利だった。



 フィリピン・マカティ。

 RCBCビルのハイドロエナジー事務所ではイザベルが忙しく動いていた。日本の本社からの応援が3人駆けつけている。何れも優秀な者だった。


 現地スタッフの人選には事欠かなかった。NBIの繋がりを最大限に使ってフィリピン人の優秀な人材が既に15人集まっていた。

 送電会社のNGCPでは中国人エンジニアを全て解雇し、新たなシステムが出来上がろうとしていた。イザベルはNGCPの役員にもなっている。

 

 フィリピンの優秀な人材は中国人とのハーフやクォーターが多い。不思議な事に、彼らは押し並べて中国を嫌っていた。フィリピン華僑のビジネスマンは中国企業を信じない。

 それはイザベルの動きを自由にさせた。


 イザベルの携帯が鳴る。日本の沢田からの電話だ。

「イザベル。元気でやってるか?」

「こっちは大丈夫。忙しすぎるけど。いきなりハイドロエナジー支社長とNGCPの役員でしょ。これからゼネコンとプラントの打ち合わせ」

「日本から行った3人はどう?」

「3人共違ったタイプの天才ね。1人は話す時に人の顔も見ないでボソボソ喋るんだけど、コンピューターを前にすると、どんな問題もあっという間に解決するの。 もう1人は数学と電気の天才。送電のロスを、電圧・電流とも、電線の素材と送電距離を聞くだけで即答して、交換する場合の素材毎のコストまで瞬間的に出てくるの。あとの1人はスーパーネゴシエーター。誰と何処で交渉しても、今のところ最終的にこっちの思うように事が進むの。見かけは愛想のいい、ただの小太りのオジサンなんだけど。あんな人達が日本に居たのね」

「満足して貰えたみたいだな」

「そう言えば、日本で戦闘が有ったって聞いたけど・・・もしかしてジュン?」

「まあ、ちょっと関わったけど、もう終わったよ。心配無い。セブの家は順調かな?」

「大工さん達が頑張ってるって。お母さんから毎日電話が有るの。私が社長になったって言ったら悲鳴を上げてた」

「そうか。頑張ってくれマイワイフ。月曜日に大きな会議が終わったら、次の日辺りにそっちに行けると思うからね」

「ジュンも頑張ってね。待ってる」



ワシントンDC

 ホワイトハウス内は訪日の準備で慌ただしかった。

 必ず2機で飛ぶ大統領専用機エアフォースワンのクルー達も準備に余念が無い。

 

 執務室ではトランプ大統領が日本政府と交わす調印書に目を落としていた。自分の任期中にアジアに於けるアメリカの覇権が崩されるのが我慢ならなかった。

 民主党からは軍縮の声が高かったが、こういう形での調印は民主党を押さえ込むのにも不利だった。

 唯一の救いは、国内の発電を水素発電に順次切り替える事で、環境会議の調印に応じられ、国際的な非難を浴びなくなる事だった。


 日本の上空にはNSAの衛星を張り付かせて有る。新たな防衛システムとは何なのか。それが一番気掛かりな事だった。

 

 オーバルルームのドアが開き、秘書がNSAからの電話だと大統領に告げた。

 北朝鮮からミサイルが2基発射され、それは能登半島沖50キロ地点で迎撃されたと言う知らせだった。

 イージス艦が迎撃に成功した訳では無い。日本側からはミサイルは発射されていなかった。

 



 

 

 

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