第42話横田基地

アメリカ時間

7月19日金曜日AM8:00

 執務室でトランプ大統領は補佐官と、翌週に国防長官に就任するエスパーと向かい合っていた。

 トランプ大統領がプリントアウトされた日本からのメールを机に叩きつけて言う。

「アベは狂ったのか!」

 エスパーが言う。

「NSAからの情報では北朝鮮からのミサイル3発を撃墜したのは日本に間違い有りません。我が国に秘密のうちに新たな防衛システムを開発したとしか思えません」

「ジャップにそんな事が出来るのか?」

「未だに未知の部分が多い国ですから」

「内容を読んだだろ。2週間以内に全ての基地を引き上げるか、引き続き駐留する場合は土地の使用料を含め、全ての経費を米国側が負担する。その場合でも米軍の管制空域は日本に返還する。 管制空域の返還は日本時間で7月20日AM9:00。ワシントン時間で7月19日PM7:00とする。そして日米地位協定を白紙にし、基地内にも日本の警察に捜査権を持たせる・・・空域を今日返還しろだと? 米軍は今まで日本を守ってやってたんだぞ!」

 補佐官が言う。

「第二次大戦後74年間で、こんな事を言ってくる日本を始めて見ますね」

 エスパーが言う。

「F35 の契約にも触れていますね。完成機体納入は20機のみで、30機は日本国内組み立てにし、他はキャンセルすると。ロッキードマーティンは8000ミリオンドル以上の売り上げを失います。イージスアショアもキャンセルです」

 トランプ大統領が言う。

「例の水素会社が絡んでると思わないか?」

 エスパーが答える。

「間違い無いです。他国のメジャーや、インド、中国とも契約を済ませていますので・・・中国がバックに付いていると厄介です」


 そこへCIA長官ハスペルから電話が入り、日本での国際電力会議の情報が伝えられた。

 トランプ大統領が言う。

「日本はエネルギーを力にして、他国が手を出せない国になると言う事なのか」

 エスパーも言う。

「だからアメリカの保護は要らないと。しかし、何かしらの防衛力は持った筈です。ミサイルを3基とも迎撃している」



7月20日土曜日AM8:00

 安倍総理はトランプ大統領からの電話を受けていた。通訳が経由する。

「ミスター安倍。あの通達は確かなのか?」

「文面の通りですよ」

「こっちが認めなかったら?」

「日本の力を知る事になりますね。戦後74年も経つのだから、そろそろ日本から手を引いて欲しい。日本は米国の植民地じゃないんだ」

「戦後、日本やドイツが経済的に発展してきたのはアメリカのお陰だったのを忘れて欲しくないね」

「一時は日本に抜かれて焦ったでしょう。今は地に落ちているが、これから日本は又、ナンバーワンへの道を進みますよ。『アメリカファースト』でしたか? まあ、頑張って下さい。日本は抜きで」

「アメリカの国力を分かっていないようだね」

 電話は切れた。


 横にはスピーカーフォンで会話を聞いていた二階堂と沢田がいた。

 2人は沢田のFJクルーザーで横田基地に向かって走った。

 

