第40話フィリピン水素発電所
7月15日月曜日
水素分離技術の問い合わせが多くの国から来ていた。
原発を持たずに他国から電力を買っているイタリアを始め、オーストラリア、ノルウェー、デンマーク、オーストリア、ポーランド、ギリシャ、インドネシア等の反原発国。
原発を保持しているスペイン、スイス、ドイツ、カナダ、ロシア、韓国も特使を日本に送ると言ってくる。
流石にサウジアラビアからは何の打診も無い。
二階堂が言う。
「国毎に対応していたのでは限界が有ります。ウチの技術を必要としている国の代表を一堂に集めて、一斉に契約してはどうですか?」
矢部が言う。
「そうですね。エンジニアの派遣も無理になりますから、向こうのエンジニアに日本に来させて教えれば手間が省ける」
沢田が言う。
「世界中の国がウチと契約するようになるのか・・・発展途上国の中には100ミリオンって金が払えない国も有るよな」
二階堂が答える。
「そういう国には契約期間を短くして、半年とか3ヶ月の契約でいいんじゃないですか?1年分の契約金100ミリオンを分割で払う。或いは初年度は他国よりも安くする」
沢田が言う。
「送電設備が整ってない国だって有るだろ。電気の供給量によって契約金を変える事だって出来るよな。発展途上国こそ安い電力が必要だろ」
矢部が言う。
「手間が掛かるけど可能です」
二階堂が言う。
「最終的には世界中に広まるでしょうが、今はCO2の削減も考えて、電力の使用量が多い国から水素発電を広めるのが正解だと思いますが」
矢部が頷いて言う。
「確かに。金も持ってる」
沢田が言う。
「金はウチにも十分に有るけどな」
7月16日火曜日
イザベルは昨日からマニラに来ていた。ハイドロエナジーからの依頼でマニラ近郊の国有地を廻っている。
水素発電所の候補地探しだ。
沢田もマニラに行くと言ったが候補地が数ヵ所に絞られてからと言うことで却下された。
イザベルにはNBIの元同僚と数人の役人が付いていた。
昨日から6ヶ所を訪れ、候補地は2ヶ所に絞られた。マニラ北側のカロオカンと南側のカビテだった。どちらも2ヘクタール以上の広さがあり、小規模の発電所には十分だった。
午後3時になりハイドロエナジーに電話を入れ、矢部に候補地が2ヶ所に絞られた事を伝える。
候補地はどちらもショッピングモールをひとつ含めた2万世帯以上を対象と出来る場所だった。
沢田が電話を代わった。
「ハニー。どっちがいいと思う?感覚的な印象でもいいんだ」
「どっちも人口は爆発的に増えてるの。先々、規模を大きくする事を考えるとカビテかな。カロオカンは2ヘクタールだけど、カビテは3ヘクタール近く有るから」
「じゃあ、そっちでいいんじゃないか? これからそっちに行くよ。支社の設立はどうなってる?」
沢田は横で聞いている矢部と二階堂を見た。2人共、仕方ないと言う顔をしている。
イザベルが言う。
「フィリピン支社は大統領のお陰で設立は完了してます。マカティのRCBC プラザビルの一フロアで登記出来てます」
「じゃあ、マカティに行こうか?」
「カビテの土地を見て欲しいの」
「分かった。カビテの何処にいる? 2時間後位に」
「2時間後だったらカビテのモリノって言う所にあるSMモールで待ってます」
フィリピンでの支社登記は矢部の息子、雄二がフィリピンの法律等を調べて会社設立を進めていた。
ドゥテルテ大統領のお陰で、全ての書類が即日に受理され登記が完了していた。
支社の場所はフィリピンビジネスの中心地、マカティの一等地のビルに1フロアを借りていた。
ハイドロエナジー社内での用地買収の打ち合わせを終えて、沢田はフィリピンへと飛んだ。
二階堂から受け取った衛星を使うスマホで、SMモリノを地図にポイントしている。
土地探しの一行はモール内のKFCで沢田を待っていた。
沢田は午後4時半に到着し、彼らと合流した。
何処から来たのかと不思議がる政府の役人にマニラからだと答える。
空腹の沢田の為にイザベルはフライドチキンを買ってあった。
沢田は全員にハイドロエナジーの副社長だと紹介された。
沢田を交えて、改めてカビテとアラバンの間に広がる3ヘクタール近い土地を訪れた。
イザベルが言う。
「ここからなら、カビテのモリノエリアでもアラバンでも送電出来ます。アラバンには高級住宅やコンドミニアムも沢山出来てます。モリノは一般住宅がメインです」
沢田が言う。
「どっちに供給するにしろ、いい場所だな。平坦で整地にも手間が掛からない」
役人が沢田に言う。
「ここの面積は約28000平米で、公共事業の為の払い下げと言う事で、平米単価が約2000ペソで、通常の4分の1以下です」
「総額で幾らだ?」
「丁度1ミリオンUSドルでと言うことです」
「分かった。取り引き成立だ」
マカティ、RCBCプラザビル。
46階建ての39階から沢田とイザベルは下を見下ろしていた。
立ち並ぶビルの先には、夕方のスラム街が広がる。
フロアを見渡す。39階のフロアは約1400平米で12に仕切られていた。2人は一番広い部屋にいる。広さは約600平米。
イザベルが言う。
「ここが私達の会社?」
「そうだよ。今は何も無いけど直ぐに大勢の人が動き廻る場所になるよ。頑張れよ、社長」
イザベルは『ハイドロエナジー・フィリピン』の社長になっていた。
沢田から連絡を受けたハイドロエナジー本社では、沢田と矢部が日本酒で祝っていた。
予想外の安値で用地買収に成功し、オフィスビルもフィリピンで最高の場所に家賃1000万円で借りることが出来た。
全て大統領の力添えのお陰だった。
発電所の建設はフィリピンのゼネコンに発注する。今後の事を考えてだ。
日本側で設計図面を完成させてフィリピンに送る。工事の開始と共に日本からも、現場監督を送りこむ手筈になった。
その後、2日間をフィリピンで過ごした沢田は日本に向かって飛んだ。
マカティのオフィスには机やキャビネット等のオフィス用品が、20人分揃えられ、応接室も用意が出来た。
当面は日本のハイドロエナジーから社員が出向し、徐々にフィリピン人スタッフを増やしていく計画だ。
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