第25話名画返還
6月20日木曜日PM3:15
定刻より多少早くJAL 機は成田空港に到着し、早川は東西電力の自社の車の出迎えで帰り、矢部はハイドロエナジーの社員の迎えで帰った。
沢田は話があると二階堂に言われ、ジェーンを含めた3人でJIA の迎えのアルファードで東京へと戻って行った。
二階堂が並んで座る沢田に言う。
「衆議院議員の海堂邸の地下に有った絵なんですけど」
「絵?・・・そんなもん有ったか?」
「沢田さんはあの状況で気が付かなかったと思いますが、盗まれて闇のオークションで売られたと思われている名画が見つかったんです」
「そんな凄い絵が有ったのか」
「そうなんです。で、それを美術館に返却するのに、実際に取り返した沢田さんとジェーンに行って欲しいのですが」
「ふーん、いいよ。これからか?」
「いや、日本ではなくフランスなんです」
沢田はシートから身体を浮かせて二階堂を見た。
「やだよ。遠いじゃないか。言葉も分からないし」
「ジェーンがいますから」
沢田は考えた。
『ジェーンと2人でフランス・・・』
ジェーンの完璧な水着姿を思い出していた。
二階堂が更に言う。
「フランスは原発大国なんです。核廃棄物の処理で悩んでいる今、水素を売り込むタイミングとしては最高です」
ジェーンの水着の胸元を思い浮かべながら沢田は答えた。
「それなら仕方ないな」
ジェーンが助手席から振り返って言う。
「沢田さんはフランスには?」
「行った事ないよ」
「じゃあ、仕事が終わったら私が案内しますよ」
二階堂が言う。
「日程の調整が出来たらお知らせします」
沢田のフランス行きが決まってしまった。
フィリピン・パラワン島。
ゲリラ組織、NPAのアジトのひとつを沢田と襲撃して人質を救出してから2週間が経っていたが、イザベルは未だにパラワン島にいた。
アジトを潰された事と、予定していた金が入らなかった事、それと仲間を大勢消された事で、NPAのパラワンでの活動が活発化していた。
パラワン州知事は国軍の出動を要請し、マニラからも50人の兵士が応援に来ていた。
しかし、ゲリラの神出鬼没の活動に対しては軍隊だけでは無力だった。
情報を得る力が無い、情報を得ても即座に活用する訓練を受けていないのだ。元より米軍がフィリピン軍をバックアップしているが、情報の収集と活用でもCIA の力が必要だった。
米軍からと言う事で、イザベルがパラワンにいるフィリピン軍の司令官の1人のようになっていたが、それを気に入らない者もいた。
数日前、プエルト・プリンセサ飛行場内にあるフィリピン空軍のハンガー(格納庫)で3人の隊員がタバコを吸っているのをイザベルが見つけた。
外で吸えと注意したイザベルが着ていたのはジーパンとタンクトップだった。勤務の終了後だったのだ。
数日前からイザベルに目をつけていた3人はイザベルを襲おうとした。
1人がイザベルを後ろから羽交い締めにし、1人は前から足を持とうとした。もう1人はハンガー入り口のドアを閉めに走った。
その僅か2分後に3人の迷彩服を着た隊員はコンクリートの地面に横たわっていた。
1人の背中を踏みつけてイザベルが彼らに言う。
「みんな、もっと運動したい?」
背中を踏まれている男が言う。
「じゅ、十分です。済みませんでした」
立ち上がった他の2人にイザベルが向かう。
「あんた達は? もう元気ないの?」
「済みませんでした!自分達が間違ってました」
イザベルはハンガーを後にして、プエルト・プリンセサで足がわりにしているスズキの『スイフト』に乗った。
CIAで現場にエージェントとして出る場合、格闘技は必須だった。身体の小さな者は日本の合気道から取り入れた関節技からの投げ等も重要になる。
イザベルの格闘技のスコアは10点満点中9.2点で、他の男性現場エージェントの9点を上回っていた。
宿舎代わりのホテルに向かってスイフトを走らせながら独り言を言う。
「女の上司に従うのが嫌なのは分かるけど・・・バカじゃないの」
イザベルは2週間前に日本から来たサワダという冴えない風体の男を思い出していた。見掛けと全く違う男。
市内のホテルの部屋に戻り、エアコンのスイッチを入れてシャワーを浴びる。汗を洗い流した若い肌は水を弾いていた。
シャワーを終えてバスタオルを身体に巻いて部屋に戻ると停電だ。安いホテルなのでジェネレーターがない。
ため息をついてベッドに身体を投げだした。
『停電が多すぎ!』
ふと、中国の不気味な圧力を思い出す。
パラワン島の西側に広がる南沙諸島と南シナ海の領有権で、フィリピン政府と中国政府が対立した。
中国の資金力の前にフィリピン政府が折れた形になっているが、北京に潜伏しているCIAエージェントからの情報では、中国政府がフィリピンに対して電力テロをちらつかせて同意に漕ぎ着けた可能性が有ると言う事だった。
フィリピン中を網羅する送電企業NGCPの株40%を中国の国家電網が保持し、実質上フィリピンの送電は中国政府の支配下に有る。
その気になれば中国からフィリピン中の送電を切ることも出来る。
国家電網が持つ以外のNGCP株も、多くは中国福建省出身の華人が興したフィリピン財閥が保持していた。
こんな事を気にするフィリピン人は皆無に等しいが、実際は中国の青竜刀を首に突き付けられているのがフィリピンという国だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます