第34話交渉成立
7月1日月曜日AM 10:00
BPとシェルの交渉団がホテルの会議室に揃っていた。BPのボディガードはMI6のメンバーのようだ。沢田がホテルのロビーでテイラーを見かけていた。
交渉のメンバーは警備を除いて全部で18人になった。
ヨーロッパ経済界を代表するような顔ぶれの前で、ジェーンは堂々と役割をこなした。プレゼンテーションの内容はトタルにしたものと全く同じだった。
契約は問題無く終了した。
沢田とジェーンの帰国に合わせて、両社からもエンジニアが来日する事になった。
トタルのエンジニアと合わせて3社の6人を引き連れての帰国になる。
ジェーンがJALで帰国する予定だと言ったが、シェルのCEOがプライベートジェットを出す事になった。
乗客定員は8人だと言うので、エンジニア6人と沢田、ジェーンで丁度の人数だ。トタル社にはBPから連絡する事になる。
日本の企業の様に無駄な会議で時間を捨てずに、トップの決断でダイナミックに動く石油メジャーに、沢田は再び感動した。
部屋に帰った沢田に、『イブ・サンローラン』の身体にピッタリのスーツが、届けられた。
7月2日火曜日AM10:00
沢田とジェーンはエンジニア6人と共にシェルの所有するプライベートジェット『ボンバルディア・グローバル6000』の客席に座り、上空12000メートルを飛んでいた。
民間旅客機の様に空港での待ち時間が無いのがいい。
沢田は美人のCA 2人を見てご機嫌だった。シェル社のホタテ貝のマークが胸に着いたブラウスを、彼女らの胸の膨らみが押し上げている。ミニスカートから伸びる足も見飽きない。
一行を乗せたジェット機は、パリのシャルル・ドゴール空港を午前8時半に飛び立った後、バンコクに給油で立ち寄り、羽田へと向かう。到着は同日の午前10時の予定だ。
バンコク到着前に食事のサービスが有った。牛ヒレのステーキ、フォアグラ添えは、舌の肥えた男達を唸らせる肉質だった。ワインも高級な物を取り揃えて有った。
ジェーンの監視下にある沢田はワインを3杯で止められて、不満を顔に出していた。
発着枠に余裕の無い羽田空港に、日本政府の圧力で特別枠で到着したプライベートジェットから降りた6人のエンジニア達は、JIAの迎えのアルファード2台に分乗して帝国ホテルへと向かった。
前後をJIA のクラウンが守る。
本来ならハイドロエナジー社が行うべき送迎だが、3社との契約が完了すれば、日本政府にはハイドロエナジーから法人税として約60億円が見込めたのだ。しかも、それは毎年増額して続く。
政府にとっては送迎くらい安い物だった。
エンジニアの日本滞在は2日間で、その間はジェーンが通訳で同行する。
JAREの各プラントにはハイドロエナジーのエンジニアが居り、JIAメンバーが一行の警護に当たるので沢田は解放される。
羽田からの車列の後ろを走るクラウンの後部座席に、沢田は二階堂と2人で座った。
沢田は羽田から直接帰りたかったのだが、二階堂が話を聞きたいと言うので、仕方無く帝国ホテルまで付き合っている。
二階堂が聞く。
「パリはどうでした?」
「うーん・・・街は綺麗だったな。古い部分と新しい部分が極端だけど。自由の女神は小さかったよ。食事は何処に行っても皿がデカイ」
「あの、仕事の方ですけど」
「上手く行ったよ。トラブルも有ったけど。二階堂にも迷惑かけたな。警察にマクロン大統領が俺を釈放しろって電話してきたみたいで刑事か焦ってたのは面白かったな。これ、マクロンさんからのプレゼントなんだよ」
沢田は着ているスーツを指差した。
「道理で立派な服だと思いました」
「着ていったスーツは穴だらけにされたから捨ててきたよ」
「まあ、沢田さんに行って貰ったのは正解でしたね」
「2日くらいゆっくりしたらセブに行ってくるけど、いいよな?」
「エンジニアの見学も2日間ですから大丈夫だと思いますよ」
「分かった。じゃ、ここで降りていいか?」
「直ぐに帝国ホテルですよ。5分待って下さい。飛んで帰るんですか?」
「そうだよ」
「折角のスーツが台無しになりますよ。自分も茂原の社に行きますから、一緒に行きましょう」
「まずは家に帰ってからだ」
「分かりました」
沢田と二階堂は帝国ホテル経由で山武市の沢田の家に到着し、シロを引き取った。
隣家には前と同じに封筒に入れた3万円を渡す。
リビングの片隅で肉を食べながらシロが言う。
「もう、暫くは何処にも行かないよね?」
「それがな・・・一寸したら又出掛けなきゃならないんだ」
「明日は居るよね」
「ああ、2日位は居るから一緒に走ろうな」
「しょうがないな」
二階堂が笑いながら沢田に言う。
「犬と話してるみたいですね」
「こいつとは話が出来るんだよ」
二階堂がシロを見つめて言う。
「言葉が分かるのか?」
シロが二階堂を見る。
「ワン!」
「3回吠えてみて」
「ワン、ワン、ワン(バカにするな)」
沢田が言う。
「バカにするなって言ってるよ」
シロを家で留守番させ、沢田と二階堂は茂原のハイドロエナジーに向かった。
午後2時の社内には活気が満ちていた。裏手の新社屋は完成し、千葉県と茨城県の中小の水素発電所へと水素を供給している。
沢田と二階堂は事務所に入った。
矢部が2人に歩み寄って抱き合う。
満面の笑みで矢部が言う。
「お疲れまでした。別の国の3社と一気に契約なんて凄い!」
二階堂が言う。
「それだけ凄い発明だと言う事ですね」
沢田が言う
「上手く行って良かったよ。エンジニア連中がプラントを見て回るから、JARE に行ってるウチのエンジニアにも言っておいて下さいね」
「大丈夫ですよ。3ヶ所のプラントに今のところ4人づつ行ってます。週末には2人に減らしてもやっていけますけど」
二階堂が言う。
「出来上がった3ヶ所が順調なんで、今は別の5ヶ所で水素への転換工事が始まってますよ」
沢田が二階堂に言う。
「流石、役員!しっかりやってるね」
二階堂が頭を掻く。
「茶化さないで下さい」
二階堂は裏の新社屋であるプラントを見に行った。
残った矢部が沢田に言う。
「私達の給料なんですけど」
「ああ、給料ね。上げてもいいんじゃない?」
「今のところ、私と沢田さんの給料って言うか役員報酬が月額30万円なんですけど・・・」
「100倍の3000万円にするか」
机で書類を書き始めていた矢部の息子、雄二が言う。
「個人所得がそんなに高額になると所得税が大変です。役員報酬は抑えて必要な物は会社の経費で買うようにすれば節税出来ます。法人税は個人の所得税よりずっと安いですから」
矢部は頷くが沢田が言う。
「いいんだよ。税金はどんどん払えばいい。日本政府が後押ししてくれるのも税収が増えるからだろ」
結局、2人の役員報酬は月額1000万円となった。雄二が渋々認めた金額だった。
役員である、妻の房江と雄二の報酬は二階堂と同額の年間1000万円になった。
雄二が母親の房江に給料の額を伝えると、房江は聞き間違えかと思い、2回聞き返して言った。
「私の給料が1000万円!50を過ぎた私がそんな給料を貰えるなんて・・・」
房江はパリ土産のルイ・ヴィトンを抱えてクルリとまわった。
全社員の給料も基本給を一律で50%上げる事になった。沢田は倍にすればいいと言ったが、雄二の『徐々に』という言葉に従った。
沢田と矢部、二階堂の3人は従業員寮の建設の話に没頭した。
独身者も結婚後の事を考え、一戸あたり80平米の3LDK が60戸入る建物を2棟作る事になった。
1フロア8戸の8階建だ。1階に管理人室を置き、最上階の矢部のユニットと別棟の1階の沢田のユニットは広く作る。地下1階には150人を収用出来るシェルターをそれぞれの棟に作る。
敷地内に別棟で独自の水素発電所を作り、2棟の電力を全て賄う。
耐震は勿論の事、防犯システムも完璧な物にする。
二階堂の試算で、発電所の棟も含めて、建設だけで約250億円が掛かると言う。
候補地は茂原市を通るJR外房線の西側。閉鎖したゴルフ場を買収出来る事になっていた。
第3セクターが事業に失敗した物件だった。
20ヘクタールの整備された土地が20億円で手に入る。平米あたりで計算すると1万円だった。1坪で約33000円。
18ホール有るコースの半分を従業員の余暇の為に残す。2棟の建物と発電所、ヘリポートを作るのに充分過ぎる広さだった。
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