 AM 9:20。青森県の三沢基地を出た自衛隊のドローン(無人偵察機)が新潟上空3000メートルで南下していた。

 その辺りは高度約7000メートル迄を米軍が横田管制空域として独占していた。

 横田管制からの無線警告が始まる。


 沢田と二階堂は車の中で無線を傍受していた。車は横田基地南側の道路に止めてある。


 管制から空域を出ろと言う無線の指示が続くが、ドローンはそれを無視して更に高度を下げて南下する。


 横田管制の指示が響く。

 突然、自衛隊側の無線が入る。

「当該機は日本の空域を飛行中。米軍からの指示は控えられたい」

 横田管制からの返事は無い。

 滑走路から2機の米空軍F16がスクランブル発進して行く。


 沢田は車を降りて飛び立った。

 F16の上に位置どって着いていく。

 彼らには気づかれない。

 数分後に自衛隊のドローンを見つけ、2機のF16はドローンの後ろに位置した。横田基地に近づいている。

 数秒後、F16の一機からミサイルが発射された。沢田は念力を使い、ミサイルをドローン後方20メートルの位置で止めた。ドローンをミサイルが追跡する形になった。

 慌てたF16から更にミサイルが発射される。同様にドローンの後ろに並ばせた。

 合計4発のミサイルがドローンの後ろで並んだ時に横田基地上空に差し掛かった。

 沢田は念力でミサイルを基地に向ける。駐機していた輸送機とオスプレイ にミサイルを誘導する。

 高度500メートルで飛行していたドローンと沢田の後方で火の手が上がった。4発のミサイルを受けた輸送機とオスプレイは激しく炎上していた。

 ドローンを追っていた2機のF16 は基地に戻って行った。


 沢田は車に戻った。ドローンは三沢に戻る筈だ。

 車に戻った沢田に二階堂が言う。

「大きな爆発でしたね」

「輸送機とオスプレイが燃えてるよ。ミサイルを2発づつ食らったからね」

「スクランブルしてった2機は戻った様ですね。連中、ミサイルを発射した後で、無線で面白いように慌ててましたよ。『ミサイルが止まった!』って言って」

「俺も聞きたかったな」

「多分、自衛隊が録音してますよ」


 二階堂は総理官邸に連絡を入れた。

 数分後に安倍総理はトランプ大統領からの電話を受けていた。

 トランプ大統領の声が響く。

「横田基地で何をした!」

「横田管制空域は失効していますよ。前もって言ってあった筈です。基地内とは言え、日本国内でミサイル実験は止めて頂きたい」

「アメリカと戦争を始める気か?」

「日本政府はアメリカを同盟国だと思っています。しかし、アメリカは日本を植民地だと思っているようだ。それを是正しようとする事を拒むのなら、我が国は独立の為に戦いますよ」

「分かった。話し合いをしよう。米軍基地の予算負担増加額を調整しようと思うが・・・」

 安倍総理はトランプ大統領の言葉を遮って言う。

「分かっていないようだな。出て行くか、自費で行儀良くしていろと言っているんだ」

「誰に物を言ってるんだジャップ。叩き潰してやる!」

「開戦と言う意味だな?」

 電話が切られた。


 安倍総理は二階堂に電話する。

「二階堂君。横田基地の様子を見ててくれ。アメリカと開戦と言うことになったかも知れない」

「そうなりましたか。トランプ大統領をキレさせましたね?」

「三沢から自衛隊機をスクランブルさせて横田上空を通過させる。その反応次第だ」

「向こうが攻撃してきたらこっちからも攻撃ですね」

 

 二階堂に説明を受けた沢田は車の中で買ってきていたコンビニの弁当を食べて飛び立った。

 上空から横田基地の様子を見下ろす。動きが慌ただしい。消火活動だけでない。


 僅か20分後にF16が4機、スクランブル発進して行く。沢田は後を追った。

 高度4000メートルで南下中の2機の自衛隊機F15とすれ違う。

 米軍の4機のF16 が旋回し自衛隊機の後を追尾する。

 沢田はF16の上空にいる。

 米軍機は自衛隊機に警告を与えていた。自衛隊機も米軍機に警告を与える。

 約2分後に自衛隊機と同じ三沢基地から飛び立った米軍のF16が2機加わる。自衛隊2機、米軍6機の圧倒的に不利な状況だ。

 沢田は米軍機からの攻撃を待った。それまでは手を出さない。沢田にしても戦争を望む訳ではなかった。


 3分後に米軍機2機からミサイルが発射された。自衛隊機は急上昇する。

 沢田は念力で2発のミサイルを、発射したのとは別の米軍機2機に誘導した。

 爆発した2機のF16 は山の中に墜落して行った。

 更に三沢からの米軍機が自衛隊のF15を捉えてミサイルを発射した。

 再びミサイルは向きを変え、米軍のF16 の機体に吸い込まれる。爆発。

 米軍の残った3機のF16 は横田基地に接近する自衛隊機を追った。

 沢田は埼玉県入間市上空で3機のF16 の翼を光の玉で破壊した。

 コントロールを失った3機を横田基地に誘導する。1機はスクランブル体制を整えていたF16へ。他の1機はハンガーへ。残る1機は管制塔付近へ。

 3機共に乗員は脱出した。


 更に沢田は高度1000メートルから基地内に残る航空機を端から破壊した。

 人的被害が大きくならないように、人が逃げ終わるのを待ってやった。

 

 FJクルーザーに戻った沢田が言う。

「腹へったな」

 二階堂が笑った。


 NSAの衛星で沢田の姿は捉えられていた。それは高速で動く小さな光の点でしかなかった。



 地球の衛星軌道の外からミルキー神が沢田を見下ろしていた。

「派手に動き始めましたね。どうなる事やら・・・」


 



 

 

 


 

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